第17話 《文化祭》
文化祭の準備も順調に進み、柚月も多少ながら接客が形になってきていた。まだ少し緊張感はあるが最初の時に比べるとかなりの成長だ。
文化祭前日の夕方。給仕係、料理係、宣伝係は明日朝の準備がある為早めに帰宅していき教室に残ったのは内装係のみとなった。
他のクラスも作業をしていて校内は夕方にしては賑わっていた。
日も沈み辺りが暗くなった頃、内装がようやく完成。後は文化祭当日を待つだけだ。
「内装終わった~。もう夜かぁ」
「学校に泊まり込みもやって見たかったけどね。他のクラスは泊まるらしいよ」
「てか給仕係は早く帰って休んだ方がいいだろ。俺達内装係は当日ほぼ自由だけど給仕係は忙しいだろうし。それに柚月の番は朝一だろ?」
「そうだけど。だって奏汰が残っていたから……」
「別に気にしないで先に帰って良かったのに」
「そういう意味じゃ――……」
「腹減ったし早く帰ろうぜ」
翌日、ついに文化祭が始まった。
10時の開催と共に一般客が入場して校内がいつも以上に賑わっていた。
柚月は午前中給仕係として働くため俺はその間独り文化祭を見て回った。
各クラスの出し物もなかなか面白い。後で柚月と一緒に見て回ろう。
校内をぐるっと一周見て回った後、自分の教室へ向かって歩いているとめっちゃ楽しんでいるだろう藁科と遭遇した。
両手には食べ物やゲームで取ったものだろう数多くの景品を持っていた。
「よぉ藁科、結構楽しんでいるみたいだな」
「交代時間までに楽しまないとだからな」
「何係だっけ?」
「俺は調理係。と言っても作ってきたパウンドケーキを切って皿に盛りつけたり飲み物を紙コップに入れるだけなんだよな。鷹尾は今から巡るのか?」
「いや、今下見に行ってきたところだ。後で柚月と一緒に回る約束してるからな。そういえばクラスの和風メイド喫茶行ったか?」
「さっき見てきたけどめっちゃ賑わっていたぞ。この調子だと噂が広まってさらに混みそうだから早めに行った方が良いぞ」
「そんじゃちょっと見て来るかな」
「俺は交代の時間まで楽しんでくるぜ」
そう言って藁科は俺とは反対方向に歩いて行った。
俺はさっそくクラスの和風メイド喫茶を見に行った。
教室内を見ると和風メイド服の女子が接客をしていた。
その中には柚月の姿もあった。少しぎこちないがなんとかやれているみたいだ。
入り口で見ているとそれに気づいた柚月がなんだか嬉しそうにこちらに来た。
見覚えのある和風メイド姿だが以前見たときよりはなんだか凛々しく見える。
「あっ、奏汰いらっしゃい。今混んでいるから並んでもらわないと」
「いや、様子見に来ただけだから。てか結構繁盛しているみたいだな」
「なかなか休む暇なくてね。もう少しで交代時間だから準備室で待ってて」
そう言い残し柚月は接客に戻って行った。
俺達クラスが使用している準備室で待って居ると交代した和風メイド姿の柚月がやってきた。
「おまたせ~。やっと交代の時間だよ……」
「お疲れさん。かなり忙しそうだったな。俺も行ってみたかったけど混んでたし」
「初日の最初なら人少ないかと思ったんだけどね。すぐ着替えるから待ってて」
柚月は準備室の隅にある衝立で区切られた簡易更衣室で制服に着替えた。
もう少し和風メイドを見ていたかった……。
制服に着替えた柚月が簡易更衣室から出てきた。
「お待たせ。早く文化祭巡ろ。なんかいい出し物あった?」
「そうだな~……お化け屋敷が面白そうだったな。後は射的とかもあったし色々あったな」
「全部行きたい!」
「そう言うと思ったよ。よし、行くか」
「うんっ」
俺達は文化祭を巡り始めた。
最初はお化け屋敷に行ってみることにした。
柚月はこれくらいなら多分平気と言っていたが―――。
「キャーッ! 怖い怖いっ!」
「ちょっ、そんなに抱き着くなって! 胸が当たってるから!」
