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スライム大公と没落令嬢のあんがい幸せな婚約  作者: 江本マシメサ
第二章

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24/65

没落令嬢フランセットは、新たな商売を思いつく

 村の案内は一時間ほどで終了した。

 思っていた以上に、領民の目が気になったらしい。


「すみません、なんだかいつもより見られている気がして、落ち着かなくって」

「あなたを見ているのではなくて、私に興味があったのよ、きっと」

「たしかに、よそから来た人は、注目を浴びるという話を耳にしたことがあります」


 普段から、村に長居せずに用事が済んだらそそくさと帰っているらしい。

 両親と一緒のときも、村でゆっくりした記憶はないという。


「しかし、露天でシロウナギの串焼きを食べているときは、少しだけ楽しかったような気がします」

「私がシロウナギを見て、悲鳴をあげたのが面白かった?」

「そうではなくて、なんと言いますか……」

「私も楽しかったわ。外で立ちながら料理を食べるのって、意外と面白いのね」

「あ、ええ、そうなんです」


 今度はお腹が空いているときに、いろいろ食べ歩きをしよう。そんな約束を交わしつつ、再び馬に乗る。

 そのまま帰るものだと思っていたが、行きとは違う方向へと進んでいった。


「ねえ、ガブリエル。どこに行くの?」

「あなたに見せたい場所があるんです」


 いったい何を見せてくれるというのか。霧と湖と野原、森が続く景色の中で、疑問に思う。 馬を走らせること十五分。

 ちょっとした森を抜けた先に、それはあった。


「これは――!」


 どこまでも続く、ニオイスミレの花。

 ニオイスミレの開花期は冬から春の初めまで。けれどもここでは、一年中咲いているらしい。


 思わず、しゃがみ込んで香りを吸い込む。

 幸せな気持ちで満たされた。


「ニオイスミレがお好きだとおっしゃっていたので、喜ぶかなと」

「ありがとう! とってもきれい!」


 霧の効果か、濃い香りを漂わせている。甘美で、品があって、みずみずしい香りだ。


「王都では、温室栽培しているのよ」

「ニオイスミレを?」

「ええ。ニオイスミレの香水は貴族女性に人気だし、砂糖漬けはお茶会にはかかせないの」


 ここ近年、香水人気の影響で、菓子店でスミレの砂糖漬けが入手しにくくなった、という話を耳にした覚えがある。


「そうだわ! ここのニオイスミレで砂糖漬けを作って、販売するのはどうかしら?」

「それで、私から借りたお金の返済に充てると?」

「あ! ごめんなさい。借りたお金の話、忘れていたわ。スプリヌの名産になればいいと思ったの」

「あなたは――」


 ガブリエルは顔を手で覆う。お金についてすっかり忘れていたのを、呆れているのだろう。


「ごめんなさい。スプリヌにもともとある物で、お金を返そうって考えていなかったの」

「もしかして、トリュフやエスカルゴも?」

「ええ。スプリヌにすばらしい食材があるのを知ってもらうきっかけになったらいいなって、考えていたわ。もちろん、領地が発展するために、お金稼ぎをしたいと考えていたけれど」


 ガブリエルは突然、私の傍にしゃがみ込んだ。そして、宙に浮いていた手を握る。


「領地について、ここまで考えてくれた女性ひとは、あなたが初めてです。心から、嬉しく思います」

「え、ええ」


 突然手を握り、真剣な眼差しで言うものだから、驚いてしまった。

 またしても、胸が高鳴って落ち着かない気持ちになる。


「ここにあるニオイスミレは、自由に使ってください。売って得たものは、すべてあなたのものです」

「いいの?」

「ええ」

「ガブリエル、ありがとう!」


 手を握り返すと、ガブリエルはハッと何かに気づいたように肩を震わせる。

 すぐに手を放し、頭を深々と下げた。


「申し訳ありません。まだ婚約者という立場なのに、あなたに触れてしまって」

「手を繋ぐ程度ならば、かまわないのでは?」

「そうなのですか?」

「たぶん」


 婚約者になってから、してはいけないことなんて習わなかった。

 まあ多分、結婚するまでふたりきりになってはいけないのだろうけれど。

 ここは王都ではない。治外法権だと思うようにした。


「それにしても、ニオイスミレを食べるなんて、王都の女性は変わっていますね。あ、すみません。フランも好物でしたか?」

「ええ、好きよ。でも、お姉様は大嫌いって言っていたわ。なんでも、味は雑草だし、香水を飲んでいるみたいで不快だって」

「姉君はなんというか、正直な御方なのですね」

「でしょう?」


 ちなみに、食用花エディブルフラワーとして有名な花だが、食べられるのは花と葉のみ。根っこと種には神経毒が含まれている。うっかり口にすると、嘔吐などを繰り返すので、注意が必要だ。


「たしか、大昔は薬として、利用していたという話を聞いた覚えがあります」

「咳止めや、口内炎をよくする効果がある、だったかしら?」

「ええ、そんな感じだったかと」


 ひとまず、試作品を作るために花を摘む。何か入れ物がないか聞こうとしたら、傘に巻きついていたプルルンがリボンから元の姿に戻って挙手した。


『プルルン、はこぶう』

「あら、ありがとう」


 カゴに変化するのかと思いきや、プルルンはぱくんとニオイスミレを食べた。


「あ、そういう形で運んでくれるのね」

『まかせてー』


 飲み込んだニオイスミレは、透明なプルルンの体内にあるのが見える。

 くるくると回っているので、何をしているのかと質問してみた。


『においすみれ、きれいにしているう』


 なんと、浄化してくれているらしい。

 スライムの生息地なので、ニオイスミレの上を這った可能性も否定できないからだとか。


「プルルン、賢いわ」

「浄化なんて、どこで覚えたんだか」


 ガブリエルが教え込んだわけではないらしい。プルルンの七不思議だろう。 

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