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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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209/259

A1 顔合わせ4

「へ? あ、あの、リリア?」


 さくらが大きく目を見開く。リリアが続ける。


「いかがなさいましたか? さくら様」

「いや、その、口調が……」

「さくら様は尊き方ですから。是非とも私にも、何なりとご用命くださいませ」

「うああ! 冗談だからやめて! 元に戻って!」


 そう言ってさくらがリリアへと抱きついてくる。片手でさくらを押しとどめながら、リリアは苦笑しつつ言った。


「私も冗談よ。落ち着きなさい」

「うう……。油断できない……。リリアのお腹は真っ黒だから……」

「何ですって?」

「冗談ですごめんなさい!」


 さくらが慌てて自分の席へと戻っていく。リリアはため息をついて姿勢を戻し、呆気にとられた様子でこちらを見ている父と目が合った。リリアと目が合うと、父はすぐに、何でも無いと手を振った。


「それでは夕食にしましょう。すぐに運ばせます」


 父が側に控える執事に目を向けると、執事はすぐに頷いて扉へと歩いて行く。もうしばらく待つと、料理が運ばれてきた。高級な食材を惜しげも無く使った料理がテーブルに並ぶ。さくらは目の前に並んだ料理の数々に目を輝かせた。


「お口に合えばよろしいのですが……。どうぞお召し上がり下さい」


 父が言い終えてすぐに、さくらが手を合わせた。


「いただきます!」


 大きな声でそう言って、フォークを目の前にある肉の塊に突き刺した。マナーも何もないが迷いもないその行動に皆が呆気に取られるが、さくらはお構いなしに料理を口に運ぶ。一口食べて、大きく目を見開き、どんどんと料理を口に入れ始めた。どうやら気に入ったらしい。

 リリアはその様子を目を細めてしばらく見つめ、自身も祈りを済ませて食器を手に取った。




 リリアは時間をかけて料理を食べ終えてから、隣のさくらへと視線を向けた。さくらも食べ終わったようで、恍惚とした表情でぼんやりとしている。とても幸せそうな表情で、見ているこちらも自然と頬が緩んでしまう。


「すごく美味しそうに食べてたね……」


 ティナの小声に、リリアも小さく頷いた。リリアに取り憑いていた時から美味しいものを食べると嬉しそうにしていたが、このような表情になっていたとは知らなかった。少しだけ色っぽく見えてしまう。ふと気になって兄を見てみれば、さくらを凝視して固まっていた。


「お兄様」


 リリアが声をかけると、はっと我に返ったようで首を振った。表情を取り繕い、リリアへとなんだと問うてくる。リリアはため息をついて、言った。


「さくらは大精霊です」

「うぐ……。分かっている……」


 兄が顔を赤くしてそっぽを向き、さくらはきょとんと、不思議そうに首を傾げていた。父と母は苦笑を漏らし、ティナは少しだけ不満そうにしていた。


「ティナ?」


 ティナのその反応が珍しく、リリアが声をかける。ティナはすぐに首を振ると、いつもの笑顔を浮かべた。


「何でもないよ」

「そう。ならいいのだけど」


 リリアは首を傾げながらも、姿勢を戻した。

 使用人たちが湯気の立つ紅茶を持ってきて、テーブルに並べていく。リリアはそれを一口飲むと、ゆっくりと息を吐き出した。


「さくら様。いかがでしたか?」


 父が口を開き、問われたさくらは笑顔を浮かべた。


「うん。すごく美味しかった。満足です」

「それは良かった。料理人にも伝えておきます」


 本当に嬉しそうに父が笑う。父の意図は分からないが、少なくとも今は安堵しているように見えた。


「では一つ、お願い、と言っていいのでしょうか、あるのですが……」


 どこか緊張した面持ちで父が言う。さくらはいつもの笑顔で先を促す。


「明日ですが、王城で夜会を催したいと考えております。つきましては、是非ともさくら様にもご出席いただければと……」

「え。行かないよ」


 さくらの即答に父が言葉に詰まる。そのまま固まってしまった父に代わり、母が口を開いた。


「さくら様。理由をお伺いしても?」

「遊びに行きたい」


 これには母も固まり、兄も頬を引きつらせた。王家主催の夜会を、遊びに行きたいから、という理由で断るなど前代未聞だ。だがそれが許されるのが今のさくらの立場なので、父たちも何も言えなくなっている。

 リリアは今の今まで明日に夜会が催されるなど知らなかった。だがおそらくは、これは急遽決まったものだろう。十中八九、さくらを城へと呼ぶ口実だ。今頃は城でも大急ぎで準備が進んでいることだろうとは思う。確かにさくらにとっては寝耳に水の話であり、急に言われても困るものだろう。だがそれを言えば、突然現れたさくらにも原因があると言える。


「さくら。遊びに行くのはいつでもいいでしょう」


 リリアがそう言うと、父たちがリリアを見つめてきた。無言ではあるが、どうにかしてほしい、という意志は伝わってくる。内心だけで苦笑して、さくらへと視線を向ける。さくらは不満そうに唇を尖らせていた。


「ようやく来れたのに、おあずけ? やっとリリアと一緒に出かけられると思ったのに。ずっと一緒に遊びに行きたいって思ってたのに」


 さくらの悲しげな顔を見て、そう言えば、と思い出す。就寝前などに暗い世界でさくらと会ってはいるが、当然ながら一緒に出かける、といったことはできなかった。いつも声が聞こえるので忘れそうになるが、さくらにとってはリリアとの外出は本当の意味では初めてになる。それを楽しみにしていたと言われると嬉しくもなるし、そちらを優先したいと思えた。


「そうね。ようやく、だものね。遊びに行きましょう」


 あっさりと父たちを裏切りさくらにつく。父は愕然と目を見開き、母は項垂れてしまった。


「あの……」


 ティナが口を開き、全員の視線がティナへと集中する。ティナはわずかに頬を引きつらせながらも、言った。


「夜会って、夜ですよね? 朝と昼に遊びに行って、夜に夜会に行く、ではだめなんですか?」

「あ……」

「…………。問題ないわね」


 さくらが間抜けな表情になり、リリアが神妙な面持ちで頷いた。ティナが続ける。


「あと、お城の夜会なら、きっと美味しい料理やお菓子が……」

「リリア夜会に行こうそうしよう!」


 あっさりと方針転換。相変わらず食い意地が張っているなと呆れながらも、リリアも頷いた。父や母、兄はそっと安堵のため息をついていた。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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