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ストップウォッチ⏱  作者: やごうまさはる
98/101

第98話

決勝戦を終えた2日後、西城高校サッカー部は練習を再開した。

3年生はマネージャーの近藤美鈴以外、受験勉強のため引退している。

監督の富田が練習前に皆を集め、新体制を発表した。

誰もが予想していたとおり、キャプテンには矢島が指名された。

次に副キャプテンの名前が告げられると、「お~」という驚きの声が部員から発せられた。

なんと指名されたのは英だった。

「おそらくうちのサッカー部で1年生が副キャプテンに選ばれるのは初めてだろう。皆が驚くのも無理はない。だが園山は技術もさることながら、試合でのリーダーシップも抜群だ。それは皆もわかっていると思う。うちがもっと強くなるためだ。藤村学園に勝つためだ。この一年間、この体制で・・・」

「まってください!」

富田の言葉を、英が遮った。

「俺には副キャプテンなんて無理です。準決勝で大量リードしているのにつまらない反則をするようなバカですよ。」

「だが、決勝戦ではベンチで冷静に戦術を考えて提案したじゃないか。」

矢島は続けた。

「実はな、副キャプテンは誰がいいかって監督から聞かれたから、園山がいいと答えたんだ。」

「えっ?」

「俺は、おまえになってもらいたいんだ。うちが強くなるために。みんなもわかってくれ、頼む。」

矢島が深々と頭を下げた。

あたりが静まり返る。

誰も矢島が仲間に頭を下げるシーンを目にしたことはなかったから当然だ。

「俺はいいよ。」

言葉を発したのは2年生で正ゴールキーパーの徳永だった。

「というより、もしかしたら俺が指名されるんじゃないかってドキドキしてたんだ。園山がなってくれたら助かるよ、おれも最大限協力するしな。」

実力者の徳永がそうおどけて言ったことで、その場が和んだ。

そして矢島と英のために部員全員から拍手が起きた。

「頼りにしてるぜ、副キャプテン!」

ため息をついている英の肩を矢島がポンと叩いて、練習が始まった。


「お疲れさん。あとは俺とコンちゃんがやっとくからもう帰っていいぞ。」

練習終了後、グラウンドで道具の片づけをしている1年生マネージャーの早川玲子に矢島が声をかけた。

コンちゃんというのは近藤美鈴のことだ。

「あ、いいえ、矢島さんこそ帰ってください。片づけはマネージャーの仕事ですから。」

「いいから、これはキャプテン命令だ。言うことを聞かないと後で更衣室を覗いてやるぞ。」

そう言いながら矢島は早川に近づくと、両手を挙げて「ガオー」と吠えた。

「わかりました。すぐ帰ります。」

早川は身をかがめながらいそいそと更衣室へ走った。


「もう、かわいい後輩を脅さないでよ。やめちゃったらどうすんの。」

美鈴がボールを2個抱えながら矢島の方に歩いてくる。

「ははは。大丈夫、キスとかしないから。それよりコンちゃん、受験勉強はしなくていいんか。」

「それって、部活に来るなっていうこと?」

「いやいや、来てくれるのはありがたいんだけどさ、大学落ちたらシャレになんねえじゃん。」

「ふーん、ま、いいか。矢島キャプテンだしね、あんたにだけは言っとくよ。でも誰にも言うなよ。」

「ん?」

「私、大学にはいかないの。9月からアメリカの高校に留学するんだ。」

「なに!聞いてないぞ、そんなの。」

「そりゃそうでしょ。担任の先生以外、誰にも言っていないもの。」

「え、え、アメリカに行ってどうするんだよ。」

「ぜんっぜん、決めていませーん。まあ、英語が流ちょうに話せるようになれば何か仕事があるでしょ。」

「い、いつまで?」

「とりあえず1年間。」

「じゃあ、来年の9月には戻ってくんの?」

「わからない。向こうでやりたいことがあれば帰ってこないかもしれない。」

「そんな・・・」

「そんなって、矢島、どうしたの?別に私がどうしようと・・・」

「俺は!俺はコンちゃんが好きだ!」

「はあ?」

「何だよ、知らなかったのかよ。気づけよ。」

「気づくわけないでしょ。いつも私をからかっているじゃない。」

「話がしたかっただけだよ・・・」

「ほんとに?ほんとにほんとに?」

「うん。ほんとに好きだ。」

「またからかってない?」

「しつこいな。」

「びっくり・・・」

美鈴はふーっと息を吐き少し考えてから、「私は、矢島のこと割と嫌いじゃないよ。でもあと2か月半しかいないから。」と言った。

「じゃあ、付き合ってくれるのか。」

「聞いてる?あと2か月半しか日本にいないんだよ。」

「帰ってくるのを待ってるよ、ずっと、ずっと。」

「う~~ん、でもね、早くても1年だよ。その間にあんたも他に好きな子ができちゃうよ。」

「それはない。絶対にない。」

「いや、無理。1年じゃないかもしれないし、2年か3年か・・・」

「ずっと待つ。」

「そんなの奇跡だよ。・・・じゃあさ、こうしよう。今年の選手権予選、来年のインターハイ予選と選手権予選のどれかで藤学に勝つことができたら信じるよ。奇跡には奇跡だ。」

「まじか、藤学に勝つって、それはヘビーだな。」

「遠距離恋愛だってかなりヘビーだと思うよ。」

「・・・よしわかった。みてろ、絶対に藤学に勝ってやる。」

「応援してるよ。」

「じゃ、約束のキスを。」

矢島が目をつむって唇を突き出す。


チュッ。


ほほを叩かれると思っていた矢島がびっくりして目を開けると、美鈴が真っ赤な顔で走り去った。

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