炉をもたらす錬金術師④
もちろん妄想垂れ流し回の続き
講堂から移動して、魔導炉を建設する予定地に全員で移動だ。
石積みの大きな建物。
こちらには試作品の魔導炉がいくつか並んでいる。通常の形の溶鉱炉から反射炉のように縦長の作りのものも。
そしてその横にはグズグズに黒くなり崩れた謎の残骸。
オレはそれを手に取る。
「すげえな。火竜の鱗かこれ」
「ああそうだ。火力が高いから色々と試してみたらここまでのレベルになった」
「とんでもない技術だな。製鉄もすぐ終わるだろ」
「うむ、おかげで鉄の中に別の特性を持った鉄があることも判明した。」
楽しそうに話す鍛冶師の一人。
恐らく普通の鉄鉱石の中に鉄の様な見た目の金属なんかが含まれていたんだろう。
「だが火力が高すぎるのも問題だな。炉の周りを囲っているレンガが崩れてしまう。二重三重に重ねても内側から崩れるから意味をなさない。もちろん使ってるのは普通のレンガじゃなくて熱に強いレンガなのだがな」
「そりゃあそうだろ。耐熱レンガにも限界がある」
多分これはオレが用意したものとあまり変わらないだろう。
「色々と奇抜な作りの物もあって興味深いが、今回オレが用意するのは一般的な丸形の炉だ。鍛冶師の親方クラスの人たち、それと魔導士全員前に」
先ほどと同じように、今度は錬金術師達が下がり、親方軍団が前にくる。
「オレが用意しておいた耐火レンガはこれなんだが、あっちの溶鉱炉で使ってるレンガよりは熱に弱い代物だろうな。一応こっちで必要な分を用意する契約だから今回はこれを使う。次回以降は使いたいレンガを使ってくれ」
「ああ、わかった」
「レンガの積み方に関しては、見た感じ問題ない。素人に毛が生えた程度のオレよりもあんたたち職人方の方が詳しいくらいだ」
「ふふん、そうだろう」
「だから積み方の説明は省略だ。一気に説明するぞ」
「あ? ああ」
オレは頷くと、イリーナと栞が地面に穴を掘っていく。
「積み終わり、形を作った溶鉱炉には魔力回路を走らせる必要がある。この辺はお前達も知らなかった部分だろう?」
「ああ、単純に火入れをすればいいものと思っていた」
「そこが問題点。せっかくの【魔導炎の依り代】も魔力の通り道を作ってあげなきゃ熱に魔力を与えるだけの存在になる、魔導炉は中に魔力が充満するからこその魔導炉だ。だから最初の火入れを魔導士が行うし、魔力回路の作成も魔導士や錬金術師がやった方がいい」
「魔力回路?」
「人間でも魔法を使う時に体内を魔力が移動する。その通り道の事を魔力回路っていうんだ。あんたらが今まで作っていた魔導炉は見た感じその魔力回路が出来てない。せっかく錬金術師が正しく【魔導炎の依り代】を作成しても、そこから発する魔力がきちんと素材に向かわないと意味が無いんだ」
オレの言葉に鍛冶師達が腕を組んで首を捻る。
「鍋を温めるのに火を横で起こしても意味が無いって事だ。ちゃんと鍋に火を当てるように置くだろう?」
「「「 ああ、なるほど! 」」」
え!? 今のでわかったの!? てか誰!!
「やあ、はかどってるかい?」
「「「 区長 」」」
錬金術師達と魔導士が胸に手を当てて姿勢を正す。
鍛冶師はしらんぷりだ。仲悪いの?
