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ブチギレ剣王様


 ただいま僕は剣王専用に用意された執務室(使うことは滅多にない)で両肘を机の上に立て、両手を口元で組んでデプロン大臣からとある報告を受けていた。


 すぐに傍にはメイド服を着て一週間が経ち、中々に貫禄の出てきたヒカリがついている。でもこの貫禄ってメイドに必要なものなのかな?


 そんな些細な疑問も吹き飛ばされる衝撃を受けていた。


「で、なんだって????」

「で、ですので……我が国の聖女を次の『王戦』にて賭ける、との便りが槍王側から送られてきました」

「うん、何度聞いても意味の分からない宣言だね。とりあえず聞きたいんだけどそれって規則的には出来るの?」

「可能と言えば可能です。こういった人材を求める『王戦』は過去にも行われていた記録が残っています。どの国も優秀な人材は欲しいですからな」


 それは僕も知っている。『王戦』とは何を賭けるかは各国の自由だ。そしてそれと釣り合う「価値」をこちらにも見せてくるので旨味がないこともない。


 だけど『聖女』を欲しがるって言うのはどういうことなんだろう。剣王()が現われたことでけん制するという意志表示だろうか。


 何よりこんな展開僕は知らない。凄いね僕の記憶、何の役にも立たないや。ここまでイレギュラーが重なってくると本当に参考くらいにしかならないし、参考にするにも十年以上のこの世界での生活で記憶が薄らいでいるので役に立たないことが多いか思い出すよう必死になるより人に聞いた方が早い。


「とりあえずそれを断ることは出来るの?」

「それが、アリシア殿が受け入れる姿勢でして。同時に今回の『王戦』で出てくるのは正式な王ではなく次期後継者候補との話です」

「現在の槍王と戦ったら間違いなく負けるけど、後継者ならまだ何とか勝ち目がある……って彼女は考えているのかな?」


 確か槍王の選出方法は剣王の運任せとは違って、完全実力制とアリシアが言っていた。幼い頃から弟子として集められて戦いを学び、そして最も強い者が次の王になる。


 ある意味とても理に適っていると言えるんだろうけど。志願制ならともかくかなり強引に集めてるらしいからなぁ。僕としてはその制度はあまり認めたくないところがある。


 それは僕が聖剣を抜いてしまい、今までの人生が一変してしまった反動なのかはわからない。


「あちらは何を賭けると言ってるの?」

「高純度な魔石が多く獲れる採掘場のある土地を、それもかなりの広さを提示してきました。これを勝ち取れば研究が進むと魔法研究室の室長は狂喜乱舞しておりましたな」

「欲望に忠実というか、その欲望が僕みたいな庶民の為になってるからありがたいというべきか。大臣としては今回の申し出はどう思う?」

「破格です」


 デプロン大臣は目の前でかなりキている僕を堂々と見据えてその言葉を発した。そこにはただ純粋に国益を考えた政治家としての姿があり、熱せられていた僕の頭を少しだけだが冷やすことに成功する。


「勝利した場合は言うまでもありません。賭けの対象となった土地は民達の生活を安定させるだけでなく更なる発展を目指す場合必須となるでしょう。敗北した場合も、言っては何ですが『聖女』一人で済むとも言えます。引継ぎの為少しだけ借りる、との名目で後任を選ぶまでの時間は稼げるでしょう」


『剣王』と違い『聖女』は前任の聖女が指名し決めるという。事実今も聖女候補は何人かいるし、数は少ないがそれでもアリシアがいなくなっても致命的とはいかないだろう。


「でもそれとこれとは話が別だよね。悪いけど僕認めないよそれ、偉そうに言っちゃうけど……」

「いえ、私も破格の条件ではあるとは思いますが受け入れるかはまた別の問題だと思いますので。感情面ではなく実利面で」

「実利……というと、長期的に見た場合かな」

「はい、その通りです」


 よく考えてみればすぐわかる。こんな重要な人材と土地を賭けるとなると短期的に見れば土地の方がいいのかもしれない。


 だがそれで納得できないのが感情を持つ人だ。僕だって認めたくないし。


 これを受け入れたらきっと反感を持つ層が騒ぎ出す。僕が『剣王』になって一週間も経ってないけどその片鱗は見てきたつもりだ。ただそれでも国益のために彼らは動くつもりはないらしい。


