魔法とは I
さて、公爵家に到着して3日目。
2日目は重要なマナーについて勉強した。
「二人とももう、問題ないわ。あとはダンスくらいだけれど、それは急いで身につけるべきものでもありませんからね。」
気づいたら、ロザリーさまから及第点をもらってしまったのだ。
ちなみに今日はこちらに来て初めての休息日。
要は、授業の日である。
これから授業があと何回あるかは分からないけれど、17(**)月と1(**)月は2年組の授業を休止する予定なので、それまでにできるだけ長期休みの間の課題に対応できるようにしたいと考えている。
ちなみに、レオンさんはずっと私たちに付きっきりで、仕事を含めてサポートしてくれている。私とノエルがマナーを教えてもらっている間は代わりに雑務をこなしていてくれたみたいで、正直メチャクチャ助かった。
レオンさんの領の雑務はいいのか、と聞いたら、人に任せられるように整えて最終決定だけレオンさんが行っているのだと。さすがだな。
そんなレオンさんに目をつけたノエルは必死で算数を教えて、あと数ヶ月で分析も頼めるようにするらしい。
「姉さん、大丈夫?」
「えぇ。大丈夫。いつも通り頑張りましょう。」
今日の国語の授業で取り扱うのは物語文だ。
内容は、太宰治の走れメロスである。
もちろん、こちらの人に分かるように編纂し直し、さらに、原作に太宰治と掲載した。
さて、私も気合を入れようかな。
♢♦︎♢
4日目。
ついに大きな目的の一つである、魔法演習が行われることになった。
「紹介するよ。俺が王都で魔法を教えてもらっている、ジェローム・ブルナンどのだ。聞いているだろうが、元魔術師団長だ。」
おかっぱみたいな髪型をしている人で、目つきがものすごく悪かった。
どちらかというと中性的な雰囲気なんだけど、これじゃ誰も近寄りたくないくらいというのも納得するくらいに怖かった。
「レオン、こんなにガキとは聞いてないぜ。お前よりも大人だっていうから受けたってこと忘れてないよな。」
初っ端から喧嘩を売られた。
そして、口が悪い。
「精神的に大人であることに間違いありませんよ。こちらが、セシルでそっちが弟のノエル。エマール伯爵家の子で、俺が王都に滞在している期間はここに滞在することになっています。」
「初めまして。セシルと申します。よろしくお願いします。」
「ノエルです。よく思われていないのは理解していますが、今日だけでも教えていただけませんか。」
ノエルが素晴らしいコミュ力を見せた。
なんてことだ、やっぱり対人はノエルの方が上手いじゃないか。
「っ??こいつら、本当に人間か?年齢偽ってないよな?」
私たちを見て目を瞬いて驚いている。
でしょ?うちのノエルすごい礼儀正しいでしょ?
「だから言ったでしょう。俺よりも大人だと。」
「そういうお前も随分と大人びたぜ。それに目に覇気がある。全てに退屈していたような目じゃない。」
レオンさんのことをじっと見ている。
観察眼もありそう。
「話に聞いた通りか。俺がみるのに依存はねえぜ。で、そっちの、ノエルが生まれつき魔法を使えるんだったか?」
「はい。この魔法だけはずっと使えて。」
ノエルは浮いてみせた。
前からずっと、浮いたり浮かせたりしている。
無重力空間にいるみたいになる。
「!?それは…、風魔法じゃねえな。周りはそう判断したんだろうが、違うぜ。風魔法で飛ぶとこうなる。」
そう言って浮いてみせた。
周りには空気の流れがあって、なんか、器用に浮かせている。
どうしてそんなに器用に操っているのかが分からない。
「面倒だから、聞かれたら風魔法と答えておくことを勧める。要らぬ争いを招くからな。」
他の大人たちが風魔法と言ったのを一発で間違いだと見抜いた。
私の風魔法でないという仮説が立証されたことになる。
これまで確証はなかったが、今回、この人が飛んだことで確信を得た。
あれは、所謂、重力操作の類。
「で、そっちの坊主、セシルは完全に初めてか。聞いた話じゃ、その年齢まで魔法に触れたことがねぇのは珍しいらしいな。」
らしいですね。
私は現在4歳、地球的に言うならば、6歳くらいに当たる。ノエルは現在2歳で、地球換算で3歳。
私は小学校に入っていていい年頃、ならば貴族なら魔法について学んでいてもおかしくないのかもしれない。
しかし、私はずっと授業にかかりきりだったため、タイミングを逃していたらしい。
「面倒だが、これを握ってみろ。」
私は差し出されたビー玉を受け取り、握る。
「もういい、手を開いてそれをこちらに見せろ。」
!?
