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組織設計はどこかへ放り投げた

 さて、次の手紙へ行こうではないか。


 「やっぱり、姉さんの負担が大きすぎると思うよ。今回はこれでいいとしても、これからもずっとというわけにはいかないよ。」


 ノエルの言うことも最もである。

 私は最高責任者という立場なら全て目を通すべきと言ったが、最高責任者が何人いても足りない。それでは()()責任者ではない。

 必要なものが私の手元に届く、組織設計が必要だ。

 コールセンターみたいなものだが、設計図を書いてみるのもいいかもしれないな。

 今後は、それぞれの領で捌ききれなかった手紙も同じように届けられるのだから。


 裁判所みたく、内容によっては上に回してくようにしようか。裁判所という例えが良いのかはさておき。


 各領からの報告書、代表者が書いたものは直接ノエルと瑞稀、そして私のところへ。

 それ以外のは何人かに割り当てて、解決できそうなものはそこで解決、しないものは上に上げる。


 うん、なんの変哲もない仕組みだね。

 問題は人手だね。

 これ以上彼らの仕事を増やすのも本意じゃないし。


 文字の練習のための文通は皆に任せてもいいけれど、流石にコレは孤児院とかに委託するのも気が引ける。私としては王都に行く前に教科書の作成を終わらせておきたいのだけれど...。仕事量が多いな。ホント、どうしたらいいんだか。仕事を効率化する技術がないかをドワーフの方とサエラさんに相談してみようか。働いたことというのがないから本格的にはわからないのだけれど、まぁ、要はPCが欲しいよね。仕事効率化のアプリ全部入っているやつと、あとついでに電子メール。で、それで全て解決するのかというとそうじゃなくて。

 そうだな、時間かかっている丸つけ作業をなんとかしたいよね。つまり、マークシートにして自動採点とか、機械採点。でも、流石にそういうのは無理だし、そもそも、マークシート式にするつもりはない。


 まぁ、後にしよ。

 組織設計は軽く、重要度の高いものだけ私の元に来るようにだけしておこう。


 あー。やりたいことはたくさんあるのに、人手と時間が足りなさすぎる。


 じゃぁ、次に行こうか。

 カステン辺境伯家からの手紙だ。

 ここまではエマールより家格が上だね。

 あ゛〜、王家が残ってた。


[エマール伯爵家の皆様。この度は授業へのお誘い感謝する。私はユーグ・フォン・カステン、カステン辺境伯家の現当主だ。これからは私が定期的な連絡とその他業務を担う。よろしく頼む。この施策によって全兵士が文字を扱えるようになったなら、伝達がより速やかなで確かなものになるに違いない。我が領はご存知かもしれないが、国防をになっている。そのため、この施策には積極的に協力していきたいと思う。改めて、世話になる。尚、どうしても娘が手紙を書きたいそうだったため、娘、アンの手紙を同封した。読んでくれると嬉しい。ユーグ・フォン・カステン。]


 簡潔で気持ちのいい手紙だな。

 様式が定まっていないだけに、その人の人柄が真っ直ぐと現れる。個人的には好きだよ。書くとなると大変だけど。


 で、そのアンという人の手紙は?


[一方的に手紙を送る無礼を先に詫びる。私はカステン辺境伯の娘、アンというものだ。礼節に疎いため、失礼な部分があっても見逃してくれると助かる。私は、恥ずかしながら、戦うことしかできない。幼い頃、座学のときもじっと椅子に座っていることができなかった。かろうじて文字を扱えるようにはなったものの、見てわかるように、たどたどしい。美しくなく、なんとか読める程度だ。貴族である義務としてマナー等も学んだが、それもなんとかできるようになっただけだ。私は、戦うことで国を守ることしかできない。そう思っていたし、その考えは今も変わらない。だが、初めて授業を聞いて、あの時間だけはずっと椅子に座って聞いていられた。あの授業というものには嫌悪感を抱かなかった。私は考えることが苦手だと自覚している。だが、変わっていけるだろうか。国を守るために、もっと強くなるために、私はできるだろうか。返事はなくても構わない。ただ、少しでもそう思わせてくれたあなた方に感謝したい。アン・フォン・カステン]


