閑話 : カステン辺境伯家
<カステン辺境伯家>
当主 ユーグ・フォン・カステン
夫人 サシャ・フォン・カステン
次期当主(長男) ジョアシャン・フォン・カステン
夫人 セリーヌ・フォン・カステン
長女 アン・フォン・カステン
次女 アナ・フォン・カステン
先代当主 ガスパル・フォン・カステン
夫人 ファニー・フォン・カステン
カステン辺境伯の領地は名前の通り辺境にある。
彼らは国境の山脈に出る魔物との戦いを繰り広げていた。
彼らこそが、魔物たちから国を守る砦なのである。
「父上、どういうことなのだ?」
アンは父親であり、当主であるユーグの元へ駆け込んだ。
「どういうこととはなんだ。」
ノックもせずに部屋に突撃してきた娘を注意することもなく、ユーグは用件を聞いた。
「私も授業というものを受けるということだ! 確かに、賢い者は凄いと思うし、尊敬こそすれ、見下したりはしない。だが!! 私には必要のないことだ! 私はずっとここで戦って国を守っていく!!」
力強く言い放った。
辺境伯家では授業に関する全ての業務を辺境伯であるユーグが担い、それに伴って通常業務を全て次期当主であるジョアシャンとその妻セリーヌに任せていた。そして、自分を含めた領民全員に授業を受けるようにと伝達していた。それは当然、当主の娘であるアンも同様だ。
辺境伯家はその家の性質上、信用できない者は入れないことになっている。そして、実力のある者を身分を問わず認められるような者でないと務まらない。よって、全員に授業を受けるように命令することとなったのだ。
「お前は授業を受けたくないということか。」
ユーグは冷静に問うた。そこには怒りなどの感情はなく、ただ、娘の考えを聞きたいようだった。
「受ける必要がないということです、父上。私は兄のようにこの家を継いで領地経営をするわけではありませんし、かといって、他の者のように頭を使った策謀にも不向きだと自覚しています。私にできることは戦ってこの領を、国を守るのみ。私は授業を受けることよりも鍛錬をする方が領の、そして国のためになると考えています。」
アンは割り切った気持ちの良い性格をしており、人に好かれる、尊敬されるような人間であるが、問題があるとするなら、脳筋すぎるところだろうか。"強い者は弱い者を守るべき"という信条に加えて、頭脳に長けるものを尊敬もしているが、自分が長く机に座っていることはできないのだ。
「この授業は全員に受けるように言っている。それがすぐに標準となるはずだ。狡猾さや賢さ、策謀を求めているわけではない。その時間だけでも授業を受けなさい。先に言っておくが、これまで、お前が幼い頃に受けてきた勉強とは異なるだろう。もし、先入観があって嫌だというのなら、一度受けてみなさい。」
ユーグは受けるように促した。
「父上がそれだけ言うのなら受けないという選択肢はないのだが、他に納得ができる理由が欲しい。」
あくまでアンは尋ねた。
「強くなるために、領を守るために、国を守るために、お前には授業を受けてほしい。それをどう使うかがお前が決めろ。だが、きっとそれは役に立つ。私が保証しよう。」
アンはその理由に目を見開き、覚悟を決めた。
「それが領、そして国のためとなるのなら、私は授業を受けましょう。」
ユーグはそれを見て満足そうに頷いた。
ユーグは貴族出身の者たちに授業のスタッフとして依頼していた。
文字が読めることがこの仕事の最低条件だからだ。
彼らは快く引き受けてくれた。皆が文字を扱えれば報告書の枚数が減るだとか、任務の司令書をいちいち読み上げずに済む、とかいう下心があったのは事実だが。
そして、彼らもまた授業に参加し、算数を身につけなくてはならない。
算数というものの得体はユーグですらはっきりと分からないが、算数を学ぶことによって武器庫の管理がしっかりとできるようになるという情報があったため、全員にしっかりと履修させる予定だ。
辺境伯領もまた、授業によって大きく変わっていく領地の一つだろう。