思った以上にレベルが高かった……。
怖くて抱き着いてくる柚月を宥めながらなんとかお化け屋敷から出ることが出来た。
「うぅ……、あそこで驚かせるのズルいって……」
「確かにあれはビックリしたな。てっきり障子から手が出て来るかと思ってたよ」
「僕もそうも思ってたよ。まさか障子の下から出て来るとは……。叫んだらお腹空いちゃった。何か食べよっ」
「だな」
飲食店を食べ歩きながら巡っていると再び藁科と出会った。
さっきより持っている物が明らかに増えている。
「おっ、また鷹尾――と今度は小鳥遊も一緒か」
「藁科はまた荷物増えているな。どれだけ遊んでいるんだよ……」
「文化祭は楽しまないとだろ? てか小鳥遊が居るってことはもう交代時間か。次の給仕係は誰なんだ?」
「俺は知らん。柚月なら知っているだろ?」
「あ、うん。えーっとこの時間なら確か辻本さんと――」
「辻本!? 俺行ってくる!」
「いってら~」
藁科は全力で教室に戻って行った。
実は林間合宿で肝試しをしてログハウスに戻るとき藁科から聞いていたのだ。辻本さんの事が気になると。
そんなことを言われるのは漫画だけの事のように思っていた。
もちろんそのことを柚月は知らない。
「藁科君なんか急いでたね」
「女子全員の和風メイド姿でもみたいんじゃないか? それより次は射的やりに行こう」
俺達は射的屋をやっているクラスへ向かった。
机の上には色々な景品が並んでいる。
射的用の銃も本格的なものを借りてきたみたいだ。もちろん弾はコルクで出来ている。
最初に柚月がチャレンジした。狙っている箱のお菓子に当たるがなかなか倒れない。
「当たったのに落ちないーっ」
「箱の上の方当てるんだよ。中央狙っても威力が無いから無理だろ」
「そんなこと言うなら奏汰もやってみてよ」
柚月は銃を俺に託してきた。
俺は銃の先端にコルクを詰めボルトレバーを引き、狙いを定め引き金を引いた。
銃口から放たれたコルク弾は箱の上部に命中。箱のお菓子は綺麗に後ろに倒れた。
「おぉー、奏汰凄いっ! 一発でゲットだね」
「まっ……まぁな。こんなもんよ」
まさかこんなあっさり倒れるとは思っていなかった。
もちろん取ったお菓子は柚月にプレゼントした。
お菓子を食べながら歩いていると後ろから走ってくる足音が聞こえてきた。
「あっ! 居たーっ! 鷹尾君、小鳥遊ちゃん」
柚月をちゃん付けで呼ぶ声。振り返るとそこには息を切らし慌てた様子の井上さんだった。
「そんなに慌てて何かあったのか?」
「鷹尾君。小鳥遊ちゃん借りていい!?」
「借りるも何もなぜ俺に許可を? てかまず何があったか言ってくれないと」
「単刀直入に言うと小鳥遊ちゃん、今すぐミスコン出て!」
「ふぇっ!?」
その反応が当たり前だ。
俺だって突然の事で驚いている。
「待て待て待て。何がどうなって柚月がミスコンに出ることになったんだ?」
「実は―――」
井上さんは事の詳細を話し始めた。
ミスコンに出る人の数を間違え出場者が足りないこと。そして各クラスの実行委員がクラスメイトに声を掛けて回っていること。俺達クラスの女子は給仕係と料理係が忙しく今手が空いているのが柚月のみだという事。
「そういうわけか。でも柚月は人前で出るのは荷が重いだろ」
「そこを何とか! お願い小鳥遊ちゃん」
「あ、えっと……僕は――……」
今までの柚月なら即答で出ないと言っていただろう。しかし何やら悩んでいる。
柚月は昔から頼まれたら断れない性格だがさすがにミスコンは断りたいという気持ちが葛藤している。しかも頼んできているのが林間合宿以降仲良くなってきている井上さんとあっては断り辛い。
「で、出てみようかな?」
「ほんと!? ありがとーっ!」
「マジか……」
急遽柚月はミスコンに出ることになった。
楽しみな反面少し不安だ。




