ティナと恋バナ
「ねえ姉さん、最近ちょっと悩んでることあるんじゃない?」
ティナがエミリアの隣にちょこんと座り、にやりと笑った。夕食後のひととき、暖炉の火が心地よく揺れる室内で、二人はお茶を片手にくつろいでいた。
「悩み?」
エミリアは眉を顰める。
「別になにも...」
「うそー。最近アレクシス様とよく一緒にいるし、それになにか考えこんでいることが多い気がするのよね。」
エミリアは思わず苦笑した。妹の観察眼にはいつも驚かされる。
「ティナは恋愛の話になると、本当に勘が鋭いわね。」
「だって、私は領地ではモテモテなんだから!」
ティナは胸を張り自信満々に言った。
「姉さんの相談相手ぐらい、ちゃんと務まると思うよ?」
「...そうか。あなたはモテるのね。」
エミリアはティナをまじまじと見つめた。
ティナは黄金色の髪をゆるく巻き、ふんわりとしたドレスを身に纏ってる。ぱっちりとした翡翠色の目が輝き、年相応の無邪気さと聡明さが同居した可愛らしい顔立ちをしていた。性格も明るく人懐っこいティナなら貴族の社交界でもすぐに人気者になりそうだ。
「まあね。」ティナは得意げに頷いた。エミリアの心の声はどうやら口に出ていたらしい。
「それで?アレクシス様といい感じなんでしょう?」
ティナの再度の問いかけに、エミリアはふっと息をついて、静かに口を開いた。
「最近、婚約したいと思ってるのよね。」
「えっ!?」
ティナは目を見開き、思わずカップを落としそうになった。
「ちょ、ちょっと待って! どういうこと!? なんで急にそんなこと言うの!?」
「なんでって……」
エミリアはティナの反応に苦笑しながら、肩をすくめる。
「別に好きな人ができたとかじゃないわ。でも、ほら……ずっとお客様がいらっしゃるじゃない?」
「……ああ。」
ティナはすぐに察し、露骨に顔をしかめた。
「王太子殿下と、あのお妃様ね。」
「そう。」
エミリアはカップを静かに置いた。
「あの方たちがいらっしゃる限り、私はずっと自由じゃない気がして。」
「そりゃそうよね! だって婚約破棄したのに、ずっと姉さんに付きまとうなんて、どう考えてもおかしいもの!」
ティナはぷんぷんと怒ったあと、ふと真剣な顔になった。
「……それで、婚約したいって言うけど、相手は誰なの?」
エミリアは少し考えた後、ぽつりと呟いた。
「条件だけで言えば、アレクシスが一番いいのはわかってるわ。」
「まあ、帝国の師団長様だものね。」
ティナは頷いた。
「高貴な生まれで、実力もあって、姉さんにまで贈り物をするくらい気があるみたいだし。」
「……気があるのかはわからないけれど、少なくとも好意を示しているようには見えるわね。」
「それなら決まりじゃない?」
ティナが満面の笑みを浮かべる。
「……でも、レオが気になるの。」
ティナの目がぱちくりと瞬いた。
「レオ? 誰それ?」
「森で出会った冒険者よ。剣が美しく、無駄がなく、それでいて力強い。あの動きを見たら、誰でも目を奪われると思うわ。それに……彼の目には、強い意志が宿っているの。」
「ふーん……」ティナは興味深そうに唇を尖らせた。
「姉さん、そういう人が好みなのね?」
「好みとかじゃないわ。ただ、彼のことが気になるの。」
「でもさ、アレクシス様みたいに身分のはっきりしてる人の方が、将来的には安心じゃない?」
「……レオは貴族ではないって言っていたから、おそらく平民よ。でも、彼ほどの腕があれば、私が彼を押し上げることもできるし、きっと出世も早いはず。」
「へぇ~? じゃあ姉さん、レオのために尽くすってこと?」
「違うわ。」
エミリアは首を横に振った。
「私はただ、彼の可能性を信じてるの。」
ティナは一瞬、考え込むように黙ったが、やがて「……そっかぁ。」と意味ありげに頷いた。
「姉さん、今まであんまり恋愛とか興味なかったでしょ?」
「それは……」
「だって、あまり接点もなかったイケメンの王族との婚約だって、普通の令嬢なら有頂天になるか、好きな人がいたのにって嘆くはずなのに、姉さんは家のため、とかいって仕事みたいに淡々と王都に向かったじゃない?」
「...」 黙ったエミリアに、ティナは図星ね、と頷きながら続けた。
「そんな姉さんが興味を持つ人が出たなんて、とっても素敵じゃない。その人がどんな身分にせよ、辺境は姉さんがいれば安泰なんだから、興味が本物か気の済むまで確かめたらどうかしら。」
「ね!」そう言ってティナはエミリアの背中を優しく叩いた。




