第2小節「嵐の逃亡者」
パーチェ城内の会議室にて
黒いコートを着た色白の男が椅子に座っていた。パーチェ王国のロボット兵の管理をしているリヴァイ・オッドだ。
彼は今回の「不法入国者」であるファデル達を捕まえる立場、地図を見ながら二手に分かれた彼らが次にどこに逃げるかを考えていた。するとノック音が聞こえ、一人の青年が入ってきた。金髪に軍服を着た彼は最近ではロボットが兵力の主体となった今でもその実力をかわれ、人間達を数人ではあるものの率いることを許されている。
「失礼しますリヴァイ殿、本日はどのような御用件でしょうか?」
「カイリ・コーダ。不法入国者の話は聞いているな?」
「はい」
「奴等は二手に分かれて現在も逃走中だ。その内の一人、タボル地区に逃げた方を追ってほしい。たまには体を動かしたいだろ?」
「……」
カイリ率いる近衛小隊は今や形だけのもの、今回の出動要請もかなり久しぶりだった。
「これが監視カメラが捉えた映像だ」
赤髪以外にこれといって特徴のないファデルの姿を見せる。
「先ほど蛇を使って追い詰めたがかなり強い爆弾を使用して兵をかなり持っていかれた。君も十分に気を付けたまえ、抵抗が激しいようなら殺しても構わない」
「了解です。かならずや拘束して参ります」
カイリは一礼をした後、会議室を立ち去った。その様子を天井から見ていたリヴァイは不気味な笑みを浮かべる。
「正直な男だ」
タボル地区は所謂倉庫街である。ファデルは追っ手のロボット兵達からなんとか隠れる事が出来たものの見回りは増え、空からもロボットが飛行して捜索している。空からは大量の雨粒が降っているがロボット達には防水加工が施されているのか捜索の手は緩まない。
(とにかく奴等が帰ってくれるまで粘るしかないか……)
ファデルは近くの建物の裏口に回る。扉には当然鍵がかかっているがファデルは長方形の平べったいケースを取り出す。ケースの中は半液体のジェルが詰まっている、これを鍵穴に挿し込みケースにあるボタンを押しながら回す。すると鍵が開きファデルは中に入ることに成功した。
(ここに暫く隠るか)
一時間ほど経つが大雨もロボット達の捜索も止む気配はない。ファデルは建物内で通信機を弄りながらパーチェ王国の通信を傍受できないか試していた。とはいえロボット達の通信は暗号か
されているため解析するのも手間なので、本命はこちらの通信をいかに盗聴されないかの試行錯誤である。
(これならロボット達の使ってる通信の波長にも近くて盗聴もされにくいだろう、後は発信源だが……)
通信を試みればロボット達のいる直ぐ近くの場所から電波が発信されている事に気付かれる可能性がある。そうなれば捕まりかねないのだ。
(捕まるのも面倒だしな。いや、ひょっとしたら……)
ファデルは建物近くを単独行動しているロボットがいないか探す。するとマンホールの近くで警戒をしているロボットを見つける。
(地下水路、よし色々と見えてきたな)
ファデルは建物から静かに出てロボットをつける。そしてロボットが止まったタイミングでおもいっきり殴った。ロボットは少しの間止まるがすぐさま振り返り異変の原因を捉えようとする。しかしファデルはロボットのカメラ部分を剣で突き刺し破壊、その後も素早い刺突でロボットを機能停止に追い込んだ。
(さて)
ファデルは急いでロボットを出てきた建物とは反対の建物内に運ぶ。そしてロボットの頭辺りをこじ開け通信機を近づける。
(もって5分てところか……)
通信機を使いソラとの連絡を試みる。はたしてうまくいった。
「こちらファデル、ソラさん応答お願いします」
「ファデル?もう大丈夫なのか?」
「いいえ、まだ辺りをロボットがうろついてますし、ギリギリバレる状態で通信してるんで」
「そうか、俺のところは時々ロボットがいるだけでほとんど追っ手はいない。お前が上手く惹き付けてくれたおかげだな。それでどうする?事が収まるまで待ってから城に行くか?」
「それだと遅すぎますね」
「しかしこの状況を打開するのは中々厳しいぞ」
「僕に考えがあります」
ファデルは自分の考えを話してみる。
「それは本当に大丈夫なのか?下手したら先に消えた特能の二の舞になるぞ」
「今はこうしてでも真実に近づく他ありません」
「そうか……、分かった。死ぬなよ」
通信は終わり、ファデルは静かにロボットの両腕を切り離しまたもといた建物に行く。
雨の中の道路をを一台のバイクとその後ろを追うように数台の車が走る。カイリ率いる近衛小隊だ。タボル地区に到着した小隊はリヴァイに報告して指示を仰ぐ。
「カイリ・コーダ、ただいま現場に到着しました」
『先ほどE23にて機械兵とほぼ同一の通信が何者かと行われた。そちらに向かえ』
「了解」
カイリは後ろの隊員に軽い指示をしてファデルのいる建物に向かう。建物の正面入り口を開け、裏口からも隊員が入り込み安全を確認する。
「異常なし」
「こちらも」
「引き続きこの近辺の建物を調べていく。……それにしてもリヴァイ殿は何故……」
カイリは顔をしかめながらも別の建物を調べようとする。しかしその時金属音と共に金属性の筒が隊員達の足下に転がる。
「全員離れろ!」
隊員達は落ち着きつつも後ろに後退する。そして2階に繋がる階段よりファデルが下りてくる。
「よお」
カイリは銃口をファデルに向ける。
「これは何かの手違いだ。これをロボットに読み込ませたら俺達の安全は保障される筈だったんだ」
そう言ってファデルはロボットに読み込ませた物を投げ渡す
「それは本当か?」
「隊長!」
しかしカイリはそれを受け取り、スキャン用の機械を隊員に持ってこさせる。そしてスキャンし終えたカイリはファデルを見据える。
「確かにこれの中身はこの国にある法典の一部を切り取ったものだ。これを提示しただけで機械兵が君を侵入者だと判断したのは君が身分証明をする物を出さなかったからだろう」
「なるほど」
「君は少なくともこの国の人間ではなさそうだが……、本当に正当な手続きをしてこの国に入ろうとしたのか?」
「もちろん、そちらが正当な手続きをしてくれたのかは知らないが」
「しかし君はロゼリア国の人間なんじゃないのか?」
「ロゼリア国、たしかこの国の隣国だったな。後は大きな山脈がこの国を包み込み、その先は海。ある意味ではこの国は孤立させるにはもってこいというもんだ」
「質問に答えてもらおうか」
「俺はロゼリアに行ったことはないな」
「なら何故森から逃げてきているんだ?あの森はロゼリアに通じる橋があるんだぞ」
「ふむ、その質問には答えかねるな。まあとにかく正当な手続きはした、だから見逃してくれないか?」
「そうはいかない。手違いなら確認を取らなければいけないし、どちらにしろ君の素性が分かるまで君を拘束する!」
「やれやれ、交渉は無理か。まあ期待はしてないんだがな」
そうぼやいて、ファデルは先ほど転がした金属性の筒を拾い、地面に叩きつけた。その瞬間煙が吹き出し、倉庫内は煙に包まれた。




