第10話 はじめましての辺境村。
今回の視察旅行は、国境付近に入植した人たちを慰労することと、ローレンシア皇国の代表である、アウスシュッタット辺境伯と面会することが目的だった。
(間違っても、伯母の言うような「お手つき→子作り」ではない)
夕方近くに、入植者の村近くの砦に到着した私たちは、結構なもてなしと、歓迎を受けることになった。
というか、到着したのが村の人に伝わると、みんな作業を放り出して、砦に殺到したのだ。
若いのも年老いたのも。男も女も関係ない。
みんな、殿下に会いたくて突進してくる。
「殿下、こちらが新しく栽培を始めた品種です」
「殿下のご判断どおり、この土地でも十分元気に育つことがわかりました」
「これなら、収穫にも期待が出来ます」
「ここは、とても栄養価の高い牧草が育ちます。おかげで、羊の毛の質も良いものがとれそうですよ」
などなどなど。
次から次へと、村の人たちが殿下に報告を携えてくる。
砦に着いてからというもの、殿下は旅装も解かないまま、その応対を続けている。
どの人、どんな報告にも、
「そうか、それはよかった」
だの、
「それは、お前たちの努力の結果だ」
とか、
「それは、興味深いな。くわしく聞かせてくれないか」
など。
みんなが目を輝かせるような受け答えをする。
(やっぱ、殿下ってスゴいな)
王宮にいたときも感じたけど、殿下は人に好かれる素質を持ってる。誰の、どんな言葉にも耳を傾け、共感してくれる。
ささいなことでもにこやかに対応するし、嫌な顔一つしない。
偉っそうにしてもいい身分なのに、絶対にそんなことはしない。
ただの村人でしかない相手でも、肩を抱き、相手を褒める。一緒に笑い、共に驚く。その気安さも、人気の一因だと思う。
(こういう人のためなら、頑張ろうって思っちゃうもんね)
宿泊予定の砦は、辺境村近くの街道、ローレンシアとの国境橋を警護するために建てられている。ローレンシアが攻めてきた場合、ここで侵入を防ぐ。そして、村の人たちを収容し、安全を確保する。
村の人たちは、今は農民だけど、非常時には武器をもって戦う、いわゆる「屯田兵」という位置づけらしい。
「ここは、殿下が開発するように計画した村なんだ」
イリアーノさんに教えてもらった。
ローレンシアとの間に流れる川の近くは、肥沃な大地となっていて、戦争で疲弊させて放置するのはもったいないと、殿下が和平とともに、開拓を推し進めたんだって。だけど、もとは国境という場所柄、ただの農夫を移住させるわけにはいかなくて、屈強なもと兵士たちから屯田兵として募集し、開拓に臨んだんだそうだ。
「これだけ豊かになってきてくれてたら。殿下、うれしいだろうねえ」
報告に来た農民と、肩を抱いて喜びあってる殿下を眺める。
うん。うれしそうだ。
王子さまらしくはないかもしれないけど、心の底から笑ってる。
村人たちの報告が終わってから、私たちは、砦の責任者、メルクリオス将軍に部屋へと案内された。
メルクリオス将軍は、多分40代後半ぐらいの男性。
こんな前線を任されるのだから、偉丈夫…って言いたいけど、う~ん。バルトルトさんのほうが偉丈夫。どっちかというと、ボデッとしたお腹に、ノシノシ歩く姿は、王都の貴族に近い。まあ、平和な時ならこんな将軍でもいいんだろうか。
それとなくイリアーノさんに訊ねたら、「平和な時は、橋を渡る人物に目を光らせてればいいだけだから」と微妙な返事をもらった。もしかしたら、イリアーノさんたちも、この人事に不安を覚えてるのかもしれない。でも、国王陛下の推挙らしく、文句が言えないらしい。
案内されたのは、砦になかにある小さな居館。居館は使わない部屋も多く、実質の稼働範囲はとても狭い。三階にある殿下のための居室、その向かい側と隣にバルトルトさんとフィオリーノさんの部屋。
二階は、その他の随員の人たちの部屋。それと、殿下の執務室。メリクリオス将軍の居住空間。
一階は、食堂や、応接間、広間など。ちょっとここだけ使われている部屋が多い。
…って、あれ⁉ 私の部屋は!?
キョロキョロしてたら、イリアーノさんに、
「レオくんは従者だから、殿下と同じ部屋」
と言われた。
うえええっ⁉ マジですか⁉
殿下の部屋を覗いたとき、ちょっと小ぶりの寝台が続き部屋にあるのを確認したけど。
(まさか、あれが私の部屋になるなんて)
う~。こじんまりしただけで、王宮にいるのとさほどかわらないじゃん。
扉がついてなかった分、こっちのがいろんな意味でアブナイかもしれない。
将軍は、夜、私たちを歓迎するために、小さな宴席を設けてくれた。給仕は、村から呼ばれたオバちゃんたち。
私も給仕を手伝ったほうがいいのかなって思ってたら、他の随員たちと同じように、席に着かされた。
「アンタは、いいのよ。ちゃんと食べて大きくなりなさい」
村のオバちゃんたちが給仕をしてくれる。
一応、殿下より先に口をつけ、毒見をするんだけど。
「んっ、おいしひ~‼」
マナーも忘れて、何度も感動しちゃうほど、すごくおいしかった。
特に、この羊っ!!
今まで味わったことないぐらい、おいしい。
頬っぺたが落ちるって表現あるけど、まさしくその状態。ゆるゆるになる頬を片手で押さえる。
「そんなに気に入ったかい!?」
給仕をしてくれた、オバちゃんが、大きすぎる胸をユサユサさせながら笑った。
「はい~。もうおいしすぎて~。こんなの王都でも食べたことないですぅ」
王都で食べる羊と何が違うんだろう。
さっき話してた牧草とかかな。それともこの村の環境かな。こんなにおいしいの食べられるなんて。ああ、従者やっててよかった~。
「そんなに気に入ったのなら、こっちもお食べ」
オバちゃん、羊肉、追加投入。
「なんだい、肉ばっかり食べててもダメだろ。ほら、この野菜もお食べよ」
「ドンドン食べて、その細っこい身体を大きくしなきゃね」
気がつけば、あれやこれやと、オバちゃんたちが集まって、給仕をしてくる。給仕…⁉ いや、給餌。これ、完璧に肥育のための餌付けだよな。
「ハハハ。殿下の従者は、よほどこの土地の味が気に入ったようですな」
殿下の隣で、葡萄酒を掲げた将軍が笑った。
「そのようだな」
殿下も軽く笑ってる。
いやでも、ホントにおいしいんだから、手がとまらない。
太る~とか、お腹はちきれる~とか、もう考えらんない。
とりあえず、毒は入ってないようですよ、殿下。
……ゲプッ。