「ああ、続けてくれてかまわんよ。火の魔法は私も得意とするものでね。火入れは是非任せて欲しいと思って来たんだ」
「まあいいっすけど」
早急に丸く穴を掘り終えたイリーナと栞が飛び上がって穴から出て来た。
「でだ、火に強いレンガで作った炉がこちら」
ドスン! と魔法の手提げから炉をその穴の上に取り出す。外側だけで、下面はまだレンガを敷いていない。
「「「「 はぁ!? 」」」」
「手作業でレンガを乗せてレンガをセメントで固めてって、これだけに集中しても1週間くらいかかるから作っておいた」
リアナとセーナとイリーナと、時々栞とイドが混ざって。
眠らずに活動出来てかつ力の強いホムンクルスのなせる業だ。
「で、魔導回路を作成するのに使うのがこれ」
先ほどの錬金で使わなかった畜熱樹の枝と、魔石に入りきらなかった液体だ。
「これで魔導回路を炉の内側に魔力を込めつつ書いていく。魔法陣を描くときの要領でね。でも魔力を流すのに失敗すると中で液体が燃え出すから気を付けて作業を行う事。さあカリム区長。これは火入れする人の仕事ですよ!」
「げっ」
オレはその間に紙を1枚、近くにあった机に広げる。
「魔導回路はこんな感じで引くのが効率がいい。今回は炉の内側にチョークで線を描いておいたからそこに沿って区長が書いてくれれば大丈夫だ。何、3,4時間で終わる作業ですよ」
「え、マジで?」
「マジです」
オレは魔導士の中でも一番偉いというエリア魔導隊の隊長さんにその紙を渡した。
実はこの魔導回路、二世代ほど前の魔導回路だ。今のダランベールではもっと効率のいい魔導回路の配置と、中に魔法陣を作成して火入れをする方式を取っている。
流石に最新技術を相手に渡すというのは、ダランベールでこの方式を開発した人に申し訳がないからね。
「むう」
「さあ、頑張って」
オレは蓄熱樹の枝を折って、ハンマーで叩いて繊維を崩して筆代わりにすると、それをカップにいれた錬金液と一緒に渡す。
「あ、危なくないよな?」
「魔力の扱いに長けている人間なら危なくはないかな」
「むぐ」
「魔力の扱いが下手な人だと、魔導回路を作成するのに使うその液体を着火させちゃうから危ないけど。さあ区長はどっちだろうなぁ」
なんかしゃしゃってきた区長をニヤニヤ眺める。
「梯子かけとくんで、中でかきかきして下さい」
「わ、わかった、やろう」
「んじゃ他はメシ休憩な、3時間後にここ集合で。区長の作業を見たい人は残ってみてていいよ。あ、区長、炉の中で火はおこさないで下さいね。暗いと思うなら明かりの魔法を使って下さい。じゃあかいさーん」
スーパー面倒な作業だ。火入れを誰も手を上げなかったら自分がやらなきゃいけないなと思っていたので助かる。
一度区長館に戻って食事と休憩を挟む事にする。
「お、終わったぞ。疲れた……」
「ご苦労様です。マナポーションどうぞ」
オレは区長に自作のマナポーション(劣)を渡して、集まった面々の顔を確認……しても覚えてないから人数で確認。
うん、いない人はいないね。むしろ増えてる。
「一応魔力回路、正しく書いてあるか確認しておきます」
「ああ、頼む」
いくら線に沿っての作業とはいえ、魔力を込めてそれを液体に残しながら途切れることなく引く作業だ。
非常に大変で面倒なのである。間違ってたり魔力が途切れていたりすると、失敗ではないが効率がやや落ちる。
線を一つ一つ確認をし、問題なく魔力回路が生成されていることを確認すると穴から顔を出して中から出て来る。
どっこいせ。
「問題ないですね。それじゃあ中に土をきっちり戻して下も塞ぎます」
再びイリーナと栞の出番だが、先ほどと違い炉が邪魔なのでイリーナが穴を埋めて栞が土を炉の入り口近くに運んでいる。
ギリギリまで土を入れて上からスコップで叩きつけ、凹んだところに土を埋める作業を何度も繰り返してもらい、極力水平にする。
その後、下に炉の外側と同じようにレンガをイリーナに敷いてもらい、溶路を刻んだレンガを置いて、取り出し口にジョイントさせれば完成だ。角度がキツすぎてもユルすぎてもダメ。
この辺はオレよりも鍛冶師の親方達の方が詳しいと思う。
「今日作った【魔導炎の依り代】は埋め込めるように石板を用意した。これを炉の中心の床の部分に取り付ける、更に初回の焼き入れ用の木炭を敷き詰めて、その上に植物系の魔物の素材、トレントの枝とかそういうのね? それを壁に触らない様に等間隔で配置」
「いよいよ焼き入れか」