 なるほどね。

 言ってしまえば、勉強嫌いのスポーツマンってやつだね。

 一度勉強に嫌悪を抱くとそれを払拭するのは容易じゃない。

 そう考えると、エマとセルジュはかなり凄いことをしたのではないかな。

 この手紙はエマやセルジュに読ませよう。きっと、己を鼓舞する糧となるよ。


 この人は個人的にって感じだから先に返事を書いてしまおうか。


[初めまして。授業で講師をしているセシルと申します。私も礼節には疎いので多少の無礼は見逃していただけるとありがたいです。まずは、授業によって考え方が変わったと言って頂けたこと、嬉しく思います。これからも楽しんでもらえるような授業をつくっていけるように努力します。貴方は兵士またはそれに類する職種に就いていると類推します。座学と全て纏めてしまうのは、いささか乱暴でしょう。例えば、戦術なんかを学ぶのは面白いかもしれません。故事や歴史を元にして、どのように兵を動かせば勝てるのか、というのも一つの戦術の学び方でしょう。そして、実際の戦闘ならば、人間の体の仕組みを学ぶのも一つの強くなる手段だと思います。感覚的ではなく理論的になるのです。人体には急所と呼ばれる部分が存在します。また、他にも人体の仕組みを考えれば、人を殺す方法、そして殺さない方法が分かるでしょう。他にもいくつだって必要な知識は存在すると思います。そして、私たちはそのための基礎を固めるための授業をする予定です。何を学ぶにしても必要な根幹となるものを。ですから、お付き合い頂けると嬉しいです。最後になりますが、もし、自分の手紙の文字をどうにかしたいと思うならば、文字の縦と横を合わせると良いと思います。支給品のノートには横線が入っていると思います。その上に紙をのせれば、透けて線が見えるでしょう。それを目安にするのが良いと思います。加えて、線の間一杯に文字を書くのではなく、少し、余裕ができるように書く方が美しく見えるでしょう。文字の形を整えるのは一朝一夕にはいきませんが、文字の列を揃えるのは容易かつ、それだけでかなり印象は変わってくると私は思います。セシリア・フォン・エマール]


 こんなもんかな?

 ちょっと長くなっちゃったけど。

 辺境伯様へはちゃんとパルテレミー公爵家に書いたみたいにちゃんとするから。


 あ、印鑑が欲しいな。済と書いてあるハンコも。


 「姉さん?また仕事増やして、これ、最早、個人的なものだよね?」


 ノエルが食ってかかった。


 「そうだけど、まぁ、いいじゃない?」


 「いや、よくはないでしょう。」


 ノエルって意外とそーいうとこ、しっかりしてるんだよな。


 「はぁ。こーいうの、姉さんが見逃せないことくらい分かってるから。なるだけ、姉さんに回さないようにするよ。」


 ノエルがいなかったら、私は何回潰れていただろうか。


 「い゛づもありがどー、ノエル。」


 「気にしなくていいよ。姉さんだって僕以上に仕事しているんだから。」


 こういうところがズルいんだよな。

 きっと将来モテるよ。


 「あとは、これ、返事まで書いておいたから、一応流し読みしておいて。」


 ふむ。これは、シャノワーヌ子爵家か。


 「担当するのは先代の夫妻みたい。通常業務は当代の夫妻が行うっていう分担だと思う。」


 「なるほど。確かに分担としてはこれ以上ないね。」


[エマール伯爵家の皆様。この度、この施策にお誘い頂き、ありがとうございます。この施策はドナシアンとマルゴットが中心となって実行してまいります。よろしくお願いいたします。授業を聞き、とても勉強になりました。あれほど分かりやすく、苦痛なく、文字を学ぶことができるとは思ってもいませんでした。どうやら、次の回では楽しいことをする模様。一同、楽しみにして待っています。もし可能であれば、で構いませんが、一組、2冊目の教科書を頂けないでしょうか。好奇心というものでございます。不可能ならそれでも構いません。重ね重ね、よろしくお願いします。ドナシアン・フォン・シャノワーヌ、マルゴット・フォン・シャノワーヌ]


 連名だね。

 2冊目の教科書くらいあげるけど、授業に参加したいというなら、実験系は無理だな、ゴメン!!


 「そして、こっちが僕が書いた返事。」


 渡された紙にはたった一行で書かれていた。


 「あぁ。えぇっと...、[世辞はいらないから簡潔に纏めてくれる?]って、えっ?これ送ったら不味くない?」


 「あぁ、間違えた。それは僕の本音がうっかりとひょっこり出てきてしまったボツだ。ごめん、こっち。」


 そんなにストレス溜め込んでるの?忘れがちだけど、ノエル2歳だよ?私、4歳。

 そう言って渡された、紙を読む。


[初めまして。手紙の返事を書くセシルの助手のノエルと申します。この度は授業への協力ありがとうございます。これからも授業は楽しくをモットーにしていきますので、苦痛少なく文字を学ぶことができると思います。教科書の方はお送りしますが、もし、2年目の方と同じ授業を受けたい場合、全ての授業を同じように受けられないと思います。その辺りはご了承ください。以降も率直な意見をお待ちしております。ノエル・フォン・エマール]


 本当に2歳だろうか。

 改めて聞く。本当に2歳なんですか?

 教科書を執筆している時点でおかしいとは思っていたけれど、こんなに綺麗に纏めてくるとは。


 「うん、文句のつけようがないくらいに素晴らしいよ。本当に、うん。姉の立つ瀬がないよね。」


 「そんなことないよ、姉さんがいなくちゃ、僕はここまでになってない。」


 ノエルはそうやってフォローしてくれるけど。


 「いや、私じゃそんな文章書けません。」


 文才、ないからさ。

 説明文とかならまだしも、人に宛てた手紙で失礼ないようにとか、無理だからさ。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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