第26話 かかってこいっ!!
――殿下は、ローレンシアと結託して、国境の砦を攻撃した。
――ローレンシアの軍門に下り、ルティアナに反旗を翻した。
それが、敵の主張だった。
たとえ王太子でも、国家に歯向かえば、それは死に値する。
「まったく、キッツいことを考えてくれるよなっ!!」
イリアーノさんが敵を斬り倒す。
「まったくだっ!!」
バルトルトさんが唸り声を上げる。
混戦になりながらも、必死に戦う。
敵になっているのは、かつて王都で、殿下に忠誠を誓ってくれていた兵士たちだ。閲兵えっぺい式で何度も見かけた、その姿。
殿下の執務室に訪れた人もいる。
それが、今、殿下の敵となって、戦いを挑んできている。
(こんなのってっ、こんなのってっ!!)
戦いながら、泣きたくなる。
みんな、殿下が大事にしてきた人だ。それが、こうして命のやり取りをしている。
殿下が、国家に反逆した。
そんなまったく根拠もない罪のせいで。
「レオッ、お前はここから逃げろっ!!」
殿下が叫ぶ。
「インメル夫人を捜して、王都の外に出ろっ!!」
この状況は不利だ。そう判断したんだろう。
だけど、だけど、だけどっ!!
グッと手綱を握りしめ、一気に王宮の階段を駆け上がる。
「レオッ‼」
殿下の制止も聞かない。
「鎮まりなさーいっ!!」
ありったけの声を張り上げる。一瞬、みんなが静まり返る。
「殿下が、アナタたちに、どんな害を及ぼしたっていうのっ!? 殿下はいつだってルティアナ王国のために力を尽くしてきたわっ!!」
いつだって、いつだって。
私はずっとそれを見てきた。
「砦を落としたのだって、メリクリオス将軍が、砦を盾に、ローレンシア人と内通したからよっ!! ローレンシア国王は、将軍を倒すために力を貸してくれただけで、この国を滅ぼそうとなんてしてないわっ!!」
滅ぼす気なら、あの場所で、殿下と戦っていたはずだ。
「それでも、殿下に謀反の疑いが、あるというのなら…、殿下がこの国を滅ぼそうとしていると思うのなら…」
スウッと息を大きく吸い込む。
「一度でも殿下に傷つけられたという者のみ、前へ出なさいよっ!! 殿下に助けられた経験のない者のみ、前へ出て、私と戦いなさいっ!!」
グルリとみんなを見回す。
「いないのっ!? 殿下を悪だと決めつけてるんでしょ⁉ だったら、その証拠と一緒にかかってきなさいよっ!!」
言い切って、肩で息をくり返す。
興奮しすぎて、顔が熱い。目が潤む。
「スッゲー、啖呵」
イリアーノさんの呆れた声が聞こえた。
「レオ」
いつの間にか、殿下がそばに来ていた。
轡を並べ、グッと頭を抱き寄せられる。
「ありがとう」
「………っ!!」
我慢しようとしてた涙がこぼれる。
こんな時に反則。抱きしめないでよ。
「……っ!! ええいっ、何をしているっ‼ 逆賊アルフィリオを捕らえろっ!!」
静まり返った兵士の中で、一人の男が叫んだ。
けど、ほとんどの兵士が動かない。剣を持つ手をダラリと下げたままだ。
「戦えっ!! 戦わんかっ!!」
男の金切り声だけが虚しく響く。
「レオッ、アルッ!!」
階下から、イリアーノさんの声が届く。
「お前たちは先に行けっ‼ ここは僕たちがなんとかするよっ!!」
軽いウィンクとともに、イリアーノさんが男に突進していった。
続いてバルトルトさんも、攻撃をしかける。
「急げっ!!」
「行こう!!」
その言葉に弾かれたように、殿下が私の手を引っ張った。
二人、騎馬のまま王宮内に突入する。
* * * *
「やっぱ、レオくんは、いい王妃になれそうだねっ、バルトルトッ‼」
目の前の敵と斬り合いながら、イリアーノは長年の悪友に声をかける。
「知らんっ!!」
吐き捨てるように言って、敵の長剣を叩き割る。
そのバルトルトの怪力ぶりに苦笑しつつ、イリアーノも敵を倒す。
「見上げた根性の持ち主だとは思うがなっ!!」
それは、おそらくバルトルト最上の誉め言葉なのだろう。
「少しは『カワイイ』とか、外見を褒めてあげたらどうなのさっ!! せっかく、あんなにかわいいのにっ!!」
「無理な話だっ!! 俺に、そういうのは判断できんっ!!」
まあ、猪突猛進…、いや、熊突猛進だもんなあ。
軽口をたたき合いながら、敵を倒していく。
レオの啖呵のおかげで、敵の数はグッと少なくなった。兵を扇動する連中だけ倒せばいい。
さて、あと何人だ⁉
軽く舌なめずりして、イリアーノは剣を構え直す。
終わりは近い。
* * * *
殿下と二人、王宮内を走っていく。
途中、どうにも通れなくなるほど狭い通路があって、馬を置いてきた。
目指す場所を殿下はご存知なのだろう。私を手を握ったままの殿下に迷いはない。
時折出会い頭になった兵士を倒し、その部屋へと近づく。
王宮の最上階。
一番きらびやかな扉の向こう。
勢いよく開かれたそこにいたのは…。
「国王陛下…」
殿下のお父上だった。