 だがそんな中でこんな人権を軽く扱うようなことをすれば「次は自分なのでは?」と思う人も出てくるだろう。そうすればこの大事な時期に内側に火種を抱え込むことになる。


「だからこの話は引き受けない方がいいってことだね」

「その通りです。言葉遣い共々王の貫禄が出てきたようで何よりかと」


 言葉遣い無理矢理直させたの自分の癖によく言うよデプロン大臣……。本当にやり手というか人を乗せるのが上手いというか、この国を今まで維持させてきたのは伊達じゃないというのが接すれば接する程よくわかる。


「それで陛下。明日より『魔霧の森』へと向かうようですが準備は出来ているのでしょうか?」

「それって物理的な準備?それとも心の準備?残念だけど後者ならとうの昔に立つ鳥が跡を濁さないように全部持っててそのまま帰ってきてないよ」

「その言い回しつまらないからやめた方がいいって毎度言ってんだけどいつになったら治るんだ???」


 仕事の話が終わったからかすぐ側からヒカリのツッコミが入ってくる。でもそこまで言わなくてもいいんじゃないかなって思う。僕だって傷つく時はあるんだから。


 ただまぁこの距離感が僕達の間にはちょうどいいと言えるのだろう。


「とりあえず約一ヵ月後のヤランリ王国との会合に向けて『王戦』を行う際の条件を考えておきます。陛下はその間」

「うん、『魔霧の森』に入ってくる。この一週間体力を付けることだけに魔道具とか色々と使ってやってたし」


 クラリス・バーン、彼女はマジもんの天才だった。今の僕には足りないものが多すぎるがその中でも絶対的に体力が足りないのが分かっていた。流石に酒場の仕事や井戸から水を巻き上げたりする程度では騎士達とは比較にならない。


 一番最初はほら、超可愛い女の子の膝枕って餌があったから。その餌に食いつくのは男として当たり前である。


 話を戻すが、彼女はまず僕の心肺機能を上げるために呼吸を制限してきた。空気の濃さを調整して常にギリギリ意識を落とさない程度にするマスクを用意してきたのだ。


 こういう器具を事前に身体に覚えさせることで『魔霧の森』の夢の中でも再現できるとのことだ。


 他にも筋肉鍛錬とか実践訓練とか嫌というほどやってきた。うん、逃げ出したくなったし実際逃げようとしたけどその場合ヒカリが取り残されるわけで。


 これを狙って彼女をメイド役に抜擢したというのなら本当に他人の動かし方をよく知ってると言ってやりたくなったものだ。もちろんこの場合は嫌味だが。


「夢が現実に反映される、ねぇ。それって実際凄く有効的だろ、なんで他の連中はやらないんだ?」

「『魔霧の森』の中で見た夢は、ほぼ現実と変わらないと聞きます。もし夢で死ねば現実でも死ぬと思えばそんなハイリスクなことはしない方が無難でしょうな」


 『魔霧の森』の最も大きい利点は「時間を引き延ばせる」という点にある。要するに精神と○の部屋という奴だ。時間がない時に使うのは有効的だが、長期間使い続ければ何が起こるか分からない。


