第24話 《いざ、奈良・京都修学旅行!》
日中も涼しくなり、秋の訪れを感じるようになってきた頃、俺達は来週から2泊3日の修学旅行に行くことになっている。
目的地は奈良と京都だ。1日目は奈良、2日目3日目は京都を回る予定になっている。
基本的にはクラスごとの集団行動だが、最終日は完全自由行動となっている。今日のHRでは、行き先や日程など書かれたしおりが配られ、部屋割りなども決めた。
その日の帰り道、俺と柚月は修学旅行の話をしながら帰路に着いていた。
「いよいよ来週修学旅行だね~。京都初めてだよ」
「去年からから楽しみにしてたよな。中学の時はどこだったんだ?」
「東京だったよ。東京タワーとか行って、夜にランドに行ったかな」
「俺も同じく東京だったけどランドには行かなかったな。ところで部屋割りは誰と一緒なんだ?」
「僕は井上さんと辻本さんの3人部屋だよ。二人が気を利かせてくれてね。奏汰は?」
「俺は竹内と藁科の3人部屋だな」
「なんかいつものメンバーって感じになってるね」
「だな」
「あっ、ちょっとドラッグストア寄っていい? 辻本さんからメモ渡されたんだった」
「辻本から?」
「うん。女の子は色々必要なんだって。この前の林間合宿でスキンケア系何も持っていかなかったから今度は持っていくようにって。100均でシャンプーとか入れる小さい容器も買わないと」
「シャンプーはホテルに備え付けのあるんじゃないのか?」
「僕もそう思ったんだけど、いつも使っているシャンプーの方が良いんだって。合わないのを使うと、仕上がりが違っちゃうらしい」
「そういうのもなのか」
俺達は帰り道にあるドラッグストアに寄った。
店内に入ると、柚月は真っ先にスキンケア用品コーナーへ向かった。
「えーっと、化粧水と乳液と―――」
柚月はメモを見ながら、次々と商品をかごへ入れていった。
かごの中には俺にはあまり縁のない商品ばかりで、何が必要なのか、これがなんなのかとかさっぱり分からない。
「あとは保湿クリームとウェットティッシュと―――」
「まだあるのか」
「女の子は色々大変なんだよ」
「そういうもんなのか」
「そういうものなのです」
柚月はそう言って、少し得意げに商品をかごへ入れていった。
以前なら、こんな買い物をすることはなかった。
「ん~……これも必要かな?」
スキンケア商品を見ている姿を見ていると、柚月が本当に女の子として学校生活を送っているんだと、改めて実感する。
修学旅行当日。俺達は荷物を持ち学校へ向かっていた。
着替えなどはあらかじめホテルまで郵送してあるため当日の荷物は小さいリュック一つだけだ。
学校からバスで駅まで移動し、そこから新幹線で京都駅へ向かった。
車内は高校の貸し切りのため凄く賑やかだ。
俺と柚月も自由行動でどこを回るかなどで盛り上がっていた。
「ホテルからだと時間や距離的にこの辺りが限界だな」
「それだと、このアニメの聖地は回れそうだね。こっちはさすがに遠いよね」
「このアニメの聖地は海側の方だからな。でもこのアニメの聖地は近くだから回れるぞ」
「それじゃぁこの辺りを回ろっ」
「だな」
新幹線は京都駅に到着。その後、俺達は用意されたバスに乗り最初の目的地の奈良公園で有名な東大寺へ向かった。
駐車場に到着すると、集合時間までは敷地内を自由に散策できることになっている。
俺は柚月と一緒に奈良公園を散策することにした。
公園内には数多くの鹿がいて、あちこちを自由に歩き回っている。人が近くを通っても気にする様子はなく、のんびりと草を食べている鹿もいれば、観光客の後をついて歩いている鹿もいた。
「鹿がいっぱいいるね。あっ、寄って来た」
「意外と近くまで来るんだな。向こうの売店で鹿せんべい売っているからあげてみるか?」
「あげたい!」
売店で鹿せんべいを買うと鹿はすぐにやって来た。そして俺は鹿に囲まれ、柚月は俺より多くの鹿に囲まれていた。
「おっ、食った。お辞儀するなんて礼儀正しいな。柚月見てみ、ちゃんとお辞儀を―――」
「ちょっ、待って。今、あげるから! 順番、順番!」
柚月は鹿にあたふたしている。
すると、鹿の猛攻を避けようとした拍子に、手に持っていた鹿せんべいをうっかり落としてしまった。鹿たちは一斉に地面へ群がり、あっという間にせんべいを食べ尽くしてしまった。
目当てのせんべいがなくなると、鹿たちは何事もなかったかのように散っていった。
「全然手渡しできなかった~……」
「まぁ、最初はそんなもんだろ。次は大仏見に行こうぜ」
俺達はそのまま東大寺を見学した。
昼食を済ませた後は、次の目的地である法隆寺などを観光し、再びバスに乗って京都へ戻った。
ホテルに到着すると、ロビーに届けられていた自分の荷物を受け取り、その場で簡単なミーティングをした後、各自部屋に戻った。
夕食の時間まではゆっくりできる。
ラフな格好に着替えた俺は同じ部屋の竹内と藁科と駄弁っていた。
「今日は結構歩いたな」
「奈良公園だけでもかなり歩いたし」
「あ~、腹減った~」
「竹内。夕食って何時からだっけ?」
「えーっと、夕食は18時から。その後は20時から入浴で22時に消灯。その合間が自由時間って感じかな」
