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彼女達の関係

「…………ところでなんで私達はこんな隠れて見てるの?普通に合流すればいいんじゃないの?」


「馬鹿か、ライラ。そんなことしたら折角の休日を楽しもうとしているジュリアに悪いだろう。私達がいたらアイツはまた隙を見せないようにするだろう?」


 隣り合って歩いているトーマとジュリアにバレないように遠く離れた壁越しに見ながら呑気そうに疑問を投げかけるライラ(双子の妹)に対して何を当たり前のことを聞くと言わんばかりにレイラ(双子の姉)が答える。

 今回のヤランリ王国出身の目的は新しい槍王になったジュリアの息抜きだ。なにせ前回の王戦が終わり、怪我がある程度治り動けるようになった直後からジュリアはヤランリ王国の改革の前準備を進めているのだから。


 毎日毎日送られてくる書類を三人で片付けようとするも膨大な資料に押し潰されそうになる。政治に全く興味を持たない前『槍王』の将来の側近候補として国の運営について学び続けてきた三人だったが、一国の全てをその人数で処理するのは不可能だった。結果ソードリアの剣王であるトーマに文官を助っ人として与えられる始末である。


「…………あの時のジュリアは本当に嫌そうな顔をしてた。私は剣王に対して心底感謝したし、ようやく睡眠時間を確保できることが嬉しかったけど」


「戦いが終わったというのに私達は夜も寝れなかったからな……。そのまま続けていたら今頃まだベッドの上の住人だっただろう」


 もちろんソードリアに対して弱味を見せることをジュリアは嫌がった。人に自分の弱味を晒すなどプライドの高い、更にその過去のこともあって非常に嫌っている彼女らしいことではある。だが現実問題どうしようもなくなっていたことも事実。それに加えて恩人であり底抜けの善人だと身をもって知ったトーマの提案だったからこそ受け入れた。この時点でジュリアのトーマに対する評価が高いことは分かる。


「あの馬鹿はそういうの気付いてるのか気付いてないのか分からない動きするからなぁ……。人の事よく見てる癖に言動がズレるんだよ」


「そこはもうトーマ君だから、としか言えませんよね。本当に欲しい言葉は平気で言ってきてくれるんですけど、普段は思考が何処に跳ね上がるか分からなくて見てて飽きないというかなんというか」


「……アリシアも大分トーマの事分かってきたな」


「えへへへ、そうですか?でもそれもそうですよ。私、トーマ君の事大好きですもん」


「強くなったなぁ……」


 初めて出会った時の不安定さを忘れたように笑うアリシアを見てしみじみとなるヒカリ。気のせいかその目元はうっすらと湿っている。


「つまり、今のジュリアと剣王殿はさながら全身針をとがらせて気が立っているいるハリネズミとそんなものをまるで気付かないぶ厚い鎧を着て可愛がろうとしている飼い主、というところか」


「…………我が姉ながら例えが微妙。あとそれだとジュリアがペット扱い。ジュリアが聞いたら本気で激怒すると思う」


「いやだがなライラ。ジュリアの状態を見るに本当にそうだとしか言えないと思うぞ?前『槍王』というストレスの元が消えてかなり楽になったと思うが、それでも本来のアイツと比べたらまだまだ気が立っていると言ってもいいだろう」


「なんというかそっちの王様もこう、難儀な性格してんなぁ。複雑というか、プライドのせいでいらない苦労を背負いに行ってるというか」


「…………事実、ジュリアが槍王候補の二番手になっているのは実力もそうだけど性格の部分が大きい。私達は前『槍王』に身体を乗っ取られる候補として集められた」


「ああ、私達は下位になれば捨てられる存在。だから全員生き残る為にある程度順位を上げることを目的として、その上で一番にならないようにと自分の評価を下げていた」


 槍王候補の中で我武者羅に強くなろうとしていたシオンは例外と言ってもよかった。その才覚と母への想いで強くなることを望み続けた彼女は頭角をすぐに現し、次期槍王の座を手に入れる。その安定のために偽物の母を与えられるほどに前『槍王』はシオンを有力視していた。


 その存在に大勢の槍王候補は安堵した。どれだけ努力してもシオンには敵わないから次期槍王の肉体にされることはないと。そんな大勢の中でジュリアだけはシオンを敵視し続けた。肉体を奪われるのは断固として我慢ならないが、自分より上に立つ存在に対しても我慢ならない。

 その甘さも何もかもが気に入らない存在として敵視し続けて食らいつき、絶妙な塩梅で二番の座を獲得し続けていた。上昇志向の気難しさと自分を客観視し冷静に調整できる二面性こそがジュリアの最大の才だろう。


