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2 好きが告えない

それから休み時間になるたび、義理だったり本命だったり義理を装った本命だったりと様々なラインナップのチョコレートを受け取ることになった。囲まれているおかげで女子が撒けず、とうとう終業のチャイムが鳴ってしまった。

ヤバイ。しかも告白とかなんて言ったら良いの、マジで。

好きだという一言に至るまでのシチュエーションが何ひとつ浮かばない。

自分で言うのもなんだが、俺は自分の顔が整った部類であることを自負しているため、自分から距離を縮めようとしたことがない。身長もクラスで1、2を争う高さだし、学力は平均的だが運動神経もそこそこ良い線いってると思うし、文化祭の校内イケメンランキングでは先輩を凌いで2位を獲得した。

1位は幼馴染みの水城小夏の兄であり生徒会長の3年、水城光太郎だった。コウちゃんと呼んで小さい頃から慕っている大智の憧れである。彼は1年の時からずっと1位らしいが無理もない。

コウちゃんは剣道が得意な黒髪眼鏡男子である。品行方正、眉目秀麗、文武両道…その他諸々とりあえずハイスペックで、男の大智でも惚れ惚れしてしまうほど魅力的な人なのだ。だから彼に負けてももはや悔しくない。

そんなイベントのせいもあってか、大智は中学時代にも増して、美人なお姉さんやかわいい同級生からよく声をかけられたり告白されたり、ある時は…人気のないところに呼び出されて、男としては屈辱的な行為を受けかけたりもした。全力回避したが。

そんなこんなで周りの人間は全員自分に惚れているような生活を送っているときに、彼女、盛岡くるみと隣同士の席になった。


最初は、なんか明るくて可愛くて良い子だなーくらいにしか思ってなくて。こう言っちゃ悪いけど、アプローチ方法なんて知らないくせにちょっといいなと思った子には優しくしてれば向こうから言い寄って来てたから、自分はは百戦錬磨だと甚だしく勘違いしてたんだ。

なのに当のくるみはなかなか陥落せず。知らない間に大智の方が完敗していた。

だからこのイベントを使ってせめて、くるみちゃんに意識してもらえるようになったらって。もし振られても、くるみちゃんが幸せになれるなら、別にくるみちゃんの笑顔を作るのなんて誰でもいいとさえ思った。くるみちゃんの笑顔をできれば近くで見ることが叶うなら、それを陰で守ろうと、そう思ってた、はずなんだ。


なのに。


君の、そのわかりやすいようで何か隠しているような、笑顔ひとつに紛れたわかりにくい表情が一つずつわかっていくたびに、新しい顔を知るたびに、嬉しくなって、苦しくなった。

俺が助けてあげたい、守ってあげたいって気持ちは勝手に一人歩きして膨らんで、もう戻れなくなってしまっていた。

俺ってこんなに我が儘だったっけ?

望むものは大きくなるばかりで。

ああ、こんなに君のことが好き。

君の幸せを作るのは、いつだって俺でありたい。…君の、一番になりたい。

くるみちゃんに大切な人ができても、それを痛感してもまだ、こんなことを思ってしまうんだ。

だってもう1歩早ければ、あそこにいたのは俺かもしれない。

そんな風に期待と後悔を抱きながら…たぶん、もう2歩早くても、君が俺を選ばないことも、それとなく、わかってた。

そして気づいた。

君を幸せにするのが俺でありたいって思うのは。君がどうしても手に入らないからっていう…ないものねだりだったのかな?

「これは、…俺のエゴだった…?」

何気なく呟く声は、空っぽの教室に吸い込まれて、反響することなく消えていく。

他に生徒のいない校舎裏で幸せそうにキスをして、手をつないで帰っていったのは。見紛うことなく、くるみと、同じクラスの谷口聡だった。

告うこともできず、えも言われぬ喪失感が大智を襲う。3袋にどっしり入れられたチョコレートを両手から落とした。

…なんでアイツ?

俺の方が背も高いし、俺の方が顔だって運動神経だって良い。俺の方が…。でも、

「あんな幸せそうな顔、初めて見た…。」

アイツの方が、君を笑顔にできるんだ。

遠目でもわかるくらい、彼女は真っ赤になって、涙目で、それでもこれまで見た中で一番、喜びに溢れた表情だった。

「終わったな…。」

茜色に光る空は、下校時間を告げる放送は、大智を悲しくさせる。これ以上足掻いたって、自分が辛いだけだとわかっているし、どうしてか虚無感が残るだけで、それ以上の嫉妬や羨望は湧き上がって来なかった。

「…まただ、」

最後の一人だった教室から足を踏み出して、ロッカーへ向かう。眩しい太陽に背を向けて、自分の可笑しさを嘲笑する。

また少し、影が長くなった。

「なんで追いかけようと思わねーんだよ、俺!」

怖いくらいに、もう彼女に対して気持ちは残っていなかった。

いっそ雨に降られてずぶ濡れになりたい。

それでも夕陽は輝いて、それを隠す雲さえ見当たらなかった。

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