第24話 坑道は暑く、殿下も熱く。
結局、坑道に入って砦の内側から攻撃するのは、私とバルトルトさん、イリアーノさん、それと、30人ほどの精鋭騎士となった。
私の役目は主に案内役。村娘から元に戻る時間も惜しいのでそのままの格好。
塔への道案内がそのお役目。一緒にいてくれるのは、バルトルトさんだ。
イリアーノさんは、門を開けるために行動する。
ガコン。
塞がれていた壁を開ける。
たどり着いた、れいの小屋。
さあ、作戦開始だ。
「行きますよ」
先頭をきって歩いてきたから、なんとなく号令をかける。
「ふふっ…」
「イリアーノさん⁉」
どうして、こんな時に笑う!?
「いや、レオくんたくましくなったな~って思ってさ。アルにもかなり気に入られてるみたいだし」
え!? うえっ⁉
「僕たち、そろそろお役御免かなって、思っただけ。ね、バルトルト」
「知らん」
ちょっ、それってどういう意味!?
従者として、ならうれしいけど、男色相手としてなら複雑だぞ。
「それよりも、行くぞ」
「う、うん‼」
バルトルトさんのかけ声に頷く。あれ⁉ イイトコ、取られた気がする。
小屋から出た私たちは、それぞれの役目に合わせて別行動をする。
目指すは、塔っ!!
行くぞっ!!
「うおおおおおっ!!」
バルトルトさんが吠える。
…ってか、隠密に行動する気ないんかーいっ!!
驚く兵士に突進する熊。
ヤダもう。やる気満々すぎ。
「バルトルトさん、殺しちゃダメですよっ!!」
一応、念を押しておく。あの調子だと、剣を使わなくても首を圧し折ったりで倒しかねない。
実際、兵士を投げ飛ばしてるし。
あーあ。
* * * *
一方のアルフィリオは、砦を前に落ち着かなかった。
バルトルト、イリアーノのことは信頼している。彼らなら大丈夫だ。ちゃんと任務を遂行してくれるだろう。
だが…。
はやる心を抑えようと、深呼吸をくり返す。
あの、無茶ばかりくり返す、栗色の髪の少女。
砦に置いてきたとばかり思っていた。将軍が造反したと聞いて、真っ先に心配したのは、彼女の身だった。
自分の部下である彼女は、真っ先に殺されてしまう。
よしんば、すぐに殺されなくても、戦いとなれば、見せしめになぶられ殺される。
どうして砦に置いてきてしまったのか。いや、どうして連れてきてしまったのか。
何度もくり返し後悔した。
――ボクは、殿下の味方ですから。
そう笑って言ってくれた少女。
(昔から…、変わらないな)
人が傷ついていると、そっと寄り添ってくれる。傷ついた人を放っておけない、優しい性格。
その彼女の心に救われてきた。あの時も、今も。
(まあ、いきなり、男になって現れた時は驚いたけどな)
インメル夫人の策略だろう。髪を切られ、男の「レオ」になって戸惑っていた少女。
自分が見間違えるはずがなかった。
栗色の髪、生気にあふれた琥珀の瞳。
12年前に出会った少女、エレオノーラ、その人だ。
まだ小さな子供だった頃、生命を狙われ、彼女の父に匿われた自分。生命を狙われたこと、狙った人物。その人物の最期に、自分は絶望していた。
――ぼくなんて、死ねばよかったんだ。
そう呟いた自分に対して、大声を上げて泣いたエレオノーラ。
――おにいちゃん、いなくなっちゃヤダ。
――あたしがおにいちゃんのみかたになる!!
