第1小節「暗雲の危機」
雨が降りそうで降らない、あるいは降ってるんだか降ってないんだかわからない。ファデル・フラミクスはそんな天気が大嫌いである。こんな天気の日はいつも悪いことが起きる、こんなにも早くこの世界から出ていきたいと思ったのは初めてだ。
「さて、まずはこの国の王に謁見しないとな」
彼の隣にはソラ・ヴァルコ、赤いリーゼント風の髪型でファデルよりも一回り大きい体格の男で今回の任務におけるファデルのパートナーでもある。
鬼神会、神の遣いとされる一族がつくった組織。様々な世界の調和を保つために活動している。その戦闘局、いわゆる実力行使を主に行う鬼神会内でも最も所属人数が多い局。その多さから実質的な第二戦闘局と呼ばれる局が出来るほど、多くの事務所に分かれてその中の大手とされる亀池事務所にファデルとソラは所属している。
鬼神会の本部にある会議室にてファデルとソラは今回の任務についての説明を受けていた。
「第310番世界『ミーパ』、ここのパーチェ王国の調査に行った二人が消息を絶ってね。その二人の捜索をしてほしい」
黒めの赤髪の男、器神心、その隣には亀池事務所の所長、タトス・ノーズ・タートルが座っている。
「特能が二人も派遣される案件があったんですか?」
特殊能力局、通称特能。その名の通り戦闘局ですら珍しいとされる特殊能力を持った者達が集まる局。
「正確には一人かな。まあどちらでも同じだけどね」
「そのパーチェ王国は一体何があるんですか?」
「パーチェ王国はこの半年の間に急激に防衛戦力が上がった過剰と思うほどに、誰かの入れ知恵によって行われたかのようにね。潜調の調査報告から特能案件だと判断し、派遣したんだ」
潜入調査局、潜調。まずこの局が世界の調査を行う。
「それなのに俺達二人なんですか?」
「今回は特能派遣が裏目にでたと思っている。潜調の話からどっちにするか悩んだんだけどね、これで君達まで消息を絶つなら色々考えるところがあるけど」
「ははっ」
なんて冗談を言うんだとソラは思いつつも受け流す。
「まあとにかくパーチェ王国に行ってもらわないとね。移動手段はファデル君の宇宙船で大丈夫だね?」
「はい」
ファデルはこの鬼神会に入る際、何故かタトスから宇宙船を買わされた。宇宙船は鬼神会のなかでも所有している者は少ない、移動に便利だからと説得されたがその利便性を実感したのは数えるほどしかない。
第310番世界『ミーパ』
近未来的に発展した世界、パーチェ王国の街にはロボットが警備員として配備されている。今回の任務はパーチェ王国の許可を得て、国の南にある森に宇宙船を停留させることとなった。
「本当に森に着陸するのか?」
「森にそこそこ開けた場所があるらしいですけど」
確かに木々が並ぶ中、一部だけ開けた場所がある。
「嫌な場所だな、準備してやがったのか?」
「派遣された二人はパーチェ王国内で消息を絶っていますから、用心た方が良いでしょうね」
宇宙船から降り、辺りを見渡す。
「出迎えは無しか、当然と言えば当然だが気味が悪いな」
「……」
「ファデル君どうしたんだ?」
ファデルは空を見ていた。かなり曇っていて今にも雨が降りそうだ。
「いえ、こういう天気が嫌いなだけなんで」
「そうか、まあ確かに一雨どころかかなり降りそうな曇り具合だからな」
森を歩いていく、正直車を使いたいところだったが宇宙船を停めた場所ほど広い道はなく、車も通らないので徒歩で行く事になった。
「はあ、やっぱり気味が悪いな。普通こんな不便な場所から来させるか?」
「パーチェ王国というか、この世界はまだ宇宙関連の技術開発にやっと手をつけ始めたそうですからね」
「ロボットが警備員として街を歩いて回ってるわりにはそういうのに手をつけてないのは意外だな」
森を歩き始めてそれなりに経つが未だに木々が並ぶ。
「方向はあってるんだよな?となると相当遠い場所に降ろされたわけか……」
その時、木陰よりロボットが現れた。まるで木に同化するかのような茶色に左腕が銃になっている。二人に気づいてスキャンを始める。
「……」
ファデルは静かに小さな長方形の板を見せる。パーチェ王国からもし警備ロボットに遭遇した際にこれを見せれば安全と言われて渡されたものだ。
「本当に大丈夫なのか?」
「多分……」
しかし板をスキャンし終えてもロボットはその場でなにやら通信をしている。そして
『ピピッ、侵入者ヲ確認、コレヨリ拘束シマス』
「なっ、侵入者だと!?」
「これは……」
ロボットは警報を鳴らしながら銃を構える。銃口が眩しく緑に光る。
「ビームガンかよ、拘束する気ほんとにあんのかよ?」
「さあね!」
勢いよくロボットを殴り付ける、警報が大きくなったり小さくなったりしながらロボットは倒れる。
「はあ、嵌められたか?」
「手違いにしろ嵌められたにしろ、ここから離れた方が良いですね」
「城に向かうのか?捕まりに行くようなもんだろ」
「真正面からそうでしょうね」
「なるほど、ますます拗れそうな事をする気だな?」
「まあ非常事態なんで」
ロボット達が十数体現れる。
「あーあ、これだからロボットは……」
「やるしかねえな」
ソラも自分と同じ程大きな大剣を取り出す。ロボットとの交戦が始まった。ロボット達は的確にビームを放つ、数体は右腕をビームソードに変形させて二人に襲いかかる。
「全くますます嫌いになるぜ!」
ロボットを凪ぎ払いながら二人は走り出す。とにかく森を抜けなければいけない。ビームが後方から木を絶妙に抜けながら飛んでくる。
「正確だねぇ……」
やがて森を抜けた二人、しかし真正面からもロボット達が来ている。
「きりがないな……」
そしてそこに追い討ちをかけるかのように上からビームが無数に降ってくる。
「くそっ」
大剣を盾がわりにしてビームを防ぐ。森から轟音を響かせながら巨大な蛇型のロボットが現れる。蛇とは違うのは体からビームガンを生やしているとこだろう。
「ヤバイなこれ」
蛇型ロボットが口を開けビームを放つ、ソラは再び大剣を盾にビームを防ぐがこれではきりがない。
「ソラさん、アレを使います!」
「頼むぜ、二手に別れて逃げよう」
「はい!」
ビームの雨が止んだ頃合いをみて、二人は別れる。ファデルはその際、ロボットの集団に穴の空いた円盤にボールを嵌めた物を投げた。すると数秒後、爆発音と共に無数のバラバラになったロボットの部品が飛んでくる。
「相変わらずスゲーな拡張器は」
爆弾の威力を拡張させる機器、ファデルはそれを使ってロボット達を一掃したのだ。しかし、蛇型ロボットだけは爆破をくらったものの動きを少し止めただけで再び逃げるファデルを標的にして、追いかけ始めた。