剣王の着せ替えタイム
「デートに行くならこれ着てけ。トーマの服のセンスは、ぶっちゃけダサいからな」
「なんでさ?全身黒の服の何が悪いって言うのかな?いいじゃないか、闇属性の僕らしくて」
「トーマ君、服に関しては私もあんまり強く言えないですけど……流石に全身真っ黒は目立ちすぎますよ?」
ジュリアと一緒に出掛けることを決めた次の日、僕はヒカリとアリシアに囲まれて服を選ばれていた。持っていた服は黒い物ばかりで、それが駄目なのだと言い出されて着せ替え人形にさせられている。
「体格的は平均的だからそこは助かるな。普通に量産されてる服を着せられるし」
「身体が大きかったりすると特注とかじゃないと困る時がありますからね。私も時々下着で……」
「それ男の前でする話じゃないだろ。頼むからもう少し気にしてくれよアリシア……。聞いてるのがトーマだからいいけどさぁ」
「ねぇそれって僕が男として見られてないってことでいいのかな?それとも変わり者だから気にする必要がないってことなのかな???」
流石にヒカリの言葉に反論する。これでも僕は男なのだ。彼女達のふとした話で興奮することもあるかもしれない。僕が獣にならないように彼女達には気を付けて欲しいと思うのは我儘ではないはずだ。
「だってお前、外で鳥の求愛行動見てるだけで興奮する変人だろ。カップル成立やったーとか大声で言って二羽の鳥が逃げ出して手を伸ばして見送るのがお約束じゃねぇか」
「祝福の声と共に旅立った二羽はその後滅茶苦茶幸せになってるはずだからオーケーなんだよ?」
「オーケー要素どこにもないからな???」
彼らは共に飛び立ったのだ。そのまま一緒にランデブーに行ったに決まっている。そうじゃないとしたら僕の心ははちきれてしばらくの間使い物にならないだろう。それはきっとみんな困るんじゃないかと思う。思いたい。
「と、とにかくトーマ君の服はこちらで用意しますから……。トーマ君の私服だとすぐに周囲にバレちゃいますし」
「黒い私服=トーマの図が王都にはもう定着してるからな。秘密で一緒に出掛けてもすぐにバレて揶揄われるし」
「今回の場合は特に、ジュリアさんの気晴らしならバレない方が良いはずです。ここは王都ではありませんが念には念を入れて、という事で」
アリシアとヒカリがどんどん僕の私服に文句をつけてくる。しかも反論の余地のない完璧な論理の元でだ。ジュリアの為に一緒に出掛けて遊ぶことにしたのにその途中でさらに心労を掛けるのはいかがなものかということだ。
今の街はヤランリ王国と距離の近い街だが、あまり発展していない。それはあちら側からもこちら側からも行き来する商人が少ないせいだ。ヤランリ王国の布いている通行規制の存在。あの国は外に出るにも中に入るにも非常に厳重で、一々に許可がいるとあの国出身者のみんなが言っていた。
それはあの前『槍王』のことを考えればさもありなんだ。少し対峙しただけで分かるが、あれは摩擦しきっていた。精神が既に破綻していた。それでも何もかも支配して手の内に収めていないと気が済まない状態だったのは短い会話でもわかった。そんな人間が自分の国から出て行こうとする人間が増えることを簡単に許すだろうか?いいや、どんな理由があろうと絶対に許さないだろう。
「でも、ここからは違う」
呟き、現在とあるきっかけで『槍王』になったジュリアを想う。彼女は優秀だし、あの閉塞的な国にいたとは思えないほどに革新的だ。
きっとこれからこの街はヤランリ王国との取引で伸びていくはずだ。もしかしたら地方の村から若者が来るのを望むような街になるかもしれない。少なくても必ず変化は起きるだろう。
ジュリア・デュースは停滞を望まない。それだけは短い付き合いの僕にも分かる。
良くも悪くもこの街は変わる。ならば変える要因である僕達は、王はその前の光景を目に焼き付けておくべきだ。自分がしていることを顧みるためにも、自分の成果を確かめるためにも、だ。
「そういうお題目で連れ出すことに成功したわけだな。お前どんどん口が上手くなって言ってねぇか?」
「職業病、って奴さ。ふっ……僕も王様として色々と学んで進んでいるってことだよ。成長するって素晴らしいことだと思わない?」
