第3小節「それは疑として」
煙がたちこめる倉庫内にてカイリはすぐさま隊員達に指示を飛ばす。
「ソー、シドは入り口を抑えろ!その他は退却!」
「「「了解!」」」
煙が収まった倉庫の正面と裏の入り口を隊員が警備、さらにそれぞれに1人配置される。残りは周辺の警戒、隊は人数上建物の中までを調べることのできない。
(さて)
ファデルは倉庫内にいた。煙に乗じて逃げなかったのだ。裏口を警戒する二人の隊員の様子を観察し、脱出方を考える。
(よし)
速やかかつ密かに裏口に一番近い物陰から先ほどロボット達を一層するのに使った爆弾を投げる。
「なんだ?」
「気を付けろ!爆弾かもしれない」
二人は裏口から離れる。1人が内側、1人が外側に行く事で爆発しても大丈夫な様にする。
「まっ、関係無いんだけどね」
「何!?」
隊員が後ろを向くより速く攻撃して気絶させる。
「隊ちょ、うっ」
もう1人も通信される前に気絶させた。
「ふう。お、良いもん持ってんじゃん」
ファデルは隊員が持っていた銃を奪いそのまま裏口から出る。先ほど見つけたマンホールの蓋を開け、地下水路にはいる。後は地下水路から逃げるだけだ。
レビウン
タボル地区を抜けた先にあるパーチェ王国の首都であるこの地区に地下水路から入ったファデルは蓋を押し上げて地上の様子を見る。
「とりあえずは大丈夫か」
マンホールから出てきたファデル、しかしそれを待っていたかのようにバイクが一台ファデルの近くに停まった。
「待たせたかな?」
「ちっ、なんだよ発信器ついてんのかよ。やっぱり一度分解するべきだったな」
「その銃には内部に発信器が埋め込まれている。そう簡単に外せるものではないし、ここに来るのは分かっていた」
「まあそんなところだろうな」
「先ほど確認したが機械兵は君をロゼリア国所属の人間と判断しているそうだ」
「お前の言ったように俺達は森から出てきた。森にいた機械兵が正体も分からない人間にこの国の法典とは言えそんなもの差し出してきているやつに対しては判断を仰ぐだろうな。そしてその判断を仰いだ先の人間が俺達を不法入国者と決めたんだろうな」
「リヴァイ殿が……。しかし君達にも疑われる行動をしている、ロゼリア国から来たという訳でもないのに森から出てきている事はどう説明する気だ?」
「ロゼリア国から来てはいない、だけど森から出てきているとなると?」
ファデルは上を指さす。
「宙からなんてのはどうだ?」
「ふざけているのか?」
「真面目さ」
「そんな馬鹿な、今日は輸送機は来ない予定。領空から飛行機で侵入してきたなら気づかれる筈だ」
「なるほど……。窮屈そうだな」
「なんだと?」
「まあいいさ。そうだな、領空は当然警戒網が張られてるだろうな。ならその警戒網を意図的に緩めていたら俺達は宙から来れる」
「そんな事をする必要がどこにあるというのだ?」
「来客が来る予定だったんだろ、そしてその来客が俺達なら説明がつくんじゃないのか?」
「しかし現に君達は不法入国者と認定されている。そんな手違いがあるとも思えない」
「手違いじゃないなら意図的にやってるんだろ」
「まさか!!」
カイリは驚く、今目の前にいるのは不法入国者の筈だ。しかし彼は妙に納得のいく言葉でこちら側がそう仕立てあげたかのように言った。
「いや、我々がそんな事をする意味は何処にもないはず!」
「正直なやつだな、それが命取りにならないよう気を付けるんだな」
そう言ってファデルは銃をしまい代わりにケースのような鞘に収まった剣を取り出す。
「……。君は私を説得しようとしてたんじゃないのか?」
「まあ疑念を植えつけるだけでも十分さ。それにどうせお前は俺を拘束してから真偽を確認するんだろ?」
「そのつもりだ」
「公平な場が設けられない以上そうなりたくはないな」
剣の柄にあったボタンを押す、ケースが外れ緑色に光るエネルギーの塊である刃が現れる。
「お宅のロボットの武装を拝借させてもらった。俺が扱いやすいようにしてもらったがな」
「本当に刃を交えるつもりか?君が私に刃を向けることがどんなことなのか分かっているだろう」
「もうロボットを何十体も壊した、お前の部下を気絶させ武器を奪った。仕方ない事だと思うか?」
「……、君が言っていることが本当ならそれはもしかしたら許されるかもしれない。しかし……」
「しかし、しかしこれは許されないことか。俺に残されたやり方はもうこれしかない」
カイリはゆっくりと剣を抜く、両者は睨み合う。
「不本意だが……いくぞ!」
先手はカイリ、その剣に雷を纏わせ突撃する。ファデルはカイリの突きを真正面から受け止める。
「なっ!?」
「覚悟なき戦士は危ういもんだぜ」
カイリを蹴飛ばす、
「くっ」
「真っ当な剣術だけじゃ俺を捕まえる事はできないぞ」
ファデルはゆっくりとカイリに近づく、カイリは再び剣に雷を纏わせ突撃する。ファデルは今度は突きを弾く、カイリはそれに怯まず次々に突きを繰り出す。ファデルは余裕でこれを防いでいく。反撃する機会はあるがファデルはタイミングを見計らっているのか反撃はしない。
「はあ!」
カイリ渾身の斬りを防ぎきったファデルは遂にカイリに反撃した。その振りをなんとか防いだカイリは一度後退しようとしたがファデルがカイリの足を掬ったことでカイリは転倒してしまう。刃をカイリの顔に突きつけながらファデルは笑う。
「終わりだな、お前を人質に交渉させてもらう」
「今更そんな事をするために……」
「なに、こういうのは手遅れな位がちょうどいいもんさ」
ファデルはロープを取りだしカイリを縛っていく。
「さて、じゃあってうわっ!!」
ファデルは突然カイリを突き飛ばし、自身も急いで近くにあった建物の陰に隠れる。雨によって視界が悪いながらも確かにその影が近づいてくる。森を出た時に現れたあの蛇型のロボットだ。
(厄介なやつに出くわしたな、あまり使いたくはないが爆弾使うか……)
蛇型はまだこちらの事に気づいていない様子である。ファデルはゆっくりと蛇型に近づいていく。
蛇型の胴体に大量に付いてあるビームガンは索敵もしていたようでその1つがファデルを捉える。
(しまった)
ビームが発射される前に走り出す、顔もこちらに向き口を開けエネルギーを貯める。
(これじゃ爆弾が使えないぞ)
蛇型は口からビームを無数に放つ、拡散したビームは辺りの建物を壊しながらファデルを襲う。
(見境無しかよ)
胴体にある銃からもビームが放たれていく。ファデルは逃げるものの目の前にロボット達が立ちふさがる。更にロボット達が解放したのかカイリも銃口を向けている。
「やれやれ、ここまでか」
こうして不法入国者の1人となってしまったファデルは捕らえられた。