第11話 アナタのためにできること。
晩餐が終わると、まあ旅の疲れもあって、みんなそれぞれの部屋に戻っていった。
私も殿下と一緒の部屋に戻ることになるんだけど…。
どうしよう、結構ドキドキ。
お腹いっぱい~とか、腹はちきれる~とか言ってる場合じゃない。
伯母から、出立前に何度も言われた、「この視察旅行のあいだに、事を成すのですっ!!」がグルグルと頭の中を巡りだす。
――なんとしても、お世継ぎをっ!!
もはや呪いだよ、この言葉。
まだ、殿下をメロメロにした自覚はないので、なるべく距離をとろう。
まさか、不意に襲われることはないと思うけど…、あれ⁉
「殿下!? お休みにならないのですか⁉」
疲れてるんじゃないのかな。夜着に着替えても、殿下は備えつけの小さな文机に向かっていた。
「ああ、もう少しこの報告書を読んでおきたくってな。レオは先に休んでていいぞ」
皮羊紙を軽く持ち上げられる。それは、村の人がまとめたという、開拓の計画書だった。
今日の面会で、手渡された書類の一つ。でも、報告書は、それだけじゃない。まだまだ未読の巻物がいくつかある。
(もしかして、これ全部読んじゃうつもりなのかな)
全部寝室に持ち込んだということは、そういうこと!?
身の危険!?がないのはうれしいけど。
(いったい、いつ休むつもりなんだろう)
上に立つ者として、そこまで頑張ってくれるのはうれしい。せっかく作った報告書とかを、ポーイッとほったらかしにされたら、悲しいもん。
だけど、寝ずに読んでもらってるとなると…。
(身体が、ちょっと心配)
明日には、例の辺境伯との会談があるって言ってたのに。
報告書を真剣に読みふけっている殿下を置いて、そっと廊下に出る。
行く先は、台所。
真っ暗に灯りを落とされたそこで、ロウソクの灯りを頼りに、ガサゴソとお茶を淹れる。
台所で見つけられたのは、香草を乾燥させて作った茶葉。
「ん~、甘い香り」
出来上がったら、少しだけ味見。
これも村の人たちが作ったのかな。かなりおいしい。
(これ、王都に持って帰りたいな)
なんて思いながら、部屋に戻る。持ち帰りが無理なら、そのブレンドのレシピだけでも教えてもらいたい。
「なんだ、まだ起きていたのか」
部屋に戻ると、殿下が呆れていた。私が静かになったのを、眠ったと思っていたらしい。
(それほど夢中で、報告書を読んでいたってこと!?)
「何か、お手伝いできることはないかなって。お茶をお持ちしました」
報告書を読むだけという作業で、手伝えることはとても少ない。せめて出来ることはと言えば、これぐらいしかない。
「ありがとう。いただこうか」
殿下が軽く身体をほぐしてから、茶に手を伸ばす。
「――――んっ、美味いな」
「でしょう⁉ 王都にない味ですけど、美味しいですよね」
自分の見つけた美味しいものが褒められると、自分の手柄のようにうれしい。つい、ニコニコしちゃう。やっぱり、帰る前にオバちゃんたちにレシピを聞いておこう。殿下、気に入ってくれたみたいだし。
だけど。
「レオ、明日も忙しくなる。これ以上起きてないで、ゆっくり休め」
「えっ…、でも」
何かお手伝いしたいのに。殿下から、それを拒絶された。
「これだけで、じゅうぶんだ。それよりも明日に備えておけ」
殿下がカップを持ち上げてほほ笑む。
「はい…」
そんな笑顔で言われたら、引き下がるしかない。もしかしたら、こうして起きてることを、足手まといだと思われてるのかもしれない。
「おやすみなさい」
スゴスゴと、自分のための小部屋に向かう。
「レオ」
呼び止められて、振り向く。
「ありがとう」
……ズルい。ズルいよ。
そんなふうに言われたら、寂しいとか、そういう気分が吹き飛んじゃうじゃん。
暗い私の部屋に、殿下の報告書を読むための灯りが、かすかに差し込む。
昼間の、あの村人と気さくに接する態度といい、この夜遅くまで、熱心に報告書を読む姿といい。
こんなに民に親身になってくれる殿下のために。
もっと頑張ろう。もっとお役に立てる人物になろう。
殿下の力になりたい。
こぼれてくる灯りを見つめながら、そう思った。