よく分からないけど、何らかの意味があることだろうから従った。
「緑か。貴族としては少なめだな。魔法は使えるから気にする必要はないぜ。」
その人はそういった。
ビー玉の色が変わっていたから、それによって何らかの量を測っていたと思われる。そして、魔法が使えるかどうかの指標にしている、そこから導き出される答えは…?
「私の魔力量を調べたんですか。」
「そうだ。少ない順に紫、藍、青、緑、黄、橙、赤に変わる。魔法は青くらいなら問題なく使えるし、紫でも少しは使える。貴族には黄が多いが、それ以下がいないわけじゃないぜ。それに、使い終わった後の魔力を取り込んで使うなら、もとの魔力量なんざ関係なくなる。強いて言えば、上手くなるまでの練習時間が限られるだけだ。」
紫、藍、青、緑、黄、橙、赤…虹の色の並び、つまりは太陽光などの可視光線のスペクトルに等しい。
波長が低い色ほど魔力が少ないと。
使い終わった後の魔力が大気中に漂っているとするならば、それをリサイクルして使うということになる。
リサイクルするには技術が必要なはずだ。
つまり、その技術を身につけるための練習に使うための魔力が少ないと。
なら、相手の魔法の残骸とか、さらには相手の魔法を操ることができたりするのか?
疑問は尽きないな。
「姉さん、姉さん!!」
ノエル?
「おい、ノエル、お前、姉さんと呼んだか?」
「そうですが。」
「セシル、お前、女だったのか?」
「まぁ、そうですね。女なんじゃないでしょうか。どちらでもいいですが。」
驚いている、驚いている。
「セシルは俺の婚約者ですよ?」
「レオン、お前婚約したのか?お前に婚約なんてできたとは。」
なんか、場が騒然としている。
もう、私関係ないよね。
で、私、何考えていたんだっけ。
そうだ、魔力量の検査をして…。
「できますよ、それくらい。というか、最初からセシルを男だと思っていたんですか。」
「そうだぜ、まさかドレスを着ていない女がいるとは思っていなかったんだ。」
「ブルナン殿!!あなたの男女の基準はどうなっているんです。」
「そりゃ、ドレスを着てたら女で、ズボンを履いていたら男だ。」
「いや、さすがにないでしょう?俺がドレス着ていたら女なんですか?」
「違うな、お前は男だと知っているから男だぜ。あまり人の顔や特徴を覚えられないんだ。お前たちは魔力の雰囲気で覚えている。人なんか見分けがつくものか。」
「僕たちの魔力って人によって違うんですか。」
「違うな。同じやつはいないぜ。感覚でわかるだけだから説明しろと言われても無理だがな。」
魔力、魔素が電磁波的な波になっているかというと、多分違うんだよな。
大気中を漂う、エネルギー?なら、電子にあたるのか?
でも、一度使ったエネルギーを再び使えるって少しおかしいと思うんだよ。
なら、最初から大気中には未使用のエネルギーが存在すると?
あとは、私たちが体内で魔力を作っているのか体外から取り入れているのか、ってことだね。
「って姉さんがまたぼーっとしてる!!」
「放っておくと考え出すんだ。」
「そいつ、本当に大丈夫なのか?」
「姉さん、聴こえる?姉さん!!」
ん?
なんか言っているような?
「セシル!!」
「なんです?そんな必死な形相で。」
「はぁ。姉さん戻ってきた。」
「お前ら、大変だな…。」
ブルナンどのという魔法の講師は哀愁を漂わせていた。
<登場人物>
セシリア・フォン・エマール 通称・セシル エマール伯爵家の長女 4歳
ノエル・フォン・エマール エマール伯爵家の長男 2歳
レオン・フォン・アズナヴール アズナヴール公爵家の長男/セシルの婚約者 7歳
エリク・フォン・アズナヴール アズナヴール公爵
ロザリー・フォン・アズナヴール アズナヴール公爵夫人
イザベル・フォン・アズナヴール アズナヴール公爵家の長女
ーセシル・ノエル付きの侍女ー
グレース 超ベテラン侍女
レーヌ
ネリー
ーセシル・ノエル付きの侍従ー
マックス
ダミアン
ヤニス
ジェローム・ブルナン 元魔術師団長