「成長しても変わらないところがあるよな。普通はいい話のはずなのにお前の場合性癖になるからむしろ変わってほしいけど」
「いやカプ厨な所だけじゃないからね?僕が変わってないって力強く断言できることは他にもあるから。うん、あるはず」
剣王になってから肉体的にも精神的にも変化は起きてる。身体の方は筋肉質になって戦いに適してきてるし、精神面では前世の記憶がほとんど消えてるせいで色々と変わってるはずだ。そこらへんの詳細を知っているキャロルは
「人にとって記憶って人格を決定づける重要なファクトリーのはずなんだけど……本当に一切何も変わらないって言うのはどうなのかしら……?」
とか言っていたがきっと変わっているはずだ。でなければ僕は記憶があろうがなかろうが何も変わらないザ・マイペースの能天気カプ厨になってしまう。
「ヒカリ、僕は能天気なマイペース男じゃないよね?」
「自己紹介の時それ使えばいいと思うぞ」
泣きそうになる。涙が溢れてきそうだ。いや割と自分でも自覚はしていたが幼馴染に言われるのは何というかこう、重い。
「と、トーマ君はそれでいいと思いますよ!!私はそんなトーマ君に助けられましたから!!!」
「あ、アリシア……」
「気付けよトーマ。お前の性格面については何も否定されてないぞ。あと本当に一緒に出掛けてる時動物のカップル見て盛り上がるのやめてくれると助かる。どう反応していいか本当に困るんだ」
「ぐあぁあ!!!!」
「ああ!!トーマ君が凄い勢いで地面に項垂れて!?」
ガチトーンで言われた言葉に打ちのめされ床に雫が落ち濡らしていく。分かっている、分かってはいるんだ。一緒にいるヒカリやアリシアに迷惑をかけるというのは分かるんだ。
でももうそれ本能なんだ、記憶がなくなろうが間違いなく僕はそうなると確信できるし断言できる。言うならば魂に刻まれた起源ってやつなんだ。
「まぁ、そういうところ含めてトーマなわけで。アタシ達はそれでも一緒にいるって決めてんだからあんま気にすんなよ」
「ひ、ヒカリ……君に後光がさしているようだよ……」
打ちのめされ項垂れていた僕に静かに手を伸ばすヒカリ。その銀髪が光っているように見える。まるで神々しい神話の一場面のように。彼女は天から降りてきた天使のように優しく僕の手を取って立ち上がらせてくれた。
「トーマ君気付いてください。追い詰めたのはヒカリちゃんです。マッチポンプという奴ですよ」
「はっ!?あ、危なかった……。アリシアの言葉がなかったら流されるところだった……」
「ちっ、このまま少しずつ矯正するつもりだったのに……」
なんか怖いこと言っている。もしかしたら知らず知らずのうちにヒカリに精神的負担をかけてきたのかもしれない。これはもう、彼女が好きなスイーツを作るしかない。故郷の村にいた頃からたまにつくる自作スイーツを彼女は嬉しそうに食べていた。
言葉は強いが甘いものが好きな所は非常に女の子らしいだろう。そういう部分のある幼馴染が僕は大好きだ。
「なんだよ、急に笑って。アタシがなんか変なこと言ったか?」
「うん、変なことはは言ったね。でも……ヒカリのそういうところ僕は好きだよ」
「うぐぁ……!!?こ、コイツ……!!」
よし、反撃完了。ヒカリにはこういう風に感情を真っ直ぐぶつけられることが何よりも効く。真っ赤な顔になってうろたえている姿は先程までの言動を思えば考えられないくらいに可愛らしい。いやまぁ、ぶっちゃけいつ見ても可愛いとは思うんだけどね。
「…………トーマ君、次はこっちの服着てください!!」
「へ?いいけど……なんか怒ってる?」
「別に、怒ってないです。ええ、私も褒めて欲しいとか思ってないですもん」
むくれてそっぽを向くもチラチラこちらの顔色を窺ってる姿に思わず笑ってしまう。『聖女』であることを今アリシアは忘れているのだろう。それが、どうしようもなく嬉しい。
素の彼女はどこにでもいる……とは断じて言えない可愛さを持っているが、内面はかなり普通だ。特に最近のアリシアは感情がすぐに表情に出る。それはとても素敵なことだと断言できる。
その要因に僕の存在があるとうぬぼれていいのなら、正直とても恥ずかしいけれど、よかったとも思えた。
「ありがとう、アリシア。ただ……さっきから進めてくれる服はなんか白いのばっかな気がするんだけど……。あと金色の金細工もあるし……これ高いんじゃないの?」
