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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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208/259

A1 顔合わせ3

 父が驚きに目を瞠り、リリアを見る。ティナたちに先に説明していたがために忘れてしまっていたが、本来なら大精霊と知り合いなどとあり得ない。その上、さくらはリリアに取り憑いていたと言った。父の理解の範疇を超える話だろう。


「あー、その……。リリア。説明を……」


 この話は広めたくないのだが、と思いながらも、さすがに家族にまで秘密にしておくようなことでもないので、リリアは渋々ながらも頷いた。




 説明が先になるので当然ながら夕食は後回しだ。そう告げるとさくらはあからさまに不満そうな顔をして、父や母、兄は慌てたように夕食の準備を進めようとする。だが、


「さくらの話でしょう。さくらが振ったのでしょう。貴方の都合で後回しにしてどうするのよ。付き合いなさい」

「ん……。分かった」


 あっさりと引き下がるさくらに父たちが目を瞠り驚いていたが、リリアとさくらがそれぞれいすに座ると父たちも慌てて席に着いた。ちなみにさくらは当然のようにリリアの隣に座っている。誰かに譲るつもりはないらしい。

 紅茶が人数分運ばれてきて、それぞれの目の前に置かれる。さくらはその紅茶をしばらく見つめていたが、やがて口につけて少しずつ飲んでいく。リリアは小さく笑みを零し、両親へと向き直った。


「今から話すことは、内密にお願い致します」

「ふむ……。いいだろう」


 父が片手を上げると、壁際に控えているメイドや執事たちが退室していく。全員が退室してから、父はさらに天井にも視線を向けた。そのままさらに少し待つ。おそらくは密偵たちが離れるのを待っているのだろう。さくらは密偵たちにとっては不審人物以外の何者でもない。いつも以上に警戒していたはずだ。

 やがて父は小さく頷くと、リリアへと視線を戻した。リリアも頷き返し、口を開いた。




「できればもっと早く聞きたかったものだな……」


 全てを聞き終えた父の第一声がそれだった。母と兄も頷いている。リリアは苦笑を浮かべ、言った。


「当時の私が話して、信じられましたか?」


 三人がそっと目を逸らす。つまりはそれが答えだ。リリアとしても、家族を責めるつもりはない。今までの行いが招いたことなのだから。


「それにしても……」


 父がさくらへと目を向ける。視線を受けたさくらは首を傾げた。


「大精霊様が元は人だったことも驚きですが……。まさか、そんなにお若いとは……」

「あはは。人間として生きた年数なら、大精霊の半数ほどが結構若いよ。大精霊として生きた年数を数えれば、私以外は人の一生よりもずっと長く生きてるけど。いや生きてはないけど」

「さくら様はどうなのでしょうか?」

「ん? ほぼ見た目と同じかな? リリアと同じくらい」

「なるほど……。では人としての死はつい最近ということですか」


 それを聞いた瞬間、さくらの笑顔が凍り付いた。リリアも思わず表情を歪めてしまう。がらりと変わったその空気に父はすぐに気づいたようで、慌ててさくらへと頭を下げた。


「申し訳ございません」

「いいよ。未だに整理ができてない私が悪いから」


 神に殺された事実など、そう簡単に整理できるわけもない。さくらが、その時の神を憎く思っていることもリリアは知っている。故にこれは振ってはいけない話題の一つだ。父たちも今のやり取りでそれは理解できただろう。

 しかし父は、続けて言った。


「やはり家族と会えなくなったのは寂しいものでしょう」


 まだ続けるのか、とリリアが顔をしかめる。母と兄も怪訝そうに父を見ていた。さくらも少しだけ不機嫌そうにしつつも、頷いて言う。


「まあ、そうだね」

「心中お察し致します。ところで、リリアのことはどう思っていますか?」


 さくらが不思議そうに首を傾げて、少し考えてから言う。


「頼りがいのないお姉ちゃん」

「え……」


 その評価に愕然とした表情でさくらを見つめてしまう。さくらはリリアと目を合わせようとはしない。


「そうでしょうな」

「は?」


 父が理解を示し、リリアの口から不機嫌を隠そうともしない声が漏れた。さくらが苦笑しつつも言う。


「でも今は頼りになるよ。頼りになるお姉ちゃんです」


 リリアは小さく安堵の吐息を漏らし、父はどこか誇らしげに頷いた。


「姉、と表するということは、やはり家族を忘れられないのでしょうね」

「へ? あー……。なるほど、そうなるのかな……」


 さくらが腕を組み、考え始める。本人に自覚はないようだが、リリアも父と同じようなことを思っていた。さくらは家族に対して強い憧れを持っているように見える。リリアが姉ならいいのに、と言うのもそのためだろう。

 父が咳払いをすると、さくらは父へと視線を戻した。


「そのですね。さくら様さえよければ、私を父と呼んでいただいても構いませんよ?」


 父がそう言うと、さくらは目を瞬かせた。首を傾げ、リリアを見る。リリアも父の突然の言葉に戸惑っているので何も言えない。さくらが再び父に視線を戻し、少し考えてから立ち上がって両手を上げた。


「お父さん!」


 父も立ち上がり、両手を上げる。


「さくら!」


 そのまま二人とも黙ってしまう。ただお互いに視線を交わし、そして同時に笑みを浮かべた。


「冗談はこれぐらいにしておいて」

「そうですね」


 二人がいすに座り直す。何がやりたかったのか分からず、リリアは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。二人の間で何かしら通じ合っているようだから余計にたちが悪い。


「ですが、さくら様。この家を我が家と思っておくつろぎ下さい。何かありましたら、是非とも私たちにご用命ください。当家の使用人もご自由にお使いくださって構いません」

「おー……。なんだかすごい好待遇。いいのかな?」

「無論でございます」


 父が力強く頷き、母や兄も同意を示すように頷いた。さくらが照れ笑いを浮かべ、リリアはそれを呆れたように見つめていた。

 さくらは自分の立ち位置を未だに把握しきれていないのかもしれない。ある意味では王よりも上の立場だ。もう少し理解する必要があるだろう。


「さくら。自分がどういった存在になっているか、本当に理解しているの?」

「へ?」


 王よりも上だと軽く説明すると、さくらは驚いたように目を瞠り、そしてすぐにいたずらっぽく笑った。


「じゃあ私、リリアより上だね! ありがたがれ!」


 さくらの笑顔をリリアは半眼で睨み、そして、それならばと笑顔を貼り付けた。


「畏まりました、さくら様」


壁|w・)次から奇数日の隔日更新、ですよ


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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