展示番号00号 『展示前、声にならないもの』
最初に目を開けた時、頬の横で青い光が揺れていた。
しばらく、起き上がるという考えが出てこなかった。
仰向けのまま目だけを動かす。青い天井、暗い壁、大きなガラス。どれも見覚えはないのに、知らない場所だと決めるには少し時間がかかった。床に肘をついて身体を起こすと、制服の袖に白い埃がついた。
近くで水が流れている。
それでようやく、水族館だと思った。思っただけで、何も思い出せなかった。
制服のポケットが片方だけ重い。中には薄くて硬いものが入っている。スマートフォンか、カードケースか、そのくらいの大きさ。指を入れればすぐ届く。実際、角には触れた。
それ以上は、触らなかった。
少し離れたところに、三人が倒れていた。
大水槽前だった。髪や制服の袖やスカートの裾が散っている。顔は知らない。名前も知らない。知らないはずなのに、目は一人ずつ拾って、三で止まった。
そこで息が少し楽になった。
楽になる場面ではなかった。女の子が三人倒れていて、自分だけが起きている。叫ぶなり、走るなり、非常ボタンを探すなり、やることはいくらでもあった。壁のどこかには、スタッフを呼ぶためのボタンくらいあったかもしれない。
私は、倒れている三人を見ていた。
唇を開いたところで、胸のあたりが嫌に詰まった。
倒れている三人の顔を、順番に見てしまう。起きろ、と言えば、その声はたぶん届く。届いたら、誰かが目を開ける。そこまで考えて、もう駄目だった。先に起きていたことよりも、先に見ていたことの方が、ずっと嫌だった。
私は息だけを吐いた。
声にすると、何か余計なものまで一緒に出ていきそうだった。
水槽の中で魚の群れが向きを変えた。銀色の腹がいくつか光り、遅れた一匹が群れの端へ戻っていく。床に落ちた水の光が、倒れている子の頬にかかり、すぐにずれた。
綺麗ではなかった。
展示されている魚より、床に倒れている三人の方が目に入る。見ないようにしても、青い光がそこへ戻してくる。私は膝を立てたまま、動けなかった。
私より先に、誰かが起きればよかったのに。
その言葉だけが、頭の中に残った。誰でもよかった。三人のうちの誰かなら、それでよかった。私はまだ名前も知らないのに、なぜか順番だけを気にしていた。最初の声を、誰かに渡したかった。
――超最悪。
小さく口の中で動いた言葉は、音になる前に消えた。自分に向けたのか、この場所に向けたのかも分からない。
三人のうち、一人の肩が動いた。髪が床を擦る音がする。小さな音だった。大水槽の水音に混じれば消えてしまうくらいの音なのに、身体だけが反応した。
今ならまだ、声をかけられる。
先に起きていたことは隠せなくても、ただ黙って見ていた時間を、ここで終わらせることはできる。
手は膝の上にあった。
いつ置いたのか覚えていない。指先が青く見える。声を出すなら今だった。その子が目を開ける前の、ほんの少しの間だけだった。
まぶたが震えた。
起きて。
声にはならなかった。
大水槽の水音が続いている。
私は、まだ声を出さなかった。