「だがジュリアだけは違う。アイツは、アイツだけはいつか『槍王』を越えて頂点に立つことを考えていた。いつかクーデターを起こす準備として同士を集めながらな」


「…………もっとも、『槍王』の実力を見誤っていたのは事実だけど。私達もあそこまで化物だと思わなかった」


「あの暴れっぷりは、今でも夢に見るな。他の王もあんな化け物なのかと思うと嫌になる」


 シオンの毒に侵されながらも全員と戦い、最後まで圧倒し続けた『槍王』の姿は未だに相対した全員の中に刻まれている。何をしても対処されるし即座に反撃を行う。言うは易く行うは難しを地で行くあの技量は悔しいながらも人類の頂点に位置するだろう。

 恐ろしいのは使い慣れていないジュリアの肉体かつ精神寄生したばかりで十全の動きが出来ていない部分だ。つまり、ジュリアの肉体を奪った直後という状況でなければ全員殺されて終わりにされていたはずである。


「それでも、私達にとってジュリアは一つの光だった。口は悪いが、皆の希望になっていてくれた」


 『槍王』を倒すという目標を掲げていたのはジュリアだけだった。そこにどんな思惑があったのかは分からない。だがその言葉は本気で、その言葉を信じたいと思った槍王候補達はジュリアに協力しようと考えた。


「想像以上の実力差があった。生き残れたのは奇跡だった。だが、その奇跡は私達や、何よりジュリアが変わるきっかけをくれた」


 当然トーマが王剣の能力を引き出し、『槍王』の精神だけを切り裂かなければジュリアも死んでいただろう。寄生された時点でジュリアが助かる道はあの方法しかなかったと断言できる。だからこそ、救ってくれたトーマに対しジュリアも心を開きかけている。


「そんなジュリアが剣王殿とデートするというのだ……!!友として最大限の協力をするのは当然だと考えるが如何に!!!」


「…………とか言いながら本当はこの愚姉、ジュリアを着せ替え人形にしたかっただけ。ずっと集めてたコレクションわざわざヤランリ王国から持ってきてたし、チャンスを狙ってたとしか思えない」


「何を言う。あれはコレクションの内十分の一程度だぞ。それくらいなら問題ないだろう」


「…………ジュリアの心底呆れた顔を忘れられるのは、凄いと思うよ?」


「こいつらもキャラが濃いよな。いや本当に、戦いの時より私生活の方がキャラ濃いってどうなんだろうって思うぜ」


「あ、あははは……。ノーコメントで」


 自分のことを棚に上げて何を言っているんだろうとアリシアは思いながら、でも自分を客観視するのは大分難しいし仕方ないと割り切ることにした。

 言うまでもないが急に幼馴染が王様になるからと言って自分がメイドになってまでついていこうとする人間は普通ではない。しかも剣王として与えられる権力その他の特権などまったく目を向けずにただ幼馴染だけが目的なヒカリは十分重いと言えるだろう。トーマにその重さを受け止めるだけの器量があるだけで。


 しかしこうまで騒ぎながら優れた五感を持つ剣王と槍王の二人にまるで気付かれないで尾行することが可能だろうか?


「なにやってんのよ、あの馬鹿共は……!!」


「まぁまぁ。友達想いってことで流してあげなよ」


 当然無理である。距離はとっているが騒げばすぐに分かる。ジュリアは過保護すぎる友人に対して羞恥心と怒りで顔を真っ赤にして肩を震わせているし、トーマはそんな彼女を呑気に慰めていた。







「いやぁ、だけど友達想いだねあの二人も」


「……なによ?嫌味のつもり?」


 二人で街中を歩きながら後ろをついてくる四人組の声を聞いている。気付いていることには気付かれてないようだ。振り返ったりしていないから当然だとは思うが……後は会話も聞かれてないみたいだ。


「言っておくけど、レイラとライラが言っていることは全部でたらめだから。アンタの影響なんて私は受けてないわ。これは絶対……分かってるわよね?」


「分かってるって。僕もそこまで己惚れてないし、君は一人で立てる凄い人だからね。とはいえ『槍王』の時はヤバかったけど」


「それは認めるけど、断じてこれはデートじゃないわ!!だってデートってもっとこう、なんか、キラキラしてる感じじゃない?」


 分かる。物凄く分かる。そう、デートとはカプ厨にとっても重要な出来事なのだ。だってそうだろう?好き合った同士達が距離を縮める為に存在する素晴らしき時間。その時間は誰にも邪魔されてはいけないのだ。


「ふっ、まさかここで同士に会えるなんてね……。ジュリア、僕は今これまでにないほど君に親近感を抱いているよ」


「ごめんなさい、なんでそうなったか聞きたくなったわ。でも想像通りだと絶対に聞きたくなかったって思いそうなのよね」


「えっ。要するに君も恋人同士の甘いやり取りを眺めたりその後を想像したいってことだろ?」


「そ、その後って……このへんた」


「そう、夕日を浴びながらの告白とか手を繋ぐか繋がないかで悩む姿が尊いと言いたいんだね!!!分かるとも!!!!」


「……自分が汚れてるように思えてきたわ」


「えっ?ジュリアは十分綺麗だと思うけど。少なくても僕は見惚れるくらいには綺麗だよ?」


「アンタ他の奴にもそう言ってそうね……!!」


 デートをキラキラと表現する彼女には今までにない年相応さがあった。今までのジュリアは感情的でありながらどこか達観している雰囲気を出していたが、そんな彼女が理解できるところにいると思うと親近感がわいてくる。


