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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A1 顔合わせ5

「うん。それで他にはまだお話はある?」


 さくらが聞いて、父が首を振る。さくらは笑顔で頷くと、


「それじゃあ、戻ります」


 え、と全員が間抜けな表情になる。さくらだけがいつもの笑顔で、遠慮など一切せずにリリアの中へと入ってきた。リリアも思わず頬を引きつらせ、すぐにやれやれと首を振った。


「あの……。リリア。何ともないの?」


 ティナが心配そうに聞いて、リリアは頷いた。


「特に何も」

「そうなんだ……。お城でも見たけど、人が人の中に入るのを見ると、なんというか、妙な気持ちになるね……」


 そうだろうと思う。出てくる時は唐突なさくらだが、リリアの中に戻る時はリリアの体に触れて、ずぶずぶと、中に入ってくる。端から見るととても気持ち悪い光景だろう。リリア本人はティナにも言った通り、大して何も感じていない。もっとも、さくらが中に入った後はとてもうるさくなっているが。


 ――ひどい。

 ――そう思うならもう少し静かにしなさい。

 ――むう。分かった。


 不服そうなさくらの声に、リリアは小さく苦笑を漏らした。周囲から怪訝そうな視線が向けられるが、リリアは特に何も言わず、いすから立ち上がった。


「それでは、部屋に戻りますね」

「ああ……。そうだな。おやすみ、リリア」


 父がそう言い、リリアも返そうとしたところで、また突然にさくらが隣に現れた。リリアはすでに慣れ始めたのか眉をひそめただけだったが、周囲は目を見開き固まっている。そんな四人へと、さくらは笑顔で言った。


「おやすみなさい、ティナ、お父さん、お母さん、お兄さん」


 父と母、兄が目を見開き絶句する。リリアはその反応に首を傾げたが、さくらと同じように挨拶をして退室した。




 余談だが。さくらは以前よりリリアとの会話の中で、リリアの家族のことをお父さんやお母さんと呼んでいる。つまりは今回もその程度のつもりで呼んでいただけだ。リリアの家族がそのことを知るのはしばらく先のことになる。




 翌日。リリアは準備を済ませると、さくらと共に屋敷の庭に出た。様々な花が咲く花壇をゆっくりと見て回る。その二人から少し離れて、アリサとシンシアも着いてきていた。

 隣のさくらは興味深そうに周囲に視線を巡らせている。見るからに上機嫌で、今にも鼻歌を歌い出しそうだ。そんなさくらはリリアの隣を浮かぶのではなく歩いている。今後、何も知らない者には大精霊ということを隠すことにしたためだ。騒ぎを避けるのが目的となっている。


 簡単な設定として、さくらは他国の貴族でありリリアの友人、として通すことになった。朝食の席で父にそのことを言うと、すぐに王へとその旨を伝える使者を出した。今日中に、王から他の貴族へと伝わることだろう。貴族に協力してもらえるなら、さくらも少しは動きやすくなるはずだ。


「どこか行きたい場所はあるの?」


 リリアが問いかけると、花を見ていたさくらが振り返り、頷いた。


「カレーライスが食べたい!」

「さくららしいわね」


 小さく笑み、アリサとシンシアへと目配せをする。その意味を察したのだろう、シンシアが小さく頷くと、踵を返して音を立てずに走って行った。

 さくらが再び歩き始める。リリアもその後に続く。時間をかけて花壇を見て回り、そうしてたどり着いたのはテオが育てているリリアの花壇だ。


「あ」


 花壇の側にはテオがいて、リリアとさくらを見て固まっていた。どうしたのかと首を傾げる二人へと、テオは頭を下げた。


「は、初めまして……」


 今にも消え入りそうな声だった。リリアが訝しげに首を傾げる。テオは人見知りをするような性格ではないはずだ。さくらも不思議そうにしていたが、すぐに気を取り直して笑顔になった。


「初めまして、テオ。さくらです」


 よろしく、とさくらが言うと、テオは何度も頷いた。


「リリア、何か怖がられてる気がする……」

「気のせいだとは思うけど……」


 小声で言葉を交わし、テオの様子を見る。テオは上目遣いにリリアとさくらを見ながらも、何故か側の扉、屋敷の裏口を気にしていた。その態度を見れば、何かを隠していることなど明白だ。リリアが目を細め、扉の方へと顔を向けると、テオが慌てたように言った。


「お、お姉様! 花壇! どうでしょう!」

「とても綺麗ね」


 そう言いながらもリリアは扉の方へと歩き始める。その直後に、扉は開いた。


「お待たせ、テオ君。持ってきたよ……って、あれ? リリア?」


 ティナが園芸の道具を持って立っていた。リリアが目を瞬かせていると、ティナは不思議そうに首を傾げた。


「リリア? どうしたの?」

「いえ……。私が聞きたい方なのだけど」


 テオへと振り返ると、テオは視線を彷徨わせる。やがて肩を落として言った。


「その……。ティナさんに手伝ってもらっています」


 少し待ってみるが、それ以上の言葉はない。どうやら本当にそれだけらしい。それならば何故隠そうとしたのか気になってしまう。リリアの視線からその問いを察したのだろう、テオは目を逸らして言った。


「その……。お姉様のお友達の方に手伝ってもらっていますから……。怒られるかなと……」

「別にその程度で怒らないわよ。無理矢理に、命令して手伝わせているなら怒るけれど」


 そう言いながらティナへと視線をやると、ティナは勢いよく否定のために首を振った。リリアも疑っているわけではなかったのですぐに頷く。テオがそんなことをするとは、当然ながら思ってもいない。


「丁度良いわ。ティナ、この後にさくらとカレーライスを食べに行くのだけど、一緒にどう?」

「え? でも……」


 ティナが戸惑いがちにさくらを見る。どうやらさくらに気を遣っているらしい。ティナらしい気遣いに笑みをこぼしながら、リリアは言う。


「さくらなら大丈夫よ。もともとティナと一緒に出かけるつもりだったと言ったら、ティナも誘おうということになったから」

「うん。一緒に行かない?」


 リリアの後にさくらも続く。ティナは少し考えていたようだったが、やがて小さく首を振った。


「お気遣いありがとうございます、さくら様。ですけれど、せっかくの機会なのですから、リリアと二人きりで楽しんできてください」

「そう? じゃあそうするね」

「はい」


 そう言って、さくらとティナが笑顔を交わす。その様子を見て、仲良くできそうだなとリリアは満足そうに薄く微笑んだ。


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ではでは。

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