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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
ジュニア外伝 ~あれから次の旅立ちまで~
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4、なんだか嫌な旅立ち

 すべての残務処理が終わって、日常が戻ったのは約半年後。

 ロベルトは今なお不安定だが、自分がいない方がいいだろう。そう判断したアズールは本来の目的を果たすべく、家を出ることにした。


「これからちょっと旅に出るよ」

 ある日の朝、朝食時にアズールが告げた。


 もちろん家族は全員初耳である。面食らった後、猛反対した。

 しかしアズールのことを深く知っているからこそ、非難はするものの止めはしなかった。


「アーサー、後は頼んだよ」

「任せてよ」

 二人は固く握手した。


「何かあったらアーサーを頼ってね」

 母もミーナも頷いた。というか、元よりそうして暮らしていたのだ。何も困ることはなかった。


「ロベルトは……」

 さっさと朝食を食べて学校に行ったので、もうこの場にはいない。

 結局何も話さず別れることになってしまった。

「ま、また会えるからいいか」



 細々とした荷物を袋に入れ、右肩に担ぐ。これからの長旅を考えると少なすぎる荷物だ。だから誰も長旅になるとは思わず、近所に出かける調子でアズールを見送った。


「いってらっしゃい」

「みんな元気で」


 アズールはクルス行きの船に乗り、バーハタへ向かった。やり残したことをするために。


    ×    ×    ×


 長い道のりを越えて、アズールは父がいる坑道に戻ってきた。

 留守を守る妖精は、嬉しそうにアズールを歓迎した。知らないうちに坑道を守る妖精は増えており、みんなが留守の間のことを教えてくれた。

 あれから半年以上が経過していたが、特に何もなかったようでひと安心だ。


 アズールがやり残したのは、神殿の建築である。

 今ここは何もない岩盤だが、間違って再度発掘されたら困る。だから誰も入らないように、穴の上に神殿を作ることにしたのだ。



 木材のないバーハタでは、石造建築が主流である。魔力を使って瞬時に建築することもできたが、ジュニアはあえて手作業にこだわった。一人で黙々と岩を運ぶ日が続いた。


 アズールの光景はよほど異様だったのだろう。一カ月ほど経った頃には、異国人が何かしているとしてマーリマリで話題になった。

 冷やかしや野次馬が集まったが、アズールは一心不乱に石を積んだ。多くの人がアズールの気が触れていると思った。大半の人が彼を毛嫌いした。


 だが一部には応援者が現れた。ひたむきに石を積む様子に心を打たれ、徐々に協力する者が現れたのだ。もちろんアズールがお願いしたことも強要したこともない。自然と人が集まり、自ら石を運んだのだ。


 その輪はどんどん広がり、気づけば常時三十名が作業に加わった。一度きりの人物や資金提供の協力者を加えれば、その三倍以上の人物が建築に関わっている。



 作業人数が増えたおかげでスピードアップした。

 途中から建築家が参加し、緻密な設計図を作ってくれた。そのおかげで荘厳かつ堅牢な神殿が作れたのである。ちなみにこの神殿はバーハタ最古の神殿として、数千年を越えてもなお現存している。


 ところが完成が近づくほどに、ジュニアは沈むようになった。



「いったいどうしたのですか?」

 建築開始から半年後のある昼に、アマリーが尋ねた。彼女は建築者たちの食事を用意する係として、町から昼食を運んでくる存在だった。


「ああ、ごめん。せっかくのご飯なのに、美味しそうに食べなくて」

 ジュニアは無理に笑って、残りの料理を食べた。


 ちゃんと美味しいアピールをしたが、アマリーは首を振った。


「私には賢者様が何かを心配しているように思うのです」

 豊富な知識を持ち、人々に的確な指示を与えるアズールは、マーリマリの人々から賢者様と呼ばれていた。

「いったいどうされたのですか?」


「いやね、うん。そろそろ行かなきゃなって思って」

「困ります。まだ完成していませんのに。行くのがお嫌なら、いつまでもこの町にいてください」

「そうじゃないんだよ、うん。そうじゃないんだ」

 アズールは食後のお茶を飲み干すと、じっと空を見た。だがその目はここではないどこかを見ていた。


 アマリーはなんて声をかけていいかわからなかった。ただジッとアズールを見つめていると、アズールはアマリーに微笑んだ。

「ごちそうさま。いつも美味しいご飯をありがとう」

「いえ」

 アマリーが次の言葉を見つけ出す前に、アズールは元の作業に戻ってしまった。


 考えすぎかしらとアマリーは思った。次に会った時にまたお話ししよう。そう思って一度村に帰った。


 その日の夕方。マーリマリの町に戻った一行の中にアズールはなく、そのまま姿を消してしまった。そして二度とマーリマリの町に戻ってくることはなかった。

【本当に本当にありがとう】

 最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。アズール(アズールシニア)が主人公の物語は、これにて終了です。なんだか寂しくなりますね。


 アズールの子供たち全員に特別な物語を用意しているのですが、完成までに時間がかかっています。お待たせして申し訳ないのですが、最高に面白い形でお届けしたいので今しばらくお待ちください。

 準備ができ次第アップするので、ぜひ本作をブックマーク登録してくださればと思います。(続編は別作品として投稿しますが、連載スタート時に本作最後に予告をアップします)


 もし「こんなのが読みたい」というリクエストは、ぜひ感想にてお知らせください。可能な限りお応えしたいと考えています。(もちろんまおまちシリーズ以外も歓迎!)


 ちなみに、同作者の別作品を読むなら、連載中の「外面ガール」がオススメです。ぜひ「ソトヅラ」で検索してください。まおまちとテイストは全然違いますが、ある意味でめっちゃ面白いと思います。


 最後に。あなたの貴重な時間を本作に使っていただけたこと、重ねて御礼申し上げます。また次の物語でお会いできることを楽しみにしております。

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