「ああ、その金細工はイミテーションですね。金メッキを使った物で、最近ソードリアで出回ってるみたいです。低価格でお洒落をしたいならこれ!って評判ですよ?」
「なるほどなぁ……。僕が剣王になった影響なんだと思うとちょっと嬉しいな。頑張ってる甲斐があるよ」
「はい、というわけで頑張ってるトーマ君に似合うと思って」
「……嘘吐け。それだけが理由じゃないだろ」
顔を真っ赤にして撃沈していたヒカリが立ち上がり目を光らせてアリシアを睨む。それは例えるなら獲物を目の前にしたネコ科の動物のように、もしくは弓矢で狙い撃ちしようとしている狩人のように光っていた。
「白はアリシアの聖女服の基本色だし、金色はアリシアの髪の色そのものだろ」
「にゃっ!?」
「ああ、そういえばそうだったね。でもそれが……いや、もしかして」
「そう、要するにコイツは……トーマとおそろいがしたかったってことだ!!自分と同じイメージカラーで染めて自分のものだと主張したかったんだよ!!!賢くも卑しいな!!!!」
「にゃああああああああああああああ!???!??」
図星だったのか体育座りのようになりながら頭を抱えて防御態勢に入るアリシア。ただ顔は隠せているが耳は隠せていない。そしてその耳は真っ赤になっているので彼女が今どんな顔をしているのかは容易に想像がつく。
「そっかぁ、おそろいかぁ……。なんだろう、凄く嬉しいぞ?」
「そりゃお前そういうの大好きだからだろ。王都でもそれっぽいのがいたら凄い目で見て、我慢するように逸らして、我慢しきれず二度見するのがお約束じゃねぇか」
「あんな素晴らしい光景を二度見しないとかいう選択肢は僕の中にはないんだよ、ヒカリ。僕はいつだって彼らの未来を、幸せを祝福したいだけなんだ。それを邪魔する存在が許せないだけなんだ」
「お前に物凄い目で見られて困惑してるから、そのカップルの邪魔を一番してるのはお前だよ?」
アリシアの隣で同じ姿で座る。真っ赤になっている彼女とは違い僕の顔は真っ蒼になっているが。邪魔してたなんて……まさかあの時も、それにあの時も、彼らは僕のせいで困っていたのか?
いやでも見てることに気付いたらなんかこっちに手を振ってきてくれたんだよな。なんかボクに見られたカップルは幸せになるとかそういう都市伝説でも生まれてるんじゃないだろうか。
「もしそうだとしたら合法的、かつ彼らも見られて嬉しいwinwinの関係が築かれるんじゃないのか……!?よし、今すぐ噂を流すように伝えないと」
「どんな思考回路してれば青い顔で座った10秒後には元気に立ち上がれるようになるんだろうな……。十年以上一緒にいるけど未だに理解しがたいぞ……」
呆れた顔でこちらを見てくるヒカリの言葉を意識して無視する。僕の思考を読むように先回りしてくるヒカリには言われたくはないのだ。
「でも割といつも僕の思考を先読みしてストップかけてくるよね?」
「慣れだよ慣れ」
「……嘘つき。ヒカリちゃんは嘘を吐いています」
ゆらりと立ち上がったアリシアは真っ赤な顔のままヒカリを睨む。いや睨むというにはあまりに目力が足りていないが。どうしても子犬が威嚇してるように見えるのは彼女が怒り慣れていないからだろうか?
「ヒカリちゃんがトーマ君の思考を読めるのはそれだけいつもトーマ君の事ばっか考えてるからです!!!ヒカリちゃんとお茶会でお喋りしてる時の会話内容の8割はトーマ君関連ですから間違いないです!!!!」
「ぬぁっ!?」
「いやいや、流石にそこまでの割合で僕のことを話すなんて……。えっ、本当なのヒカリ?」
「や、やめっ!?ち、違うんだよ!!ま、待て。アタシをそんな目で見るなぁあああ!!!!!」
今度はヒカリが頭を抱えて座り込んでしまった。恥ずかしすぎるのかいつも括っている髪が尻尾のようにピンと立っている。
いやぁ、しかしこうやってアリシアがヒカリにやり返す姿というのはなんとも新鮮だ。それだけ二人の距離が縮まっている、ということにしておこう。
「やりましたよトーマ君!!!ヒカリちゃんに勝ちました!!!!」
ただまぁこうやって明るく笑っているアリシアや、恥ずかしがっているヒカリを見れるのは幸せだからよしとしよう。




