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2日目 IV 歓談が続くので逃げ出したい。

 セシルです。

 歓談が続くので逃げ出したいです。

 泣いてもいいですか。


 昼食が終わったというのに何故だか会話が弾んでいます。

 いつも何をしているのかって授業の準備だけです。教科書作ってカリキュラム作って、休みの日??そんなものありませんよ??このパンが美味しいですね?確かに美味しいですよ。それが?

 よく分からない話題に対してマニアックに入り込まないように話すのは無理なんですよ、はい。


 偉い人との話し方ってわかんないんだよね。

 公爵さまなんて偉すぎて雲の上?みたいな人じゃん?天上人??仙人??

 なんか、めちゃくちゃ美形だし、綺麗だし、優雅だし、こんなちっぽけなスッポンにも及ばないミジンコに話しかけてくれる広すぎる器とか。もう、よく分からないよ。


 「セシル嬢??セシル??」


 あれ?

 何の話してたっけ?

 なんで公爵さまが話しかけているんだ?


 「ナンデスカ?」


 「おっ応答したね。視察に行ったら何が見たいって話だよ。」


 公爵さまは神ですか?

 優しすぎてそのうちつけ込まれたりしませんかね?


 でも、この質問ならいける。Yes / No じゃないけどいけそうだ。


 「そうですね......仕事内容、つまり生産しているものは当然のことながら、同じものでも他の集落との差異に注目したいですね。あとは、雰囲気とかですかね?」


 「雰囲気というと?」


 「人同士の関係性が主ですね。家の形や場所からも読み取れるかもしれませんが、村や集落全体が家族のような感じなのか、家族ごとの繋がりの方がより密接で集落内の繋がりが希薄なのか。どちらのケースもいいと思いますが、関係性で随分と村の見え方も変わってくるかと。産業にも関わってきますしね。」


 「なるほど。他に何かあるかな?」


 他...ほかねぇ...。

 「事前調査をもとに学習状況が特に良い集落とそうでない集落の差を見てみたいですね。」


 「学習状況なんて調べているのか?」


 「えぇ。今は主にノエルの担当ですのであまり見ていませんが、基本的に定期的にテストで学習状況を確認し、その結果を分析していますね。」


 そうなんだよね。最近、合計や平均とかの計算は全部ノエルに任せちゃってる。

 授業を受講する教会ごとに点数の平均を出しているから、なんとなくわかるんだよね。

 そのデータも多くなってきたから、1回ごとのコンディションが影響することも少なそうだし。


 「へぇ。面白いね。分からない人が多そうだと結果が出たなら授業で再度それを扱ったりするのか。」


 「はい、勿論、それが目的ですから。」


 ヨカッター。

 こういう質問だったら答えられるんだよね、うんうん。


 「なるほど、仕事量が膨大になるのも当然、か。今はノエルがその状況を見ているそうだが、他の者には任せられないのか?ノエルは貴方の優秀な補佐だと理解しているのだが?」


 「はい。ノエルに任せるようになったのもここ数ヶ月の話です。丸付けなどの採点や点数ごとにテストを分けるなどは他の人にも任せていますが、分析は私かノエルがやらないといけないので。」


 採点もかなり工夫することで他の人ができるようにした。

 具体的には点数は全て1点にし、テストには必ず表がつけられ、まるを一つ付けたら表に一つ丸をつける、そして最後の丸に書かれている点数が全体の点数というようにした。二桁以上の計算がスムーズにできる人もまたいないのだ。


 「分析というのはそれだけ難易度が高いものなのか。」


 その答えは No だ。

 分析というカッコいい言葉は使いつつも、私も統計をしっかりと勉強する前に死んでしまった故に、本当に求めているのは平均、度数分布くらいだろう。

 その平均というのは超簡単だけど、今の計算の普及を考えると難関といえるのだろうな。

 ならば、 Yes と答えるのが正しいのか?


 「今は"はい"と答えておきます。ですが、いつかはその程度の分析が誰でも手が届くものとなるはずです。」


 これが最良の答えだろうか?


 「それだけ難関なものをか?」


 「今はスタートしてまだ1年足らず、勉強している時間もたったの週に1日、それも2時間程度。それでここまで辿り着けるなら不可能でないと思っています。」


 コレは本心。

 正直、四則演算できたらすぐにできること、概念も何も公式一個でできる。誰でもできることだろう。計算が面倒で間違えが発生するかもしれないが、それとコレとは別のこと。


 「本当に...すごいな。私の領地でも行いたいくらいだ。」


 ?そうなの?

