強くなりなさい
「出掛けたはいいけど見るべきところは特にないわね……」
「そりゃまぁ今回近いし王同士の『王戦』じゃないからって理由で選ばれた街だからねぇ。しかも近くの交流できるはずのヤランリ王国からは商人とかも来ないから近くの村場との取引しかないし」
テクテクと二人で歩いていても目に付く物は特にない。こういうところでのデートなど僕にも経験はなくどうしようか悩みどころだ。王都でヒカリやアリシアと出掛ける時も結構多いが、あそこは国の中心というだけあって色々と置いてある。
ちなみに僕のお気に入りは時計塔だ。頂上まで上がることができ、そこから見渡す王都は圧巻の一言に尽きる。
「こっちにまで影響あるのねあのクソ女王……!!内側だけでやり取りしてたら間違いなく腐るのに……!!」
「そこらへんは僕も全くのド素人だから何も言えないかなぁ。大臣からサインしてくれって紙にサインはしてるし、書類はちゃんと読んでるけど理解しているかと言われたら肯定しづらいし」
「アンタ本当に王なの……?」
もう既にあった、という事しか覚えていないが一応前世なるものが僕にはあった。魔道具マニアのキャロル曰くこの聖剣がエネルギーとして吸って消えかけているが。エピソード記憶も意味記憶も前世の物はほぼ使い物にならない。ゲームというのも、もう遠い昔の本当にあったかも分からないという有様だ。もっとも、
その記憶を土台にこちらで得た情報などは吸われていないので僕としては問題ないという認識だ。ヒカリ達との記憶を吸ったらこの剣折るけど。
「王ではあるけど、王になって半年も経ってないからなぁ。半年どころか二ヵ月も経ってない……?」
「本当だったのそれ……?ある意味うちの国よりおかしいと思うわよ?」
「成人登録の為に王都に行って、みんなやっている聖剣を抜く儀式をしてつい抜いちゃったんだよね。いや、誰も抜けるなんて思ってなかったものが抜けたもんだから大騒ぎだったよ」
「ごめん、おかしいと思うじゃないわ。それ間違いなく狂ってるわよ」
まぁ確かにそう思う。当事者だからこそそう思うというか、村人という立場だとそんなものかとスルーしていた。でもこれがおかしいというのはジュリアの言う通りだと思う。
500年前に存在していたという初代『剣王』の言葉に従っていたからこそこうなったというべきか。僕が現われるまでソードリア王国を維持し続けていた歴代の政治家たちには感謝したい。
「まぁその影響なのかはわからないけど大臣達が僕に結婚してくれって繰り返し言ってくるんだよね。僕の血筋を正式な王族にするからって」
「成程ねぇ。ソードリアにも貴族がいてそいつらが各地を統治してるんでしょ?だけど長らく王族不在だったせいでそれぞれが勢力持っててめんどくさいことになってそうね。というかよく分裂しなかった…………ああ、『ドラコニア竜国』の竜王の影響か」
「隣に強い国があるってだけで警戒して動くに動けないからね。しかもいざという時仲介してくれる剣王が不在の時は特に」
基本、この世界の最強戦力は各国の王達だ。王に相対するのは王でなくてはならないというのが不文律であり戦力比。そんな中隣の国が王をそっち抜けにして暴れ出したらどう思うだろうか?僕だったらふざけんなとキレるだろう。
しかも彼らは王の庇護を受けられない。もし王が居たとしても放置してる連中に手を差し伸べるなどする意味もない。となれば隣国の王から侵略されたとしても止めることなど出来ないだろう。
兵が百人千人いれば王を殺せる、などとはもう思わない。それだけジュリアの身体を乗っ取った『槍王』は化け物染みた強者だった。しかも倒せたのは毒を受けて動きが鈍っている使い慣れていないジュリアの身体だったことと、戦っている間ずっと毒煙を吸って弱体化していたから。
その上で数で倒そうとしなければ、間違いなく僕達は誰一人ここには立っていられない。そんな規格外が『王』なのだ。
「あー、やめやめ。折角出掛けてるのになんでこんなめんどくさいこと考えないといけないのよ。ちょっと、アンタちゃんとエスコートしなさい」
「うーん、そう言われても……。じゃあ、ソードリアの服でも見る?」
「む……。こっちの製法は学んでおく必要はあるわね。完全には無理でもヤランリ王国でも再現出来れば新しい事業になるか……?」
せっかくの休日にめんどくさいこと考え出してるジュリアに苦笑いをする。結局のところ彼女は真面目なのだろう。だから生きる意味や価値などを考えてしまう。
それは美点ではあるのだろうけど、それだけではいつか必ず雁字搦めになって身動きが取れなくなる。だからそんな彼女を連れだせる人がジュリアには必要なのだと思う。
「だけどまぁ、彼女達がいるから大丈夫か―――」
「うえぇえええん!!おかあさぁん!!!」
「えっ」
「あっちから聞こえたわ!!」
僅かに子供の泣き声が聞こえたと思った瞬間にジュリアは駆けだしていた。その身体能力で軽々と家を飛び越え、屋根の上を真っ直ぐに駆けていく。
「あっ、ちょっと!?」
