A6 二人の関係・ティナと、2
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ティナにとって、リリアは特別な友人だ。リリアよりも付き合いの長いアイラやケイティンよりも親しくなっているかもしれない。普通で考えれば接点など生じるはずもないのだが、気がつけば親友と呼べる間柄になっていた。
リリアと親しくしていることも知られるようになってきたためか、最近では他の上級貴族に関係する人とも接する機会が増えてきている。ただ、そのどれもが、ティナを通じてリリアに覚えを良くしてもらおうという下心が透けて見える者ばかりだった。
だからこそ、そういった下心が生じ得ない者と話すのは気が楽だと実感する。アイラやケイティンも当然ながら、目の前の男性もそうだ。
クロス・アルディス。リリアの実の兄だ。アルディス家の屋敷に滞在した時に知り合いになり、その後は何度も会って話をしている。話していて分かるのが、リリアを大切に想っているということだ。兄弟のいないティナには、少しだけ羨ましく感じてしまう。
「ティナさん。このシチューは特にお勧めだ」
「そうなんですか? ……あ、ほんとだ、すごく美味しい!」
「だろう?」
最近では、クロスから休日に会えないかと連絡が入るようになった。きっとリリアのことを聞きたいのだろうと、いつも承諾してこうして会っている。そのたびにご馳走になるのは申し訳ないのだが、クロスはいつも笑って、気にするなと言ってくれていた。
会うたびに、リリアについて話すことは少なくなっている。今となっては、むしろ自分のことについてよく聞かれていた。クロスの目的が少し分からなくなっている。
いや。正直に言えば、もしかして自分に気があるのか、とかそんなことを考えたりもするのだが、すぐにその考えは否定した。さすがにこの考えは自惚れというものだろう。だが、もしそうなら、嬉しかったりもするのだが、聞くのは恥ずかしいので口には出せない。
「ところでティナさん。最近、学園で殿下とは会っているか?」
クロスの問い。やはりリリアの周囲が気になるようだ。余計なことは聞くまいと心に決めて、ティナは首を振った。
「いえ、最近では一度もお目にかかっていません。お手紙のやり取りなら、今も続けています」
「ふむ。手紙か」
「はい。これもあまり良くないことだとは分かってはいるのですけど……」
「いや、気にしないでほしい。一時のことを想えば、手紙で済むなら認めるべきだろう」
そう言って、クロスはどこか遠い物を見るような目になった。
「今のリリアに関係する者に、進んで関わろうとする者はいない。手紙のやり取り程度で何かを言ってくる者はいないだろう」
その目と口調から、苦労しているらしい、ということだけはよく分かった。突然に現れた大精霊のことで色々とあるのだろう。ティナには分からないことだ。
「ところでティナさん。この後はまだ時間はあるだろうか?」
「え? はい、今日は一日、予定はありませんけど……」
「それは良かった。この後、もうしばらく付き合ってもらえないか?」
クロスの笑顔のその言葉に、ティナの心臓が高鳴った。勘違いするなと自分に言い聞かせ、どうにか笑顔を浮かべる。
「大丈夫ですよ」
「よし。それじゃあ、南側を案内してほしい。どんな店があるのか、私も知っておきたいんだ。ティナさんなら、リリアがよく行く店も知っていそうだしな」
やはり、リリアに関係することだ。少しだけリリアに嫉妬してしまうが、それはお門違いだと首を振った。それにリリアと話している限りでは、どうやらリリアはクロスがリリアのことを嫌っていると思っているらしい。そのことを思い出せば、クロスが少しだけ憐れに思えてしまった。
「クロスさん。がんばってください」
「は? 突然どうしたんだ?」
意味が分からなかったようで、クロスが首を傾げた。ティナは何も言わずにもう一度小さく微笑んだ。
クロスはリリアのことを知りたいだけのようだが、せっかくなので今回も楽しませてもらってもいいだろう。ティナにとっては、デート、みたいなもので少しだけ楽しみになる。本人にそのつもりはないだろうが。
「それじゃあ、行こうか」
そう言って、クロスが立ち上がり、ティナへと手を差し出してくる。ティナははい、とその手を取った。
その瞬間、何か、違和感を覚えた。隣のテーブルを見る。何も置かれていない、誰もいない席だ。
「どうした?」
「いえ、何でもありません」
気のせいだろう、とティナは笑い、クロスと共に店を後にした。
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ティナと共に、クロスは南側の通りを歩く。彼女の案内のもと、リリアがよく利用する店を巡っていく。報告では聞いていたが、こうして改めて見て回ると、本当にリリアは変わったのだと実感する。
クロスにとって、家族とは何よりも大切にするものだ。良い剣を集めるという趣味があるが、あの趣味も元々は家族を守るための武器が欲しい、という理由で始まったものだ。それほどまで、クロスにとっての世界の中心は家族だと言える。
その中でも、リリアはやはり特別だ。昔は兄である自分の後ろを必死になって追ってきたりなど、無条件に慕ってくれた。そんなリリアがかわいくないわけがない。
上級貴族の令嬢として育ってきたリリアが、男爵令嬢の友人を連れてきた時は本当に驚いたものだ。しかも無理矢理というわけでもなく、ティナを見ているとお互いに特別な友人だと思っているのはよく分かる。それが、兄としては、とても嬉しい。
ティナとは定期的に会うようになっていた。情報交換のためだ。クロスは今までのことを、ティナは学園でのことを、お互いに教えあっている。今までこうした会話は両親としかしていなかったために、とても新鮮だった。
そうして話している間に、ティナのことも次第に理解していった。とても心優しい少女だった。
「あ、クロスさん、その菓子屋さんにリリアはよく行くみたいです。ただ、リリアの好みというよりは、さくら様の好みのような気もしますけど……」
「ふむ……。買っておこうか」
店の者から詰め合わせを買い、再び歩く。ティナもクロスと同じ物を買っていた。友人たちと共に食べるそうだ。
ティナ自身に惹かれ始めたのはいつ頃だっただろうか。はっきりと思い出すことはできない。気がついたら、ティナと過ごす日を心待ちにするようになっていた。
だが、クロスは上級貴族であり、ティナは下級貴族の人間だ。叶うはずのない想いであり、形にしてはならないものだ。これでは王子を笑うことなどできず、クロスは内心で自嘲してしまう。
「クロスさん、どうかしました?」
ティナが不思議そうに首を傾げ、こちらへと問うてくる。どうやらいつの間にか表情に出ていたらしい。クロスは、何でも無いと首を振り、ティナとの買い物の続きを楽しむことにした。
叶わぬ恋なら、心の奥底へと封じ込めてしまわなければならない。心を吐露して誰かを巻き込むことなど、してはならない。自分で抑えるべきものだ。
だがせめて今だけは。もう少しだけ、楽しんでもいいだろう。
クロスはティナの隣を歩きながら、自分の心に言い聞かせた。
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恋愛を書くのは難しいですね……。




