閑話 : パルテレミー公爵家
<パルテレミー公爵家>
公爵 アンドレ・フォン・パルテレミー
公爵夫人 オフェリー・フォン・パルテレミー
長男(次期公爵) アロイス・フォン・パルテレミー
次男(第一王子側近) マティアス・フォン・パルテレミー
先代公爵 アドリヤン・フォン・パルテレミー
先代公爵夫人 イレーヌ・フォン・パルテレミー
アズナヴール家当主、エリクから連絡を受けたアンドレ・フォン・パルテレミー公爵は長男であり、次期公爵であるアロイスを執務室に呼びつけた。
「父上、アロイスが参りました。」
「入れ。」
扉を開けてアロイスが入室した。
執務室には二人の他に誰もいない。
「アズナヴール公爵から手紙が届いてな。エマール家で行った識字率向上の施策を我々に提供するという約束を取り付けてきたらしい。」
「!?」
突然、鈍器で殴られたようなショックに呆然とした。
「対価のことを気にしているのなら、それは問題ではない。なんでも、対価なしで引き受けられてしまったそうだからな。」
(意味がわからない。対価なしとは、何を狙っているのか。後でとんでもないことを要求されるのか?)
アロイスは激しく困惑した。
「問題はその施策の実行なのだが、次の月から一斉に行うそうだ。遅れてしまうと、また来年まで待たねばならない。それは困る。他が次の月から始めたならば、我らは大きく遅れをとることになるのだからな。」
アロイスが困惑する中、更なる疑問の種が降り注ぐ。
「よって、我々も準備をせねばなるまい。施策を実行するのは我々だ。エマールには知恵を貸してもらったに過ぎない。その施策の方法も詳しくまとめられたものがあるため、それをうまく活用するようにとのことだ。そこで、次期公爵であるお前にこの施策の実行を任せたい。人なら自由に使って構わない。お前の弟もだ。これを成功させよ。」
アロイスに無茶振りがどんどん重ねられてゆく。
「この施策の実行はお前の当主としての資質を問うものだ。お前の実力を見せてくれ。以上だ。必要な資料はここに全てある。頼んだぞ。」
アロイスは呆然としたまま話が終わってしまった。
無理だろ、と思うが答えは一つ。
「承知しました。成功させてみせましょう。」
「うむ。期待しているぞ。」
アンドレは息子にそう返答し、心の中では
(私も真剣に授業に参加しようか...。)
と考えていた。
アンドレは実際に教科書を読み、そのレベルに驚嘆したものの一人なのだ。
父親の執務室を後にしたアロイスはまず、自分の弟に協力してもらおうと、相談することにした。
「マティアス、居るか?」
「兄さん、なんか用?」
アロイスの弟、マティアスは第一王子の側近であるため、偶に領地に戻るが、多くの時間を王都、王宮に出仕することで過ごしている。そのため、領地にいるのはかなり珍しいのだ。
「親父から頼まれた施策を手伝ってほしいのだが。」
「施策?それって急ぎ?次の月の始めの休息日までしか居られないけれどいいの?」
「あぁ。それだけ居てくれるのなら十分だ。実はな、この施策なんだが...。」
アロイスは弟のマティアスに父から預かってきたマニュアルその他を見せた。
「あっ!!それってエマール家から借りてきた施策だよね?」
表紙を一度見た瞬間にマティアスは声を上げた。
「知っているのか?」
「知っているも何も、フィリップが、第一王子殿下が頭を悩ませているものだよ。第一王女のエミリエンヌ殿下まで一緒になって王都の屋敷に残るそれぞれの家のものたちがこの授業というものを受けられるようにというのが課された課題。それが終わるまで仕事はほぼ免除されるそうだから俺も領地に返されたわけなんだが。きっと、分かってて帰したな?」
マティアスはしてやられたとばかりに頭を抱えた。
「そうだったのか...。ならば話が早い。これをなんとしても次の月までに。」
「あぁ。わかった。協力させてもらうよ。」
兄弟はがっちりと握手を交わした。
「蛇足だが、王家直轄領のケリルスは現在隠居している先代の国王夫妻が主導するそうだぞ。」
「それだけの大事だ。これは......。」
しれっとマティアスがもたらした情報にどう返していいのかも分からないアロイスであった。




