みなうちに
「…巻き寿司?」
「えぇ、海苔は神社でお祓いをして貰ってきた物を使ってありますから」
「何で?」
「何でって…むぅちゃん、今日は節分ですよ?他の事に気を取られすぎて、お忘れでしたか?」
「節分…あっ‼豆まきする日だ‼」
「…俺がヒント出してやってたのに、京井さんに聞かされるまで気付かないなんてな。たまたま来た京井さんに感謝しろよ?」
むつと京井の会話を聞いていた山上が、呆れたように言うとむつはきょとんっとした顔をした。そして、京井の身体を押し退けるようにして、壁にかけてあるカレンダーを見て、携帯を見た。
「えー…バレンタインまだまだ先じゃん」
「そっちか、お前のがっかりする方は」
「…うん。はりきって作って送ったのに。早すぎたら、何かバレンタイン感ないし」
「送った?まぁいいや…むつ、これでどういう事か分かったか?分かったな?」
「…遥和さん、社長に呼ばれたの?巻き寿司作ってくるようにって。で、ついでに片車輪の所?」
「………」
京井が黙りこみ、山上をちらっと見ると山上は、あからさまに視線を天井に向けていた。
「出来すぎだもんね。もうっ‼どういうつもり?社長ってば、分かってて何で言ってくれないの!?」
「いや、仕方ないだろ?お前、能力使えないんだから、頭使えるようになれよ。なのに、ダメダメで…こんなに手回ししてやったっていうのに」
「ダメダメ言うな‼いつから気付いてたのよ‼」
「居酒屋で、だな。お前がもうすぐ春だって言う辺りで気付いたんだ。それに、居酒屋なのにちょいちょい巻き寿司運ぶ店員居たからな。むつ、周りをよく見ろよ」
「…うぅ…言い返せない…じゃあ社長」
むつが拗ねたように手を差し出すと、山上はよく分からないままに、手のひらを上にして手を伸ばした。




