ひとりきり
「思った通り、優しい子だよ。それに何か凄く惹かれるような何かを持ってる」
吉岡が祐斗に近付き、触れようとすると祐斗はとっさに身をよじって逃げた。
「娘も妻もいなくなって一人になって初めて寂しいと思ったよ」
「二人ともわたしが殺したんだけどね」
「何でずっと一人で居るんだろうって」
「苦しそうに歪む顔っていったらもうおかしかったよ」
じりじりと近付いてくる吉岡の声は、同時に二人分の声だった。祐斗は、寒いはずなのにじっとりと背中に汗をかいていた。
何が起きてるのか分からない。どうしたらいいのかも、分からない。こんな時、むつなら颯介なら、どうするだろうか。祐斗はそれを考えてみた。
尚もぶつぶつと独り言が、二人分の独り言が聞こえてくる。だが、もうそれは言葉として聞き取れないほどだった。
どうしようもない状況ではあったが、祐斗はじっと吉岡を見た。落ち着いて観察する事で、何か分かる事があるかもしれないと思ったのだ。むつと颯介なら、そうするはずだと思った。
ついでのように、むつからのメール、社長に言われた事も思い出した。何かあったら電話を、と言ってくれていたのだと。吉岡に気付かれないよう、そっと尻ポケットから携帯を出した。
電話出来れば何とかなるんじゃないかと思ったが、圏外になっていた。