あっけにとられていた僕がすぐに気付いて追いかける。彼女の通ったルートは今の僕なら聖剣抜きの身体能力で追えるだろうが屋根の上は足場が悪い。ので声のする方へ地面を走ることになった。
いくつかの道を子供の泣き声を頼りに走って何度目かの角を曲がった時、5歳くらいの子供を必死にあやそうとしているジュリアが見えた。
彼女は辿り着いたはいいがどうすればいいのか分からず慌てていて、追いついた僕が目に着いたらすぐに助かったとばかりに笑ってくる。
「剣王、この子母親と出掛けてたけど途中で蝶を追いかけてたらいつの間にか迷子になってたらしいのよ。何とかならない?」
「良くそこまで聞きだせたね。ほら、僕。もう大丈夫。王様が来たからねー」
「お、王様……?」
「そう、王様。それも剣王と槍王だよ」
急に二人も大人(子供からしたら16歳なら大人だろう)が来たからか、子供は泣き止んでくれた。とはいえ目元は涙で赤くなっていたのでジュリアがその顔を拭ってあげていた。
「君、名前は?」
「け、ケンタ、です……」
「よしよーし、ちゃんと名前言えたね。飴玉あげよう」
「お、お母さんが知らない人からは物を貰っちゃダメだって!!」
「おう……、お母さんちゃんと教育してるんだな……。驚いたぞ」
僕が子供、改めケンタ君と同じくらいの時は何をしていただろうか。思い出せばいつもヒカリと遊んでいた記憶がある。というか一緒にいた記憶しかない。
母さんの言う事聞かずに色々とやらかしていたなぁという思い出しかないのは流石に悪かったと今ならばそう思える。やっぱり子供から大人になると価値観がアップデートされるよなぁ。
「とりあえずこの子のお母さんを探そうと思う。悪いけど時間貰ってもいいかな?」
「この子放置するって方が怒るわよ。ほら、泣き止んだらさっさと行く」
強引にケンタ君の手を取って歩いていくジュリア。彼女は両親を殺されていたと言っていた。そんな自分と迷子になってしまった子供を重ね合わせているのだろうか?
だとしてもその手を握れるのは彼女の美徳であり強さだ。その両方を僕は尊敬する。
ケンタ君と手を繋いで彼のお母さんを探す。大声を出せば見つかるかもしれないが、流石に街中でまだ働いている人もいる中で仕事の邪魔をするような真似はしたくないので仕方ない。
幸い子供の足ではそんなに遠くまで行くことは出来なかったのだろう。必死に探しているお母さんを見つけて一安心となる。
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!この子が本当に……」
「お礼は僕じゃなくてこっちの子に。彼女最初に気付いたんですよ」
「そうなんですか……。本当に、ありがとうございました。ほら、ケンタ。お姉さんにお礼は?」
「ありがとう!!王様のお姉ちゃん!!!」
「別に、そう気にしないでいいわ。子供が泣いてるのは好きじゃないだけだから」
ケンタ君とそのお母さんのお礼に照れているらしくそっぽを向くジュリアだが、その耳が赤くなっていることに僕は気付いている。彼女は案外恥ずかしリ屋なのだろう。
「子供は、放っておくとすぐどこか行くわ。次からはちゃんと手を握っててあげて。一人になるのは、本当に辛いから」
「ええ。何度も言うけどありがとうございました。この子は亡くした夫との子だから、一層大切なの」
「そう。……ケンタ、って言ったわね」
ジュリアは自らケンタ君と目線を合わせるように膝をつく。そしてその手を握って真っ直ぐ目を見て伝えたいことを伝えるために口を開いた。
「強くなりなさい。お母さんも、自分も守れるように。いつ何があるか分からないんだから、お母さんが困っている時に何も出来ないままじゃダメ。剣を使うのも槍を使うのも魔道具を使うのもいいけれど、頑張って強くなって」
「お姉ちゃん?」
「難しかったかしらね。でも、私みたいにならないように強くなって。お母さんをちゃんと守れるようにね。……返事は?」
「うん、分かった!!!僕も槍の王様のお姉ちゃんみたいに強くなる!!!」
その元気な笑顔に満足したのか彼女は立って僕の方を見た。その目には強い決意が宿っており、誰にも邪魔させないという気持ちが伝わってくる。
「剣王。一つ頼みがあるわ。この街の外れに広い場所はある?」
「あるよ。何もない高台が。そこでもいい?」
「ええ。やっぱり私は何もせずに遊んでも気晴らしにはならないみたい。アンタにもレイラ達にも随分気を遣われたけど。それでも性に合わない」
申し訳なさそうに謝る彼女だが、気晴らしなんて人それぞれなんだから仕方ない。本を読むのが好きな人、実験が好きな人、剣を振るのが好きな人、生物問わずカップルを探して悦に浸るカプ厨。色んな人がいてそれぞれの過ごし方がある。
「今日は一日、君の為に時間を使うって決めてるんだ。どこにだって行くし、なんにだって付き合うよ」
「感謝するわ。本当に」
そう言って獰猛に笑う彼女は、着飾ってきたことも忘れたような戦士の顔で。それが彼女の魅力の一つなのだとそう思った。




