依頼主は王女様
ちょこっと改変。
さて…1 日間を置いて、その間仕入れた情報を整理するとしよう。
――コンッ――
依頼人から送られた座標は、大陸東方…拠点から丸一日掛けて進めば辿り着く距離にある…位置的には小国の〝サリバン王国〟だろう。
「サリバン王国は隣国のロクサスと常々睨み合っている状況で、小競り合いも絶えないらしい…だとするなら、それなりの軍備が有って然るべきだと思うが…」
「…傭兵に、依頼を出した……それが疑問ですか、マスター?」
ローズの言葉に俺は頷く、地形から見てもサリバン側にはロクサスとの間に挟まる様な小さな山岳が有る…外縁は【廃材の外界】で覆われ、外縁に接した諸国は大陸内部を迂回するか、リスクを取って突っ切るか、更にリスクを積んで外界を経由する選択肢に晒される。
「その上で、山岳に拠点を構えればサリバン側は大分と有利に防衛出来るだろう…実際、ロクサスとサリバンの戦争風景に周辺諸国が騒がない程度には頻発した上、国境に変化が無いなら、サリバンは今言った通りに要塞を併設している筈だ」
ロクサスより少ない兵力で、戦線を維持出来る筈だが…さて。
「……考えられる可能性は2つ、1つはサリバンの軍備にトラブルがあり、通常兵力、及び予備兵をそう安々と動かせない事情が有る」
「もう1つは、何でしょう」
「――ロクサス側の技術レベルがブチ上がって、既存の防衛戦力では防衛不可能に成った…か?」
何方もあり得る事だ…なんせ小国同士の小競り合いなんざ大国の…特にエセルポット企業連盟にとっては実に都合が良い〝稼ぎ場〟なのだから。
「〝死の商人〟…エセルポット企業連盟がロクサスに次世代の戦争兵器を持ち込んだ…ロクサスはソレを買い、戦争を起こす…サリバンは既存の常識を超えた兵器に戦況を返されて大混乱、指揮系統が麻痺しての苦肉の策が俺達…筋書きとしてはこんな所か」
だが、エセルポットも折角の〝稼ぎ時〟をそう安々と手放しはしないだろう…戦況を長引かせる為に、サリバンが苦境に成った頃を見計らって接触してくる筈だ…。
「―と、憶測は此処までにしておくか…見えて来た」
移動する事暫く…太陽が大地の醜さとは無縁の快晴の中心に立った頃…廃材と薬品臭で満ちた【外界】の外壁が薄れ…その先に広大な大地が見える…そして。
「――で…アレが〝サリバン〟か」
その視線の先には、都市全体を覆う近代的な鋼鉄の外壁が、遠目に見ても分かるほど広く聳え立っていた。
「――一先ず、中に入って依頼主に会う所からだな…確か依頼を受領した時に身分証を発行されてた筈だ…コレが有れば通れるだろう」
一望する廃材の山以外の景色を堪能しつつ、俺達は仕事相手――〝サリバン王国〟の依頼主との接触に赴くのだった。
○●○●○●
――ザワ…ザワ…――
正午、民の活気で賑わう王都の大通りは…普段とまるで異なる様相を見せていた。
「……ねぇ、アレ見て…」
ある貴婦人達は、大通りを進む一団へ奇異と不信感を露わにし。
「やっぱり、今回の戦争は何時もと違うのか…?」
「…大丈夫なのか、この国は…?」
また、ある労働者達は口々に憂いを零しながら…その一団を見やる。
――カシャンッ…カシャンッ…カシャンッ…!――
それは、大通りを突き進み…金属音を鳴らして進む…錆鉄色のパレード…無表情な鉄機達を従える銀髪の男の鋭い視線と、威圧感…それが、この王都の大通りを異様な空気で満たしていた。
――タッタッタッ!――
「あ、こら!」
「――うわぁッ、カッコいい!」
そんな、誰もが近寄り難い空気に気圧されていた中…群衆の中から、母の制止を振り切って…一人の少年が男の側に近寄る。
「お兄さん、このロボットさんに触ってもいい!?」
「こら、馬鹿な事言うんじゃないの!」
そして、騒ぐ少年を母親らしい女が慌てて止め…男に余所余所しく謝罪する。
「ごめんなさいウチの息子が…その、直ぐに退くので…!」
「え〜ッ、もっと近くでみたい!」
「わがまま言うんじゃありません!」
そんな親子の問答を聞いていた男と周囲の空気に緊迫感が満ちる…群衆の視線は男へ向き、男が目の前の親子にどう対応するのか、ハラハラとした面持ちで見守る中…不意に、男が一歩踏み出す。
「――悪いな少年オジサンは今から仕事でな、暫くこの国に居るから、ロボットと遊ぶのはまた今度だ」
そして、予想外にも…その鋭い目と冷たい無表情から繰り出された穏やかな言葉に、周囲の人々は一瞬驚くと…その隙に男は青年に別れを告げ、先を進む…。
そんな、予想外ながらに微笑ましい光景を―――。
「……」
王城の窓辺から、一人の娘が望遠鏡越しに覗き見ていた。
「お嬢様、応接室の準備が終わりました」
「ありがとう爺や、彼等が来たら応接室に通しておいて」
「承知致しました」
●○●○●○
さて、門兵に銃口を向けられたり在住民から胡乱な目で見られたり、城内の警備兵に再三警戒されたりと、紆余曲折ありつつも、俺達は広い応接室に通される。
「――お茶をお持ちしました」
「あぁ、有り難う」
案内人の執事から茶を出され、ソレを飲みながら周囲に視線を配る。
――ジッ――
絵画の目の奥にある、レンズの光沢。
――ジッ――
シャンデリアの装飾に覆われた黒色の小さな筐体。
――ジッ――
造花を差した花瓶の、その奥から覗く…〝鋼鉄の視線〟…。
(当たり前と言えば当たり前だな)
城内を通る事が許された身とはいえ、万が一があっては事だからな。
「…ふむ、美味いな」
肩の力を抜き、電子の世界で味わう紅茶の美味しさに舌鼓を打っていると…その時、不意に応接室の扉越しに気配がする。
「――失礼します」
程なくして、鈴のように澄んだ声と共に扉が開き…一人の少女が姿を見せる。
「ッ……」
〝赤く靡く長髪〟に…凛々しさを持つ美貌…大きく美しい瞳に宿る、強い意志…ソレ等を内包した美しい娘が…どうやら、俺の依頼人だったらしい。
「?……どうかされましたか?」
その姿に一瞬、〝懐かしい顔〟を思い出す…だが、その声に俺は首を横に振り、彼女の疑問に答える。
「…いや、悪い…ただ少し、昔の知り合いと重なってな」
「…そうですか」
俺がそう言うと、少女はそれ以上聞くことは無く、俺の対面に座る…するといつの間にか側にいた執事が少女の少し後ろから此方を注視していた…〝監視と警護〟…と言った様子だ。
「先ずは自己紹介を致しましょうか…私は、〝ヴィオラ〟…【ヴィオラ・ディア・サリバン】…この国の現国王クイドラ・ディア・サリバンの娘です…以後お見知りおきを…【アイン】様」
そして、娘…この国の王女であるヴィオラがそう言うと…俺はそれに対して、此方も自己紹介で応える。
「あぁ…俺は【アイン】だ…ただのアイン…宜しく、王女様」
そして、互いに軽い自己紹介を終えた後…先手と言わんばかりにヴィオラが本題を切り出した。




