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炉をもたらす錬金術師⑤

「さて、無事に逃げ帰る事も出来たので。改めて開拓作業か。懐かしいな」

「オーガの里で色々やった時以来だね~」

「私、それ知らない……」

「わたしも」

「イリーナも!」


 とはいうものの自分達でやる訳ではないが。


「ウッドゴーレム達は、街壁まで伸びた木々の伐採をしているみたいですね」

「ああ、もうそこまでいったか」


 街に入ったら、大きな岩や瓦礫がほぼ片付けられていた。

 港町を囲う石造りの壁の周りの木々も片付けてくれている。あそこが片付かないと木を登って魔物が入ってきちゃうからね。

 もちろん壁は作り直しだ。ベインと呼ばれる蛇により破壊されている部分が多すぎる。


「よし、じゃあ転移門を作るか」


 オレは魔法の鞄から真っ赤で大きな鳥居を取り出した。


「さて、向こうの準備はどうかな」


 鳥居の中央の空間が歪み、向こう側にダランベール王国の王城が遠くに見える。

 ダランベールの王都から離れた場所にジジイと一緒に作成した転移門だ。

 一応時間制限と、使用制限がある。


「よぉ、いきなりだな」

「どーも」


 そこから顔を出したのはダランベール王国第二皇子、シャクティール=ダランベールだ。


「思ったよりも早かったのぅ」

「これ以上些事にとらわれたくないんだ。大分お膳立てしといたからあとはそっちで片付けてくれ」

「ふうむ。しかし長生きするもんじゃな。まさか他所の大陸まで足を運ぶ事になるとはな」

「【遠目の水晶球】でも話したけど、ここにいたベインと呼ばれる大蛇のせいでこの港町は機能してなかったらしい。もう倒したがその大蛇は黒竜王の眷属の1匹だったらしいぞ」

「とんでもない話じゃなぁ」

「ああ、ミチナガに頼んでおいて正解だった」

「オレというかあんなのをさっくり倒した二人がえぐい」


 イドと栞の攻撃力よ。


「ライトの剣のおかげ」

「みっちーの脚甲がすごいんさ!」

「どうも」


 なんかヨイショしてくれている。


「港町自体はオレの所有物になった。街での収入があったら税金は取られるらしいけどな」

「そうか、こちらの金は入手出来たか?」

「ああ。イーラって単位の金貨と銀貨と銅貨だな。3種類だった、ただ金はあまり出回ってないらしく物々交換が主流みたいだ」

「了解だ。叔父上! あ! こちらに!」

「ああ! 今行く!」


 ちょうど鳥居から騎士団がわっさり登場したところだ。

 鳥居は巨大だから一度に100人は入ってこれる。

 騎士団の後ろから雇われの冒険者。それと魔物使いの人間がロックジャイアントと呼ばれる大きな人型ゴーレムの魔物を連れて来た。流石にロックジャイアントは10mくらいの背があるから鳥居を通るのはギリギリである。


「シャク殿下、人員の移動と支援物資、それと砦構築用の切り出した石材の搬入は間もなく完了します」

「了解しました。大蛇が動き回っていた土地ですから、建物の大半が使い物になりませんね」

「瓦礫は一か所に集めてある。使いたい物は自由に使ってくれ。オレは街の角っこに工房を作って拠点にするから」

「ああ、色々と掻きまわしてくれたが……」

「シャク殿下、交易の窓口になりえる港を抑えたのは素晴らしい功績といえます」

「あー、クソ。褒めたくねぇ!」

「勲章が増えそうじゃのぅ」


 いらんよ。


「オレは工房を起点にこの大陸の中央に向かうから。一応店舗として機能するようにしておくから入用の物があったら買いに来てくれ」

「了解した。助かった、といえば助かった」

「こやつのおかげでここまで安全にこれたんじゃ。そこは素直になりなされ、シャク殿下」

「分かってるよ! でもなんか素直に褒めたくないんだ!」

「面倒を押し付けてきたからお返しだよ。オレとしてはひっそり入り込む事も出来たんだから」


 そんな話をしていると、どこかしら変な破壊音と声が聞こえてくる。

 その音源である鳥居に視線を向けると、シャク殿下、ジジイが明らかに嫌そうな顔をする。


「…………何?」

「なんでもない、気にするな」

「ほっほっほっほっ」


 答えは返って来なかった。






 適当にシャク殿下にお仕事をぶん投げたので、オレの仕事はもう終わりって事にしておこうと思う。

 元港町の一角、ウルクス方面に向かう為の道の近くに【妖精の工房】で店舗を作成。

 クルストの街で展開した時と違い、土地はあるので適当に展開しても問題ないのが楽である。

 もちろん結界を張るのも忘れない。


「じゃあ大陸中央に向かって旅をする形になる。現在地はここ」


 リビングでハイランド王国時代の地図を取り出し広げる。

 唯一の交易口だったここの場所は変わっていないので、ある程度は読める。


「いきなり飛んでいったら、不味いの?」

「不味いだろうな。黒竜王の眷属の中でも特に強い魔物が、中央の元ハイランド王国の王都付近を縄張りにしている可能性が高い。船の結界には自信あるけど、相手はハクオウと同格の魔物の配下だ。勝てないものとして行動した方がいい」


