弟は正真正銘の天才でした。
近いうちに弟か妹ができると言うのは聞いていた。
どちらでも嬉しいことなので、是非とも仲良くしてあげたい。
そう思ってた初対面で思ったこと、
"顔がいい"
とても可愛く、美しく整った赤ちゃんでした。
現在、立て込んでいてずっとは見ていられないだろうけど、必ず、仲良くするからね!!
そう言って、仕事に戻るしかなかった。
何故なら、私の仕事は当初の予定より大幅に増えていたからだ。
一つ、私の見通しが甘かった。
二つ、異世界の知識とのギャップが大き過ぎた。
特にキツかったのは絵本である。
教会に読み聞かせを依頼するのは問題なかった。
皆、快く引き受けてくれた。
曰く、
「教会の主な役割は洗礼式で、祈りに来てくれる人はいるけど、ちょっと寂しかった。」
教会に子供や人が集まる計画は大歓迎だった。
問題だったのは、絵本の作成だ。
絵本はここにも存在したので、絵本作家とでも言うべき人たちに私は会ったのだが、この世界の絵本とは、画集のようなもので、絵がメインだった。つまり、話もクソもないのである。
そこで、私が童話を説明して、その場面ごとに絵を描いてもらい、事前に開けてもらったところに字を入れるという作業をしていた。
当然、絵を描く彼らは字が読めないわけで、一回一回、どんな絵を書いて欲しいのかを口頭で説明しなければならなかった。
私は、前に言ったことを忘れてしまって、話が混ざってしまったりした。無駄にしないために、それはそれで形にしたが、それ以来、パワーポイントの発表台本のように、絵みたいな何かと文章を並べた資料を作り、それを見て、指示を出すようにした。
しかし、私は童話が好きだったわけでもない。
小学校1年の時に、絵本を借りる人が多い中、初めて伝記「エジソン」を借りて読んでいた。偶然、エジソンに興味を持っただけで、伝記好きでもなかったが、絵本卒業は早かったように思う。(その後一時期本を読まなかったことはそっとしておいてくれ。)
知っている話なんて「白雪姫」「シンデレラ」「桃太郎」「浦島太郎」「オオカミ少年」くらいだ。すぐにストックが尽きた。その後、「ポケットを叩くとビスケットが増える話」や「薬を飲まされて体が小さくなった探偵」や「パンでできた顔が千切れる話」に「5色のヒーローもの」などをあやふやながらに作った。そのうち、「花咲か爺さん」もうろ覚えながら思い出したが、限界だったので、絵本の絵を担当している人に、話も作れと、無茶振りをした。そうすると、文字は書けないながらも、話を作ってくれて、エマや他の使用人が空いてるスペースに彼らが考えた文章を書くようになった。
一件落着??
国語の教科書に載せる詩についてセルジュに相談したら、大人は皆知っていると言う唄を教えてくれたので、その歌詞を書くことにした。
なぁんもなかった世界は暗くって
ひとりぼっちな女の子は泣いたよ
友達が欲しくって
一人じゃ虚しくって
涙が7粒落ちたなら
それが陸となり空となり
海をつくってこんにちは
明るい世界ができました
それでも一人にゃ変わりなく
誰かに会いたくて叫んだや
7つの影が現れて
7つの生き物現れた
もう一人じゃない
ぼっちじゃない
7は幸福の元となる
「神話のようなものでして。多くの人が知っているものです。歌というほどしっかりとしているわけではありませんが、口ずさむリズムのようなものがあります。」
意味があってなさそうな歌詞だな、と思った。
何より、7は幸福の元って、だからって変則7進数じゃなくてよかったじゃん。
ラッキー7って前世にもあったけど、7777とか自販機で出るともう一本ジュース貰えたけどさ、そういうことじゃないじゃん?
話への思いはともかく、認知度が高いならということで、国語の教科書に入れた。
私が清書ではないけれど、レイアウトを書きまとめている時に、ふと足に何かがつかまっているような感覚を覚えて下を見ると、あの、麗しき弟が私の足に抱きついているではありませんか!!天使か!?
私の弟、ノエルという名前で、愛称もそのままノエルだ。
フリフリレースの服を着ていて、ぷっくりとしたほっぺは可愛い。
死ねるね。
この可愛さ、死人を出すレベルだね。
ノエルに抱き付いた。
可愛い。これが私の弟だなんて。
!?
ノエルの可愛さにポンコツになっていて吹っ飛んでいたのだけれど、なんで1歳にもなっていない赤ちゃんが動き回ってるんだ??
「ねぇ、セルジュ、生まれてすぐにこんなに立って歩くものなの??」
「まぁ、そうですね。お嬢さまの場合は、精神面での成長は早かったですが、肉体的な成長はかなり遅かったですね。ですが、流石にこれほどの距離を歩くとは思えませんな。おそらくは、魔法でも使ったのでしょう。」
へぇ、これほどの距離を歩くことはないか。
つまり、生後すぐに歩くことはおかしいことではないと。
はぁ??
私はかなり長い間ベットで横になってたと思うけど??
そう思った瞬間、ノエルは浮いた。
そこだけが無重力空間になったみたいに浮いて私の首に抱きついてきた。
可愛過ぎで、ノエル成分過多で死んじゃいそう。
死にはしないだろうけど、心拍数がやばい。
ふと、私と目を合わせて、ふにゃ、っと笑った。
尊い!!!!
悪魔か、小悪魔か??
末恐ろしいとはこのこと、一体君は何人女の子を誑かすつもりなんだい??
私は落ち着け、ビークールと何度も繰り返して、落ち着いて椅子に座った。
セルジュが助けてくれてもいいものだが、
「風魔法を応用して浮いている??生まれてすぐに魔法を無意識に扱う例があるとは聞いていましたが、これは、すぐに旦那さまにお伝えせねば!!」
と走って出て行ってしまった。いつもの優雅な動きのセルジュはどこへ行ったのだろう。
ノエルは浮いていてくれてるので、重くて首が痛いなんてことはないんだが、流石にこれはダメだろう。子供ふたりきりにしてはだめでしょう。
それと、私の感覚だが、これは風魔法ではない。
魔法を何も知らない私だが、ノエルが風で浮いているとは思えなかった。
無重力って感じだ。
これだけ近くにいても風を感じないし、どちらかというと、ノエルの体重がなくなっちゃったみたいな感じがする。
「あう?」
その可愛さが私にとどめを刺した。
私の弟は正真正銘の天才で、超可愛い小悪魔だった。




