報告書と手紙の山
手書きで書かれた手紙をなかなか捨てられない性分はデジタルネイティブと呼ばれるような世代だったからでしょうか。
手書きで書かれた手紙と電子メール、電子メールは意外と簡単に捨てられる、というか捨てなくても机は荒れてこないんだけど、手書きって心込められてる感じがして、なんか、捨てづらいんだよな。汚い字とか紙とかだったら、意外と迷惑としか思わないんだけど、みんな綺麗なんだよな。封蝋とかも?綺麗だからとっておきたいんだけど......。
さて、各地から寄せられた手紙を仕分けていきましょう。
まずはドワーフの街?から送られてきた手紙。
[電気というエネルギーがあるらしいが、それの作り方や利用方法がわかるなら教えて欲しい。]
なるほど...私もよく分からずに使っていたからな。正直、利用方法とか、途中経過が抜けてしか教えられないし。
ただ、分かることがないわけでもない。
電磁誘導
コイルをぐるぐる巻きにした中に磁石を出し入れすると電気が起きるということ。
この電磁誘導を基本とした発電機はわからなくもない。
もやっとしてるけど、図示しておこう。
あとは、ニットとかセーターに関する技術もちょっと聞いておこう。
うん、これでいいや。
ブラシと整流子、あとは両サイドに磁石を置いて、フレミングの左手を使って、こういうふうに回ると...で、やればいいのかな?
回し方は色々とあるけど、環境のことを考えるなら石炭火力や天然ガスを利用した化石燃料の使用は無しで、原子力はもっとなし。だから、水車や風車を使う感じで。太陽光は、仕組みがよくわからないし。
まぁ、本場の職人さんならなんとかやってくれるでしょう。
「手紙を捌いておるのか。はぁ。その筆の持ち方は、セシル、その指の本数に慣れておらぬな?」
瑞稀が声をかけてきた。
「あぁ。慣れてないよ。どうしたらいいんだか、わからないんだ。<もとは5本だったんだから。>」
核心に迫る部分だけ日本語で話した。
「奴も言っておったわ。......指の本数を変える魔法が存在するのだがな。」
本当に?
それは期待できる!!
「その魔法を使えば、両手の指の本数が合わせて7本になってしまう。左右非対称な上、少なすぎて使いにくかったようじゃ。」
ガーン。
使えねぇ。
いや、マジで使えねぇ。
「やはりショックだったようじゃな。なかなかその面構えも面白いが。」
おい、人を弄ぶな。
続いて、レオンさんたちアズナヴール公爵家からの手紙。
[セシリア嬢。元気に過ごしているだろうか。エマール領には少しの滞在だったが、とても色濃く思い出される。授業関連は私が担当することになった。授業には興味を持ってもらえたようだった。絵を交えた資料はとても魅力的だった。名前を書けるというのはやはりいいらしい。皆が名前を書いては自慢して回っていたよ。うちの家のものも、基本的には参加させていて、私と父は2年目の授業にも参加している。まさか、自分の目が信じられらるかどうかを問われるとは思わなかった。算数の授業についても楽しみにしている。貴族出身の者も、算数は真新しいものだろうから、同じように一つ一つ学習していくようにするつもりだ。尚、今回の授業の計画において、平民を見下すような者は参加させないこととなった。貴女の本意ではないかもしれないが、要らぬ争いを生まぬためこのような措置を取らせてもらった。我が公爵家は中枢でない部分には十分に信用や忠誠がない部下も政治的な都合上おいている。主にそれらの者たちだ。今回の計画は関わっていない領地の者たちには伝わらないように根回しがなされているから、安心して問題ない。しばらくは書面での報告になるが、また会える日を楽しみにしている。レオン・フォン・アズナヴール]
社交辞令がすごいな。これくらい書くべきかしら?