 やればいいじゃん。


 「なら、どうぞ。」


 「はい?」


 「私やノエルは次の授業をしなければならないので不可能ですが、今ウチの者が修行中なのです。来月くらいから、今年に授業を受けるような年齢に達していなかった子に向けて授業を行います。魔道具で放送を届けることができるなら、そちらでも放送していいですよ?勿論、人員が足りなくなるのでお借りしたり、経費は父が管理しているので出せませんが。他の庶務雑務はよく分からないので、何とも言えませんが、うまく纏まりませんか?」


 「姉さん??そんなに簡単にいいの?」


 ノエルはなんか焦ってるけど。


 「いーんじゃない?だって受講者一気に減るから教科書は多分余るし、余った分は多分お父さまが王都にばら撒くと思うからあげても結局同じ。放送も同じ時間に見る人が増えるだけなら負担はない上、エマとセルジュのやりがいも増す。イーヴに頼んだ試みの被験者も増える。いいことだらけじゃない?」


 だって、イーヴに頼んだ、準備段階の講座なんて受ける人が少なすぎてどうやって検証したらいいかわかんなかったもん。頑張って作ったテストも多分使い回しで大丈夫。念のため順番は変えておくけど。

 あとは、うちの領だから成功したけど、他の領じゃ無理でしたってならそれも参考にしないとね。


 「そうなんだけどさ......。姉さんは色々と出し惜しみしようよ。価値わかって言ってる?」


 そりゃ、授業料とか本来頂くんだろうけど、あとは印税??その他諸々......でもさ、通貨って概念がない中で知的価値とか著作権とか無理な話だと思うよ??私は計算とか便利とかいう意味でお金はあった方がいいけど、下手に格差が広がるなら特別作らなくてもいいんじゃないかと思っているんだよ。


 「価値って何を払うのさ。お金ないでしょ?」


 ノエルには通貨って話を一度している。大きな数の計算に使えたからね。文章問題で。


 「ないけど、例えば貸しにしておくとか、色々あるじゃん?」


 まぁね。貴族社会ってそんなもんかな。でも、分かりにくい。


 「曖昧で面倒でしょ?いいじゃん、私たちは衣食住がちゃんとあるんだから。最低限どころか最上のがさ。健康で文化的な最低限度の生活どころじゃないでしょ。超裕福じゃん。なら、ちょっとくらい気にすることなくない?」


 健康で文化的な最低限度の生活を営む......日本国憲法の言葉ですが、今の私は超VIPです。


 「はぁぁぁぁ。」


 ノエルがため息ついてる。


 「溜め息つくと幸せ逃げるよ?」


 ノエルは頭を抱えた。


 知的財産に投資するのはいい判断だと思う。たとえ他の領だとしても、皆の水準が底上げされれば、それだけいいものができる確率が上がる。なら、自分の生活を豊かにするための利己的投資とも言えるよね?


 「ノエル、貴方は苦労するな。」

 「アズナヴール公爵......」


 ノエルが声を掛けた公爵さまを崇めるような目で見ている。

 信仰は自由にしていいと思うけど、ノエルってばそこまで追い込まれていたのかな?


 「セシル、善意というのは基本的に信じちゃいけないものなんだ。だから、下手に自身に利益が出なさそうなことを言うと逆に疑われるよ?」


 「大丈夫ですよ、レオンさま。地獄への道は善意で舗装されていると聞いたことがあります。もう一つ、放送についてはこちらにも巡り巡って利益はあるんですよ。そうやって皆の水準が上がれば、発明や開発、そのほかのスピードが格段に上がりますから、私たちはより快適な生活を生きているうちに享受する可能性が高まるんです。」


 「それって、利益なのか?」


 レオンさん、何を言っているんだか?そもそも、私の考え方が珍しいのか。


 「当たり前でしょう。知的財産は失われることのない、貴重なもの。研究は長きにわたって続けられるもの。研究する人間が増えれば成果も増える。当然のことでしょう。」


 数学と自然+社会科学とファンタジーの融合、甘美な響き。まぁ、私は何も専門的なことは知らないけどね。あとは研究して見つけてくれ、がんばれみんな。平凡な私はそういう人たちを育てることができたらいいなと思っていますよ。


 「ハハハ。すごい考え方をするな。俺には思いつかん。」


 レオンさんが笑ってる。馬鹿にしちゃダメだよ。変なこと言ったかもだけど。


 「揶揄わないでください。」


 「いや、面白がってんじゃなっハッハッハ。」


 面白がってんじゃん。

 というか、ノエルも公爵さまも笑ってる。


 いくら、夢が大きいからって馬鹿にしていい道理はないですよ。

 いくらスッポンが月見てたって否定しちゃダメですよ。だって、月綺麗だもん。


 そんな感じで会話が弾み、お父さまからの許可が出て、明日からは領を巡る視察です。

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スピンオフ短篇の紹介

「ラッキー7の世界で」スピンオフ短篇

作品紹介


完結済

すべてはあの桜花のせい

悠という少年の巣立ちの物語。推理SF小説。

連載中

魔女の弟子と劣等学級 -I組生徒の過ごし方-

魔女の弟子が初めて街に降りて人と関わる学園もの。

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