 夢をある程度操作する方法をこれまたクラリスちゃんが用意しているらしいが、それも完璧ではないらしい。それだけ人の頭の中は複雑という事だ。


「要するに危険度が高いから時間があるなら普通に鍛えた方がいいってことだね。早く早くって空に手を伸ばしたらふとした時に落っこちちゃって怪我するってことだよ」

「あー、その方が面倒事が起きる可能性は少なくなるのか。うん、納得」


 死人が出るよりは普通に鍛えた方がリスク管理が出来るという事でもいいのだろう。いや本当に時間がない時にしか使う意味がない場所である『魔霧の森』。


「あと先に言っておくけどアタシも同行するからな。一緒に鍛錬もするし」

「駄目」


 ヒカリの言葉の意味を理解するより前に反射的に答えてしまう。もう一度その言葉の意味を理解しようと頭を回すがやはり答えは変わらない。


「駄目。心配なのは分かるけど待ってて。万が一が起きて欲しくない」

「やだ。シリアス顔が似合わないギャグ直行幼馴染がこれ以上その顔してるの気に食わないし」

「なんてことを言うの???これ以上ないってくらい似合うと思ってるんですけど???」

「シリアスな表情が似合う奴はたかが幼馴染の膝枕で気絶する限界まで全力疾走したりしない」

「いやクールだろうが熱血だろうがひょうきんものだろうが、可愛い女の子の膝枕の為ならそれくらいすると思うんですけど」


 男とは皆欲望に忠実なものだ。もし忠実じゃない奴がいるとしたらそれは裏に隠し持っているだけなのだ。それよりは真っ直ぐ示し続ける方がいいのではないか。


 隠しているよりもただ出している方が相手だってきっと警戒しないで済むはずだ、多分。


「お前最近王城で男女の絡みがあると出現する王様って言われてるぞ。もしも用事がある時は男女で仲良く話してればそのうち来るとまで」

「誰がそんな噂立てたのかな???」


 だ、だからか……!!ここ最近なんかカプ厨力の供給量が増えていたのは!!!おかげで今までにないくらい頭がさえわたって仕方ないから感謝するけれど!!!


 騎士団長と副官さんの不器用な在り方も尊いし、クラリスちゃんとエリウス君の遠慮のないそれでいて互いを分かりあっているような幼い頃から一緒にいるからこそのやり取りもまた尊い。


 最近では執事とメイドさんがところどころでそういう空気を出していて思わず誘い出されていた。いやなんか職場での恋愛って良くない?カプ厨としてはカップルになる前もまた重要だと思うんだよね。そこに至るまでの過程が光り輝いているというか、過程から結果に辿り着くことでさらにその光は増すというか。


 恋愛物語とかでもくっつくまでが一番面白いという人もいるのも分かる話だ。結果より過程を重視するからこそ波乱に満ちた物語を描けるというのも分かる。


 あー、ただ僕の場合はくっついた後もちゃんと読みたいなぁ。それまで出来なかったことを恋人になってからやっとできるやり取りはもうニヤニヤするしかないわけで。


 過程も重要だがやはり結果もまた重要なのだ。そして恋人になるという結果はゴールではなく、さらにそこから続く物語のスタートラインでもある。


 ゴールを迎えてもさらに続く道がある。それはまるで人生そのもののようで……。


「ちなみにここのメイドさんと執事達だけど普通に外に恋人いるらしいぜ。お前呼び出すには演技で十分だって言ってた」

「僕は偽物の量産品で呼び出される程度のレベルだった……!?」


 あ、頭がおかしくなりそうだ……!!僕は、僕は弱くなってしまっている!!!そんな罠にかかった自分が許せなくて、そんな罠を見抜けない自分の目に腹が立って仕方がない。


 僕は彼らのことをなにも見抜けなかった!!!カプ厨としてこれほど屈辱的なことがあるだろうか。僕は、僕は!!!


「鍛えなおすしかない。僕が僕である為に。今の不甲斐ない自分を殺してでも。槍王の所の失礼な後継者のことなんか一旦全部忘れてやらぁ!!!!」

「うん、今日一番の怒りだな。お前にはやっぱその顔の方が似合ってるよ」


 待ってろよ『魔霧の森』、そこに行き僕は僕を取り戻す……!!


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