しかし、面倒なのでしないのが私。仕方ない。仕事の連絡だから社交辞令は入れられません。ごめんね?改善する気はない。
ふむふむ。
要らぬ争いを避けるためなら、仕方ないよね。
私だって全員にとは言っても無制限に全員できるとは思っていないからね。あくまで私が初めに目指した全員は、領民で希望する人たち、なんだから。そこをレオンさんが心配する必要なんてないのに。
あと、名前が書けるというのはやはり大きいんだな、と思った。
これ、前回も言ったことだわ。
「姉さん、それ、レオンさんから?」
ノエルが手紙を覗き込んできた。
「うん、報告書、ってほど堅苦しくはないけど、現状報告という奴だと思う。」
ふーん、と言いながらノエルは手紙を一通り流し読みした。
「レオンさん、必死だねぇ。」
「そうね。貴族の手紙ってこんなに社交辞令書くものなのかな?報告書なら、もっと形式的でいいのに。」
「えぇ、姉さん?レオンさん、報われない。」
ノエルは何故か手を合わせて、南無南無〜ってしてた。
この世界に南無阿弥陀とかいないけど、祈るジェスチャーって同じなのかな。
他の領からの報告書の類は一応私が目を通してから、エマとセルジュに回そうかな。それとも、読むのだから、纏めながらの方がいいかな?うん、綺麗じゃなくても、箇条書きくらいにはまとめておこう。
「姉さんはそれ全部読むつもりなの?」
「うん。せっかく書いてもらったから、一通りは読むつもりだよ。実際に参考にするのはエマやセルジュだと思うけど、一応、今回は発表したし、教科書・カリキュラムは組んでいるし、何より、責任者みたいなことになってるから。」
カリキュラムや教科書に問題があったら、修正するのはエマやセルジュでなく、私の仕事である。
とはいっても、本格的に理解度を解析するのはテストを始めてからである。
「ただでさえ、姉さんは忙しいのに、これ以上仕事増やすつもり?」
む?ノエルは若干反対かな?
とはいっても、責任者なら全てを把握すべきだし、知らなかったじゃ済まないし、なんか、家格上も多いし。
「そうじゃ。酒を飲んで楽しくやる時間がないではないか!」
瑞稀の意見には耳を傾ける必要なし。
「なら、斜め読み、ザッと読むから、抜けがないように細かく読んでくれる?それは分担しよう。しっかり読む手紙を分担して、他は軽く読む。これで大丈夫?」
瑞稀はただの飲み会好きの意見だし、未成年だから酒飲めないし。
「それなら......まぁ。返事はその、詳しく読んだものから書いていいですね?」
「うん。迷惑をかけてごめんなさい。返事の内容も私が読んだら代筆ってことにしていいから。」
「謝罪は必要ないよ。僕はここら辺を処理するね。で、瑞稀さん?貴方は手伝いますよね?姉さんの部下ですからね?」
ノエルは瑞稀に笑顔で迫った。
なんか、黒い雰囲気があるが、まぁ、楽しそうだからいいでしょう。
「むぅ、まぁ、仕方がない。我も協力しようではないか。家格といったか?身分がセシルらの家よりも上のものは本人が対処した方がよかろうて。それも仕分けようぞ。」
瑞稀は本気出したら凄そうなんだよな。
人生経験豊富な上、恐らく、寺子屋設立にも一枚噛んでいる。
なら、私は自分の仕事をこなすだけだ。
「では、瑞稀、ノエル。よろしくお願いします。」
「もちろん。」
「うむ。」
レオンの手紙についてセシルは社交辞令が多いと言っていますが。
"また会いたい"などは形式的な"Best wishes"や"Dear"などのリップサービス的なものと思っています。
彼女にとって英語の教科書で読んだ手紙の書き方で、相手に"Dear=親愛なる"や"Love"を入れていた記憶がとても色濃く残っていることでしょう。尚、英語は学校の学習に加えて勉強していたが、所謂ビジネス英語には手を出していなかったため、ビジネスメールなどで使われるフォーマルな結びなどのルールは知らない。
何話か割り込み投稿されています。
詳細
エマール領視察編の最後にレオンとノエル視点の話をそれぞれ追加。
閑話でそれぞれの貴族家の授業前の様子を追加。