「そうだね。この炉には左右に空気口を作ってあるし、煙突もついてるから。素材と燃料の投入口に蓋を閉めるだけ。その蓋は出来れば魔鋼鉄製の物がいい。過去の時代の物は残っているかい?」
「ああ、あったが」
「あったが?」
「戦士が盾代わりに使っちまった」
「あちゃぁ」
まあ頑丈で熱に強いからね。
「一応オレの方で用意しておいたからこれを使うよ。分かってるだろうけど、火入れ中に素手で触るなよ?」
「ああ、勿論だ。オレ達も弟子にまずそこから教える」
火傷というには生易しいレベルで手がコゲるからね。
「よし。じゃあそこの素材口から体を突っ込んで【魔導炎の依り代】に火の魔力を込めて着火を」
「こいつも入れてくれ」
鍛冶師の一人が、くたびれてボロボロになった1本の木剣を持ってきた。
「木剣?」
「ああ、そうか。お前さん外の人間だもんな」
「オレ達の風習だ、新しい炉を作る時、天寿を全うした武器を一つ入れて供養を行う。最後まで使いこまれた武器に感謝を込めて。そしてその武器に眠る崇高な魂が今後作られる新しい武器に引き継がれるように、との祈りを込めてな」
「こいつは近くの剣術道場で、多くの門下生の剣を受け続けて来た師範の愛剣だ。まあ見ての通りボロボロだからいつ折れるかわかんねえ。だから新しいのを渡す代わりに譲って貰ったんだ」
鍛冶師の親方が口々に言う。
「いい風習だな」
「だろ?」
カリム区長もその風習を知っているようで、剣を受け取った後全員から見える位置に掲げると鍛冶師達は全員膝を落として頭を下げる。
周りを見渡していると、錬金術師や魔導士達も続いて頭を下げる。
カリム区長が祝詞のような言葉を口にし始めた。
「何か宗教っぽいね」
「静かにしてなさい」
栞がコソコソ話しかけて来たから注意。
カリム区長が木剣を上下左右に振って魔導炉に振り返り、その木剣を魔導炉の中に一緒にしまいこむ。
「火をつける」
「「「 おおおおおおおおおおおおおおお!! 」」」
鍛冶師達から声が上がり、カリム区長が炉の中の【魔導炎の依り代】を起動させる。
炉の中でカリム区長の魔力が広がり、魔導炉内の魔導回路に魔力が通っていくのを確認する。
あまり人の事を言えないが、カリム区長もかなりの魔力量の保持者のようだ。
低い姿勢どころか、ほぼ地べたに寝ころんで作業をしていた区長の足を親方二人に掴んでもらい引っ張り出させる。
「コホ、コホ、これでいいのか」
「完璧だ。半日ほどかけて炉内が最大温度になるだろうから、炎が切れない様に空気と燃料を定期的に送り込む。大丈夫だと思うが作業する人間以外は近づけない様にしてくれ」
「ああ、問題ない」
「明日の朝まで燃焼を続けてくれ。火を止めたら炉自体や内部、床などのひび割れなどが発生していないか確認も怠らない事」
「勿論だ」
「まあその辺は親方達に任せるよ。良い物を作ってくれ」
「ああ、その。なんだ」
カリム区長だけでなく、おっさん達がモジモジしている。
「おう?」
「感謝する。これは俺達の悲願だった、先人たちも浮かばれるだろう」
「そっか、役に立ててなによりだ。もうちょっと錬金術師や鍛冶師、魔導士達でコミュニケーションを取った方がいいぞ。お前さん方が互いに対等に意見を言い合える場を用意するべきだ。その環境があれば、オレなんかの力を借りなくともあんた達だけで魔導炉が作れてたはずだからな。あんたらにはそれだけの腕がある」
錬金術師は【魔導炎の依り代】を作れない訳じゃなかったが、ミスリルや魔鋼鉄の性質をあまり知らなかったのだろう。魔法防御を突破する性質を魔導炎の依り代に持たせる事を知らなかった。
そして鍛冶師達は、単純に火力だけでそれらの加工を行うものと信じていた固定観念。
魔導士達は火入れをするだけで自分達に他に仕事は無いと思っていた。
これらの全員がそれぞれ腹を割って話す事が出来ていれば、魔導炉はとっくの昔に作れていたのかもしれないのだから。
オレの言葉に目を丸くする一同、そして互いに視線を交じらせて苦笑いしたり恥ずかしそうな表情をしたり様々だ。
……おっさんばかりだが。
「じゃ、依頼は終わりだな。オレ達は一度港に戻るよ」
「む? だがライトロード殿、あと4日もすれば再度会談を執り行うのではないのか?」
「待ってるよ」
「待て! 皇女殿下に再び足を運ばせる気か!?」
「さいなら~」
荷物は全部各自魔法の鞄に入れさせているので早々に逃げ出す!
イド様がいるところに来ればいいんだよ!




