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     ◆


 八日後、私たちはグランゼの四つ手前にある宿場町に着いていた。宿の部屋を押さえ、併設されている食堂で遅めの夕食をとっているとき、一人の中年の男性から話しかけられた。


「職業発現の儀を私に?」


「へえ。そのローブは女神アナスタシア様に縁があるお方ではないでしょうか」


「はい。確かに私は正の位階を授かっておりますが、何かご事情がおありなのでしょうか?」


 アナスタシア様は私にギフトを与えてくださった女神様。幼い頃から教会に通い詰めて熱心にお祈りをしていたためか、学園卒業と同時にマザーアンナからロザリオとローブともに位階を授けられた。


 聖・浄・清・善・正、五つある位階の一番下とはいえ、私も神官の一人。できることであれば協力したい。


「実は、この宿場町にいらっしゃる神官様は高齢で膝を悪くしておりやして……。村までの道のりは片道十日ほどかかり、途中に他の村などもないため、子どもたちを連れてくることもできず……。

 三年前に旅の神官様が儀式をしてくださって以来、村では儀式が行われていないのです。どうかお願いできやせんでしょうか」


 三年間も!? グランゼや大きな宿場町から遠いとはいえ、なせそのようなことに……。


「わかりました。急ぐ旅ではありませんし、私でよろしければお受けいたします」


「本当ですか!?」


「これもアナスタシア様のお導きでしょう」


「ありがとうございやす! 路銀の足し程度にしかなりやせんが、こちらをお収めくださいやし」


 大げさに喜ぶ男性は何度も頭を下げ、私たちが食事を取っていたテーブルに中身が詰まった巾着袋を置いた。村から銅貨や銀貨を集めたのだろうか。いずれにしても受け取れるものではない。


「ありがとうございます。しかし、そのお金は村に必要な物の購入にお当てください」


「いえ、私は村出身の商人でして。商会の旦那様のご厚意で、一年に二回行商に向かうことを許されてはいやすが、次に村に行けるのは半年後です。明日には王都へ向けて発たねばなりやせん。どうかお受け取りを」


 一緒に行くわけではなく、大金を預けて去るつもりなの? 騙されているという感じはしないけれど、何か引っかかる。


「……それでは七日分の水と食料をいただけませんか。荷馬車で十日の道のりも、身軽な私たちであれば三日もかからず辿り着けます。そのお金は、儀式が受けられなかった村の子どもたちのために使ってください」


 私はずしりと重みのある巾着袋を持って立ち上がり、男性の手にそれを載せ両手で上から軽く抑える。そもそも、人々に職業を発現する儀式を執り行うのは、教会の存在意義でもある。『職業を発現するロザリオを神から与えられた救世主が、その複製を各種族の教会へ配る』というエピソードはどの聖書に載っていて、教会は現在までその役目を担ってきた。


「……しばしお待ちくだされ」


 男性はどうにか渡そうとしていたが、彼の目をじっと見つめて微笑んでいるとようやく諦めてくれた。私は、ほっと肩の力を抜いて椅子に座りなおす。


「お嬢、安請け合いをして良かったのか?」


「かなり遠回りになるにゃよ?」


「ええ。いつからという任期があるわけでもないし、私も神官の端くれだからこの状況を見過ごせないわ。二人には迷惑をかけるけど一緒に来てほしい」


 私が着くことが遅くなるよりも心配しているのはむしろこっち。勝手に決めちゃったけど、攻撃手段がない白魔導師の私に一人で山に入る勇気なんてない。


「当然だ。お嬢が生涯の主だと決めているからな」


「もちろん私もずっと付いていくにゃ! どんな辺鄙なとこか楽しみだにゃ!」


「二人ともありがとう。さ、食べましょう」


 二人からなぜか厚い忠誠を捧げられていることに申し訳なさを感じつつも、私は照れてしまった顔を隠すためスープが入ったマグカップを口元で傾けた。



 食事を終え、食堂に残って歓談していると、先程の男性が私たちの元へとやってきた。


「お待たせしました。私の部屋に来ていただけないでしょうか。お連れの方もどうぞ」


「……? それは構いませんが……」


 なんだろう。さっきと雰囲気が変わってる?


 私たちは互いに目くばせをしてから立ち上がり、男性の後ろを付いて歩く。男性が三階にある部屋の扉をノックすると、中から鍵が開けられた。男性に続いてルゥがまず入り、私とパステルも部屋の中へと進む。


「……先程までカウンターにいたな」


 部屋の中にいたのは、狐人族の男性。私は気付かなかったが、どうやら食堂にいたらしい。


「はい。申し訳ありませんが、私が離れた後の会話を聞かせていただきました」


 中年の男性はそう言い、扉をわずかに開けたまま部屋の奥へと向かい、狐人族の男は扉の傍にある椅子に腰かけて目を閉じた。


 ……何?


「よほど耳に自信があるのにゃ。気配を消して近づく者がいたら、すぐに飛び出せるようにしてるのにゃ」


 首を傾げている私の耳元で、パステルがそう呟いた。……村に儀式をしにいくだけのはずなのに、なんでこんな大ごとになってるの?


「理由は……それだけ重要だと言うことか」


 中年の男性はルゥの問いに無言で首肯し、私の方を見てテーブルの上に載せてあった物に掌を向ける。私が見ろってことか。


「手紙と地図、食料にワイン……これは?」


 一つ一つを確認し、私は最後に小さな小瓶を手に取った。


「村で秘密裏に生産されている、魔力を回復させるポーションです。どうかくれぐれもご内密に」


 何が飛び出てくるかと気構えていた私に投げかけられたのは、最重要軍事物資の一つである魔力ポーション。しかも、それを作ることができる人の存在を示す言葉だった。

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