 ちょっと顔が赤いのが謎だが、まぁ今日は暑いからその影響かもしれない。


「僕も同じだよ。恋人達が一緒に過ごし楽しんでいる姿は見ていて幸せになれる。彼らがどんな物語を作るのか、全てを知ることが出来ないわが身が恨めしい……!!だが、全てを知れないからこその輝きは間違いなくあるんだ!!本当に大切なことは、二人だけの物にしてほしい!!!!」


「あの幼馴染メイド本当に凄かったのね、コイツを一人で何年も抑え続けてたとか……」


 何故かヒカリの評価が上がった。だが僕の幼馴染は凄いのでその評価は正当だと言っておこう。もっと色んな人にヒカリの凄さを知ってほし…………。


「いや、やっぱりあんまりヒカリの良さは知らないで欲しいな……。それは、ちょっと困る」


「……アンタにも、特別な相手はいるのね。どいつもこいつも大切にするとか言い出しそうな言動してるのに」


「そりゃ僕にも優先順位はあるよ。幸せになってほしい人は大勢いるけど、僕自身の命より優先して守りたい相手なんてそうそういないさ」


「そういう奴に出会えたのは、運が良かったとしか言いようがないわ」


「それじゃあジュリアも運がいいんだね」


「はぁ?」


 呆れた顔でこちらを見てくる彼女はだけどどこか怒っていて、そりゃ無神経にこんなこと言われたらそうもなるんだろう。ジュリアは今までの人生で色んな経験をしてきたはずだ。僕では想像もできない、したくもないことをその人生で受けてきたんだろう。

 それでも、その人生の全てが不幸だったとは思ってほしくない。


「君が頑張ってきたことを見ていた人がいる。君を助けたいと思ってる人がいる。君と一緒にいることを望んでいる人がいる。そう思ってくれる誰かと巡り会えた君を不幸だとは思いたくない」


「別に、勝手に集まってきてるだけよ。私はアイツらのことなんてなんとも思ってないわ」


 それも本心なんだろう。きっとジュリア自身は利用する為にまとめているのだと思っているんだろう。だけど本心がそれ一つだけなんて誰が言えるだろう。そんなのは本人にしか……いや、本人にだって理解しきれないはずだ。心というのはそれだけ複雑なんだから。


「それでも、だよ。今度君が不幸になりそうになった時、その人達が手を引っ張り上げて助けてくれるかもしれないだろ?」


「そう上手く行くと楽観できる程甘い人生は――――」


「だって、少なくても二人はもうそんな人がいるんだから。命懸けで君を救おうとしてくれる人がいるなら、その人の人生はきっと最低じゃないよ」


 『槍王』に挑む時に一緒に戦ったレイラとライラを思い出す。間違いなく勝ち目が殆どなかった戦いだ。それでも彼女達は最後の最後まで逃げずに戦っていた。それは絶対にジュリアの為だったはずだ。それだけは誰にも否定できない。


「だからジュリアは運がいいよ。これから絶対幸せになれる。僕が保証する」


「…………私は、両親を殺されてる。復讐相手を殺されてる。『槍王』を殺すと言っていたのもそれ以外やることが見つけられなかったから、惰性でいってただけ」


「そっか」


「そんな私でも、幸せになれると本気で思ってるの?」


「思ってる」


 少なくても僕は、ジュリアが幸せにならないとおかしいと思うから。だってこれだけ努力して、怖いと思いながらその恐怖に負けないくらい強くなってきたんだから。その努力が実ってほしいと心から思う。


「まぁどうしても幸せになれないって思ったらまたこうやって僕の所に来なよ。槍王なんてやめて逃げたって文句は言えないだろうし」


「どうしてそんな結論になるわけ?」


「君が自分で幸せになれないって思ったんなら、僕が幸せにするからだよ。君はそれくらいの報酬を得てもいいくらい頑張ったんだから」


 ポカンと口を開けているのは驚愕からだろうか、それとも呆れからだろうか。まぁこんな事急に言われても信用は出来ないと思うし、とりあえずまずはこのお出かけを成功させてからだ。


 あまり発展していないとはいえ街は街。見どころはいくつかあるのでそこに向かおうと地図を見ようとしたらジュリアがこちらを無視して歩いてしまっていた。


「あっ、ちょっと」


「うっさい。見たいものがあるから行くだけ。アンタは私の後ろをついてきなさい。絶対前に来るんじゃないわよ」


 いつもと同じ強い言葉を使う彼女の耳は、赤かったという事だけは絶対に忘れないようにしておこうと思った。



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