第22話 《台風がくれた、いつもと違う一日》
朝、俺は風で窓がガタガタと揺れる音で目を覚ました。
カーテンを開けると、空は厚い灰色の雲に覆われている。
テレビを点けると、ニュースでは台風の最新情報が流れていた。
スマホを確認してみたが、残念ながら休校の連絡は来ていない。
―――仕方ない。さらに悪化する前に学校へ行くとしよう。
家を出ると、すでに雨が降り始めてきていた。
傘を差し、少し小走りで柚月の家へ向かった。
何とか柚月の家に着き、インターホンを押すと柚月が応答に出た。
『えっ!? 奏汰どうして!? と、とりあえず中入って』
柚月は何やら慌てているというか驚いている感じだった。寝坊でもしたのかと思ったがなんかそういう感じの反応じゃない気がする。
玄関扉を開け中に入るとリビングから少し慌てた感じの柚月が出てきた。その姿は制服ではなく私服姿だ。
「なんで制服じゃないんだ?」
「奏汰は何で制服なの? 今日は休校だって、さっき学校からメッセージ送られてきてたよ?」
「え? いやいや、俺にはメッセージなんて―――あっ……」
慌ててスマホを見ると、学校から休校のお知らせが届いていた。
設定を見るといつの間にかサイレントマナーモードになっている。
そういえば昨晩、アニメ映画観るときに通知音が気になって消していたことを思い出した。
「マジかよ……。急いで来たのに……」
「この後、電車も計画運休するってニュースで流れてたよ」
「さっさと家に帰って二度寝でもするかな……。それじゃ帰るよ」
そう言って、再び玄関扉を開けた。
すると、先ほどよりも雨風が一層強くなっていた。
強い風で煽られた雨が玄関に吹き込んでくる。
俺は慌てて玄関扉を閉めた。
「うわぁ、外凄かったね。雨が止むまでここにいれば?」
「そうさせてもらうよ。あとタオル貸してくれ……」
俺は家に上がり、柚月と共にリビングへ向かった。
窓のシャッターはすでに閉められ、薄暗いためか家じゅうの照明が点いている。
リビングに入るとテレビでは台風の進路や現在の状況を伝えるニュースが流れている。
柚月は先ほどまで朝食を食べていたのだろう、テーブルには食べ終えた食器が置かれていた。
「はい、タオル」
「ありがとう」
俺は受け取ったタオルで髪や服を拭いた。
その間、柚月はテーブルの食器を流し台に持っていき洗い物を始めた。
「今日、両親は?」
「仕事だよ。朝、雨が降る前に出勤していった」
「大変だな」
髪を拭き終わった俺はテレビで台風情報を見ていた。
このままだと台風は俺達の住む街を直撃するみたいだ。
窓を叩きつける雨音が次第に強くなっている。
洗い物を終えた柚月もテレビの前にやってきた。
「うわぁ、凄いことになってるね」
「このままだと昼前にはここ直撃するな。通過するのは夕方頃になりそうだけど」
「それじゃぁ夕方まで家で足止めだねっ」
柚月はなぜか少し嬉しそうに笑った。
この台風の中、一人で過ごすのは心細かったみたいだ。
「そんじゃアニメ1クール、一気見でもするか」
「うんっ!」
俺は柚月と共に部屋へ行き、テレビでアニメを見始めた。
シャッターを雨が打ち付ける音が聞こえる。
その音をかき消すかのようにいつもより少し大きい音量でアニメを観続けた。
観るのに夢中で気が付けば昼時を過ぎていた。
「いつの間にかこんな時間だったのか」
「お昼にしよっか。奏汰はお弁当持ってきてるの?」
「いや、今日は休みになるかもって思って作ってもらってないんだ。購買で買う予定だったから」
「それじゃぁ僕が何か作って―――」
その瞬間、周りが突然真っ暗になった。
「ひゃっ! なになに!?」
「停電みたいだな。家中の電気点けてたから、ブレーカーが落ちたんだろ」
「だって、暗くて怖いんだもん……」
シャッターが閉まっているため照明が消えると辺りは真っ暗で何も見えない。
俺達はスマホのライトで周りを照らした。
「ブレーカーはどこにあるんだ?」
「えっと、確か台所の壁にあるはずだよ」
「じゃぁ、ちょっと見てくる」
「ぼっ、僕も行く」
俺達はスマホの明かりを頼りにリビングへ向かった。
廊下奥のシャッターが付いていない小窓から外を見ると、辺りは真っ暗で信号機の明かりも消えている。
どうやらこの家だけではないみたいだ。
「奏汰、ちょっと待ってよぉ~」
「怖いなら部屋で待って居ればよかったのに」
「だって独り怖いんだもん……」
