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天使からの警告


「こんにちは。ティグリスさん」


魔法が掛っているはずの扉がいとも簡単に開き、一人の青年が俺達の部屋に入ってくる。

彼がノースリーフ校指定の漆黒のローブを翻し、ふんわりとした黒髪を掻きあげる。

天使の様に柔和な顔がこちらに微笑んだ。俺は口を開いた。


「セーレさん?」

「ふふ、僕の名前覚えてくれたんだ」


セーレが如何にも感動したと言わんばかりに片手を胸に当てた。神父のような仕草だった。

俺は敢えて、親衛隊の猫かぶり口調でゆっくりと尋ねた。


「なんでぇ、僕達の部屋に入れたんですかァ?」


こういう時、元のティグリスの態度は大変助かる。

俺の背後でグライドとダグラス、そしてフォウフォウが動く気配を感じた。

おそらく、三人ともセーレが妙な動きをした瞬間に斬りつけるつもりなのだろう。

確かに部屋の魔法を解除してくるなんて、普通じゃない。

でも、これが他校なら、そうノースリーフ以外の生徒ならそこまで警戒をしないだろう。

それだけ、彼等ノースリーフの人間は俺でさえ“普通”じゃないと感じる何かがあった。


「迷わずにティグリスさんに会えた」

「質問に答えてくれなぁい?」

「……いいですよ」


セーレが頷いた。


「僕と貴方の二人だけですが」


え、と俺が声を発するのと同時にセーレが右手をかざした。

慌ててグライドが俺の前に飛び出すが、それよりも速くセーレの手から溢れた黒い風が俺を取り巻く。

風の拘束魔法。もがいても、手は空をすり抜けるだけで効果がない。俺の体は、宙に浮き上がり。

やがて全身が黒い風で覆われてしまった。


「貴様!!隊長を離せっ!!」

「ティグリスさん!今助けます!!」

「ガウッッ!!!」


皆が一斉にセーレに飛びかかるのが見えた。

セーレは、口の形だけでいびつに笑ったあと、ぽつりと呟いた。


「駄目だよ。動かない」


瞬間、皆がまるで時間でも止まってしまったかのようにその場で固まってしまった。


「み、みんなッ!?おいっ、テメーコイツ等に何しやがった!?」

「あれ?そっちが本性?ふふ、面白いね」

「うるせぇよ。質問に答えろっつーの!」


俺はセーレに怒鳴りつけた。本性だとか隠している場合ではない。

もしかしなくても、かなり不味い状況じゃないのか。

全員の動きは封じられ、魔法も大剣も何度試みようと表に出すことが出来ない。


「大丈夫。僕は君達に危害を加えたいんじゃない。

ただ、ティグリスさん。貴方に警告しにきたんだ」

「は?警告だぁ?!」

「そ、警告。君の未来の警告だ」

「なんだよ、その警告って」


 勿体ぶるセーレに俺は苛つきを露わにして言った。セーレが嬉しそうに微笑む。


「次の試合、棄権しなさい」

「は?」

「棄権しないと、大切なものを失うよ」


 セーレが諭すように言った。

口調は優しく穏やかなのに、どこか上から目線な反論を許さないような物言いが腹立つ。


「………なんだよ、結局のところ脅しじゃねーか。

そんなにしてまで優勝してーのかノースリーフ校ってのは、騎士の風上にもおけねーな」

「優勝?違うよ。僕はティグリスさん貴方の事を思って言ってるんだ。

これは僕の独断。本当はかなり危険なんだけどさ……気まぐれかな?」


 セーレが寂しそうに答えた。

 何が彼にとって危険なのか、全く興味はない。

もし、本当に危険を冒してまで俺に警告をしてくれたのだとしても、こんなやり方で教えられたところで、誰がそれを信じるっていうんだ?


「それはどーも。でも、棄権はしねーから」

「………そ、残念。でも、僕は警告したからね」


 セーレが金色の瞳を眇めた。素直に警告を受け入れない俺に呆れたとでもいいたいのだろう。

冷えた宝石のような視線に俺は真っ向から睨み返す。


「天使みてーな面して、やる事が卑怯なんだよ。

言いたい事はそれだけか?なら、早く俺達を解放しやがれ」

「天使?僕が……?」


 俺が言った“天使”という言葉にセーレが反応する。


「僕のこの姿を見て、“天使”などと言う人は初めてだ」

「いいから、早く放せっての!」

「そうだね」


 セーレが握っていた掌を開くと黒い風が一瞬にして消滅する。

宙から落ちた俺をセーレがキャッチしながら、最後に小さく呟いた。


「君の天使からの警告、もう一度よく考えてね」


パツン


「ふぜけッッ!!……いったぁ!!!?」


 セーレを殴ろうとしたが何故か俺の拳は壁を殴りつけていた。

俺は思わぬ痛みに涙を堪えながら、その場で悶絶する。


「隊長、何を一人でやってるんだすか。馬鹿ですか?」

「え?」

「ティグリスさん、どうしたんですか?」

「は?」

「隊長、寝ぼけたのかニャ?」

「ふぇ!?」


 顔を上げると皆が呆れた顔で俺を見ていた。

いる位置もセーレが部屋に入る前のまま、手には剣を握っていない。

おいおい、これは、どういう事だ?


「何って、だってさっきまでセーレが!」

「セーレさんですか?何をまた変な事を…この部屋に入れるわけがないでしょう」

「そうですよ。ティグリスさん。この部屋には厳重な魔法が掛けられているんですから」


 皆、記憶が消されている?


「あ、それより見て下さい。次の対戦相手が決まったみたいです」


『ノースリーフ校VSユミリル校』


 ノースリーフ校のセーレって、いったい何者なんだ!?

俺は、釈然としないまま対戦校の文字を見つめた。

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