彼女という存在があったからこそ、自分は生きてこられた。そう思っている。
ひょっこりと、ローレンシア皇帝と現れたのには驚いたが、それでも、彼女が無事なことに、心から安堵した。
彼女を傷つける者は、誰であっても許さない。
今だって、砦のなかにいる彼女のことが気になって仕方ない。
(早く、開け)
そう念じながら門を凝視する。
「心配か⁉ アルフィリオ殿下」
不意に声をかけられた。近づいてきたのは、ローレンシア皇帝。
「いえ」
「いい娘だな、あれは。一途で健気で、見ていて面白い」
勝手に評価するな。
人の心を見透かしたようなセリフに、アルフィリオは、少しだけムッとする。
「おっ。門が開くようだぞ」
ギギッときしんだ音が耳に届く。
「さて。いっちょ攻略させてもらうとするか」
ローレンシア皇帝が舌なめずりする。その表情は、どこか楽し気だ。
「全軍、突撃っ!!」
アルフィリオが号令を下す。
大地に、馬蹄が響き渡る。
* * * *
作戦は成功だ!!
塔から女性たちを助けたおかげで、辺境村の男たちはこっちの味方になった。もともと殿下を慕ってた人たちだ。人質さえなければ、将軍には従わない。
イリアーノさんたちも、開門に成功した。
ギギギッと軋んだ音がして、緩やかに跳ね橋が降りていくのが見えた。
あれさえ降りてしまえば、殿下を始め、ローレンシア軍も一緒にこっちにやってくる。
あとは、首謀者である将軍を捕らえたら、こちらの勝利だ!!
混乱が広がる砦内で、将軍の姿を捜す。
ヤツさえ押さえてしまえば、後はっ…‼
「無茶するな、レオッ‼」
また一人、兵士を投げ飛ばしてバルトルトさんが叫ぶ。
「お前は、ここでジッとしてろっ!!」
そんなこと言われてもっ!!
向かってきた敵と切り結ぶ。
そう簡単に、敵も諦めてくれない。特に、将軍の部下だった奴は、捕まれば一巻の終わりだ。死に物狂いでむかってくる。
「………っ!!」
まともに斬りあってると、こっちの身がもたない。それも、女の格好してるし。やりずらいったら、もうっ!!
相手の剣をはじき返し、距離をとる。近づき下から斬り上げて、返す刀で上から。はじき返されたら、ムリせずにその位置から。何度も切り結び、チャンスを待つ。
何度も打ち合えば、互いに疲弊してくる。
(…………ちょっとこれは、さすがに…)
息が上がってくる。昨日から動き詰めだし。
体力がヤバいかも。
敵の一撃をはじき返す…が。
(………マズいっ!!)
大きくバランスを崩して、倒れてしまう。
かろうじて剣は手にしてるけど、防御一辺倒の立場。
…これって、かなりの大ピンチ!?
「レオッ‼」
イリアーノさんの叫ぶ声が聞こえる。
助けてほしいけど、彼も、敵との応戦で手一杯だ。
石畳に転がり、攻撃を避ける。
グイッ。
スカートの裾を踏みつけられ、転がることを封じられる。
(…………っ!!)
敵が大きく剣を振り上げた。
(やられるっ!!)
とっさに、剣を前に持って来て攻撃を防ぐ。
弾けるか、そのまま押し切られてしまうか。
その一瞬を覚悟する。
………あれ⁉
一瞬が訪れない。
代わりに。
「グアッ…‼」
敵が呻き、崩れ落ちる。
「無事かっ!!」
敵の背後から現れたのは、なんと…。
「殿下…」
息を切らし、必死な形相の、アルフィリオ殿下だった。
しばらくして、獣のような咆哮とともに、歓喜の声が砦に響き渡った。
「メリクリオス将軍を捕らえたぞーっ!!」
そう叫ぶ声が聞こえた。
その声は、波のように、砦中に響き渡っていく。
殿下に助けられ、立ち上がった私のもとへ、バルトルトさんが近づいてきた。
手には…、え!? メリクリオス将軍!?
バルトルトさんに召し取られてる。
もしかして、あの咆哮は、バルトルトさんだったの⁉
メッチャボロボロになったメリクリオス将軍の姿が、その疑問の結果だ。目の周りには、見事なまでの青タン。それなりにデカい図体が、ぼろ雑巾のように、ズルズルとバルトルトさんに引きずられてる。
「おう、レオも無事だったか」
獲物をつかまえ満足そうな…、どうみても熊。
殿下も私も、その姿に苦笑するしかなかった。