「夕食って席は自由なんだっけ?」
「クラスごとだと思うけど、その中での席は自由じゃないかな」
「なら早めに行って席確保しようぜ!」
「まぁ、ここで駄弁ってても同じか。俺はいいけど、竹内はどうする?」
「俺も行くよ」
「よし、決まりだな。そんじゃ1階に行くか」
「その前に俺ちょっとトイレ寄ってから行くから先行ってて」
「分かった。場所取ってるぞ」
「頼む」
夕食は待ちに待ったバイキング形式だ。
部屋を出た俺は1階に行くためエレベーター前で待った。
しばらくするとエレベーターが到着し、ドアが開く。
中にいたのはラフな格好をした柚月の姿があった。
「あれ? 奏汰ももう夕飯に行くの?」
「『も』ってことは柚月も?」
「そだよ~。井上さんが早めに行って席確保しよって言い出してね」
「こっちも藁科が同じこと言ってた。二人は先行ったけどな。ところで井上さんと辻本さんは?」
「先に行ってるよ。僕は部屋にスマホを取りに戻ってただけ」
俺達はそのまま1階へ向かった。
バイキング会場に着くと、すでに何人かの生徒が席に座り、楽しそうに会話をしていた。
壁際のテーブルにはホテルのスタッフが料理や取り皿などを準備している。
竹内と藁科を探していると遠くから井上さんが手を振ってきた。
その隣には辻本さんと藁科が座っている。
向かいには竹内が座っていて、その隣が二席空いていた。
俺と柚月は竹内の隣に並んで座った。
開始時刻になると、先生の指示で点呼が行われた。その後、先生からこの後の予定について簡単に説明があった。
そして、いよいよバイキングのスタートだ。
「食うぞーっ」
「私もー」
藁科と井上さんはすぐに料理が並べられているところへ向かい、その後ろを辻本さんと竹内が歩いて行った。
「俺達も取りに行くか」
「うんっ」
俺と柚月も料理の場所へ向かった。
唐揚げやミニピザ、豚汁など和洋中様々な料理が並んでいる。
皿に好きなものを取り、席へ戻って食べ始めた。
「これ美味いな。柚月、これ好きそうな味だぞ。食ってみ」
柚月は俺の皿から料理を一つ取り口に運んだ。
「美味しいーっ! あとで取ってこようかな」
「唐揚げの隣辺りにあったぞ」
「これはどんな味かな? ……んぐっ!」
柚月は料理を口に入れた瞬間動きが止まった。
するとすぐに飲み込んで別の料理を口に入れる。
「どうした?」
「これ、上にかかってるソースが辛い……奏汰ぁ、食べて」
今度は俺が柚月の皿から、辛いという料理を取った。
見た目からしてそうは見えない。
口に入れた瞬間ピリッとはしたがそこまでは辛くはない。
「うん、これくらいなら全然食べれる。全部貰ってやるからこっちの皿に移しな」
「ありがと~」
そう言って柚月は俺の皿にピリ辛の料理を移した。
それを見ていた井上さんはなにやらニヤニヤしていた。
「なにか言いたそうだな」
「別に~。あっ、ねぇねぇ、みんなは自由行動どこ行くの?」
「俺は柚月とアニメの聖地回ろうかなって。竹内は委員会のメンバーと回るんだよな?」
「そうだよ。委員会のメンバーで寺をゆっくり見て回る予定」
「俺は部活のメンバーと適当に見て回ろうかなって。二人は?」
「私たちは色々お店行く予定だよ。ねっ、彩葉」
「甘味処とか和物のお店とかね」
俺達は食事をしながら、自由行動の予定や今日観光した場所などについて談笑をした。
夕食も終わり俺達は各自部屋に戻った。
別れ際、柚月は少し寂しそうだったがさすがにお互いの部屋へ行くわけにはいかない。
部屋に戻るとすぐに藁科は他の部屋へ遊びに行き、竹内は部屋で小説を読み、俺はスマホでゲームをして時間を潰した。
「そろそろ風呂の時間か。俺、早めに入って来るけど竹内はどうするんだ?」
「俺はこれ読み終わったら入るよ」
「そっか。そんじゃ俺、行ってくるわ」
俺は一人で大浴場へ向かった。
さすがに入浴可能時間になったばかりということもあり、入る生徒はまだ少ない。おかげで、ゆっくり入ることができた。
風呂から上がった俺は、売店で飲み物を買い、部屋へ戻ろうロビーを歩いていた。
すると、ロビーのソファに座っている柚月の姿が見えた。
声を掛けようと近づくと柚月は普段より無防備姿だった。それになんだか上の空って感じだ。
どうやらファスナーをきちんと締めるのも忘れているみたいだ。胸元が少し見えてしまっている。
柚月は俺が来たことに少し遅れて気が付いた。
「ん? あ、奏汰。いたんだ。どうしたの?」
「いやいや、それは俺のセリフ。なんかボーっとしてるけど、どうしたんだ? てか、まずは服整えろって。家じゃないんだし」
「ごめんごめん」
柚月は慌てる様子もなく。ゆっくりファスナーを上げた。
「奏汰はお風呂上り? ここの大浴場広いよね~」
「確かにめっちゃ広かっ―――……ん!? 大浴場行ったのか?」
「今さっきね。僕は部屋のシャワーで良いって言ったんだけど井上さんたちに連れていかれた……。疲れちゃったよ……」
「それは大変だったな」
そう答えながらも俺は少しだけ羨ましいと思っていた。
俺は就寝時間ギリギリまで、ロビーで柚月と話をした。
ここ最近の事や明日の事など、他愛もない話をしていると、柚月の表情も明るくなっていった。