 すでに1体倒したけど、あれはたまたま相性が良かっただけの可能性もある。

 一応セーナが広範囲の高火力攻撃出来るけど、準備に時間がかかるし、コストも莫大だ。

 ああ、稲荷火や海東クラスの高火力が欲しい。


「王都を滅ぼした程の魔物、こ、こわいね」

「流石にそんなのに喧嘩を売るのは嫌だねー」

「シルドニアの連中は何度かここを攻め込んで奪還しようと試みたらしい、その上で未だに人間の領土になっていない。それはイドと同族のエルフが1人いたくらいじゃ突破出来ないって意味だ。だけどそこに行かないと太陽神教の総本山には辿り着けない。無事かどうかも分からないが、過去に異世界から召喚された人間の記録は旧ハイランド王国にしかないんだから」


 旧ハイランド王国で【勇者】が召喚されたのは黒竜王の暴れた時代だ。

 召喚された【勇者】の手元に聖剣がなく、黒竜王との戦いで命を落としたと伝えられている。

 勇者の敗北が、ハイランド王国の滅亡とセットでこちらでは語り継がれているらしい。ダランベールでも確認出来た話しだ。勇者が敗北したから、とダランベールに船で逃げて来た人間から伝わっている。

 オレ達がパーティ中にシルドニアの貴族達や、リアナとセーナが使用人として平民と話をして仕入れた情報にも相違は無さそうだった。

 150年前というが、この世界では150年前から未だに生きている長生きな種族が存在するのだ。そういった人たちが語り継いでいる以上、信憑性は高い。


「問題は未だにその一角が黒竜王の眷属の支配下にある事だな」


 具体的にどういう支配体系になっているのかは不明だが、シルドニアの領域の先は黒竜王の眷属が支配している領域で人間が近づくと魔物による総攻撃を受けるらしい。

 そしてその領域から逃げると、もう追ってはこないとの話。

 鋭利な刃物のような手足をもった平べったくて大きい魔物の群れらしい。系統がわからんな。

 この国の鋼鉄の武器では相当腕利きでないと、ダメージを与えられないらしく、魔鋼鉄製の魔剣でもないと余り有効ではないらしい。

 また、魔法も効きにくく、中々強力な魔物とのことだ。

 

 ミスリルや魔鋼鉄の武器の普及が広まれば押し返せるようになるかもしれないけど。


「ああ、海東が欲しい……」


 範囲攻撃手段の乏しい我々がいるのだ。セーナはいるが、数が多いと持久戦になりかねない、そうなるとセーナでは厳しい。

 一番範囲の広い魔法が使えるのは我が家の魔王様ことエイミーだけど、本人が尻込みするのであまり戦場に立たせたくない。


「せ、セーナが頑張りますから!」

「イリーナも!」

「ありがとう、でも危ないかもしれないから何度か当たってみて確かめないとだな」


 最悪聖剣を使う方法もあるが、やはり持久力に欠ける。

 それに聖剣を使うと、オレ自身が身動きが取れなくなるのだ。


「取り合えず馬車でオレと栞が近くまで移動するは確定として……イドはどうする?」


 斥候としての能力がセーナよりも栞の方が高い。旅の同伴者としては栞を優先する。


「あんまり、行きたくない」

「イドっち、チヤホヤされればいいじゃない」

「イドを連れて行けたら、各街や村でトラブルは少なくなるだろうし、魔物との戦闘も楽になりそう。だけど、行く先々で変な足止めを食らう可能性が出て来るか」

「イドさんはシルドニアの国の人に囲まれてしまいそうです……」

「そうなんだよな」

「あまりいい気分ではない」

「ここで工房を守ってくれるなら残ってくれていいが、ここに残っても面倒に巻き込まれる可能性もあるか」

「ライトがすぐに戻ればいい」

「そうは言ってもなぁ」


 馬車の中の転移ドアを使えば、すぐに工房に戻ってこれる。しかし転移ドアは馬車が動いている間は使えないのだ。


「そうすると、イド、セーナがここでお留守番確定? 店員がもうちょい必要か」


 ダランベールの騎士や冒険者がこっちに来るから、多少手伝いとしてお店を開けておいてあげたい。


「あたしとイリーナがみっちーの護衛ね」


 近接戦闘能力の高い二人だ。遠距離はオレが受け持つ形になるかな?

 セーナは栞の能力の一部を引き継いでいるから、栞とは基本的に別行動だ。


「回復持ちのリアナさんが一緒に行かなくていいんですか?」

「工房には回復アイテムがたんまり」

「ご主人様のお師匠様や、ダランベールの騎士達がここにはいるわ。こっちでの魔物の襲撃は対処できるはず。ご主人様に何かあった時の為に、リアナも連れて行くべきよ」

「うーん」

「私、お店で頑張るよ。道長くんの工房は私が守るわ」

「そ、そうか?」


 リアナがいないと怪我人はともかく病人や毒の状態異常の診断が出来ないかもしれない。

 あ、でも別に店舗経営する必要今回はないか?

 んー、でもどうするか。店舗開けないとやる事ないだろうし。


「……わかった。じゃあ工房はエイミー、セーナに任せる。なるべくこっちに戻れる日は戻るから。そもそも無理にお店を開ける必要もないんだし」

「でも、やらせて? せっかく1年もお店で頑張ったんだもん」

「エイミーの手伝いは私に任せて!」


 セーナも力こぶを見せる。


「エイミーがやりたいならいいよ」

「ライト、わたしもいる」

「お前には2人を任せる。絶対に守ってくれ」

「ん」


 イドも頷き、了承してくれる。

 さて、今日はゆっくり休もうかな。

いよいよ移動……ごめん、もうちょい先だわ

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[気になる点] > そこから顔を出したのはダランベール王国第二皇子、シャクティール=ダランベールだ。 >「思ったよりも早かったのぅ」 >「これ以上些事にとらわれたくないんだ。大分お膳立てしといたからあ…
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