柚月は不安そうに周囲を見渡しながら、震える声で俺の後ろについてきた。
俺はスマホで停電情報を確認する。
「地域全体の停電っぽい。待ってれば復旧するとは思うけど台風だからな。懐中電灯ある? 念のため、スマホの充電は残しておきたいし」
「確かランタンみたいな懐中電灯がリビングの棚に仕舞ってあったと思う」
「それじゃ柚月はランタン探して。俺は念のためブレーカー見て来る」
「わ、分かった。すぐに戻って来てね」
リビングに入ると俺は一応ブレーカーを見るため台所へ向かった。柚月はリビングにある棚をスマホのライトで照らしながらランタン型の懐中電灯を探した。
ブレーカーを見るとレバーが上がったままだ。やっぱり家の問題じゃなく電気そのものが来ていないらしい。
柚月の様子を見に行くと、椅子に乗って棚の上の方を探していた。
落ちないように、俺はそばまで行って見守ることにした。
「ありそうか?」
「確かここら辺に―――あったあった。新品の電池も置いてあったよ」
柚月はランタンと電池を手に取り、椅子から降りようとした。
「わっ!」
その瞬間、足元を踏み外した柚月が俺の方へ倒れてきた。
「柚月!」
俺は咄嗟に柚月を抱き止めた。
しかし、その勢いのまま二人とも床に倒れてしまった。
衝撃でスマホを落とし、辺りが真っ暗になる。
何も見えない中、柚月が俺の上に乗っているのが分かった。
―――今、一瞬、何かが触れたような……?
そんな考えが頭をよぎり、俺は一瞬固まってしまった。
急いでスマホを拾い、周囲を照らした。
そこには、口元を手で押さえながら、頬を赤らめた柚月の姿があった。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん。僕は大丈夫。奏汰も平気?」
「俺も何ともなかったよ」
「そっか。良かった。あっ、ごめん、すぐ降りるね」
柚月は慌てたように立ち上がった。
「おっ、お昼どうしよう?」
何事も無かったかのように、柚月は昼食の話を切り出した。
「停電していてもガスコンロは使えるはずだぞ。でも暗いから包丁とか使うのは危ないからな」
「カップ麺ならちょうど買い置きがあるからそれにしよ」
柚月は新品の電池を入れたランタンを点け、テーブルの上に置いた。
電気ポットは停電でお湯が出ないため、ヤカンでお湯を沸かした。
お湯が沸くのを待っている間、静まり返ったリビングには、シャッターを雨が激しく叩きつける音だけが響いていた。
先ほどより強くなっている。
スマホで台風の進路情報を確認すると、この辺りはすでに暴風域に入っているらしい。
やがてお湯が沸き、カップ麺にお湯を注ぎ3分待つ。
たった3分のはずなのに、この状況では妙に長く感じる。
タイマーが鳴り、俺達はカップ麺を食べながら他愛のない雑談を続けた。
「さっき停電情報見たら市内ほぼ全域で停電っぽい。復旧まで時間かかりそうだな」
「復旧するまで何しよう?」
「スマホの充電は残しておきたいからスマホゲームは出来ないし」
「それならボードゲームとかカードゲームやってみない?」
「あるのか?」
「何種類かあるよ。お父さんがね、親戚が集まった時にやろうと思って買ってたの」
「それじゃぁ部屋でやるか」
俺達はランタンの明かりの下、色々なボードゲームやカードゲームをやった。
こういうアナログなゲームも意外と面白い。だが、戦略とか駆け引きが必要なゲームとなると、柚月には全く敵わない。
「また俺の負けか~。あと少しで勝ったのに」
「裏の裏まで読まないとだよ。次はどれのゲームにする?」
「それじゃ今度は―――」
俺が次をやるゲームを選んでいる時のことだった。
前触れもなく突然部屋の照明に明かりが灯った。
「あっ、電気点いた」
「やっと復旧したみたいだな」
「そういえば外が静かだけどどうなったかな?」
柚月がシャッターを開けるとすでに台風は過ぎ、先ほどまでの雨風が嘘のように止んでいた。
俺も窓際まで歩み寄り、外を見た。
さっきまで暗闇に包まれていた街には、信号機や家々の明かりが灯っていた。
雨上がりの澄んだ空気がとても気持ちが良い。
「もうこんな時間だったのか。なんだか長いようで短かったな」
「ランタンで過ごすのも意外と楽しかったね。」
「たまにはこういう日も良いかもな」
「だね。あっ、奏汰見て! 大きな虹!」
西日に染まるオレンジ色の空には1本の綺麗で大きな虹が架かっている。
柚月はまるで子供のように嬉しそうにはしゃいでいた。




