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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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 自室でアリサの紅茶を飲みながら、リリアは目を閉じ静かにしていた。アリサがその側に控えている。シンシアも姿は見えないが、どこか近くにいるはずだ。


 ――さくら。そろそろ説明してもらえるわね?

 ――精霊のこと、だよね。私も全部説明できるわけじゃないけど……。


 そう前置きした上で、さくらが続ける。


 ――簡単に言ってしまえば、私がリリアの体を使った影響だね。私の力がリリアに残っちゃった、てことでいいのかな?

 ――ということは、貴方はもともと精霊が見えたの?


 少し驚きながら聞くと、さくらは自慢気に頷いたようだった。


 ――前の世界では違うけどね。こっちではずっと見えてるよ。まあ、とにかく。私がリリアの体を使った影響でリリアにも精霊が見えるようになった、と思っておけばいいよ。


 さくらにも原因はともかく、理由は分からないらしい。もっとも、理由を知る意味も特にないので、見えている、という事実が間違いないのなら問題ない。


 ――これはいつ見えなくなるの?


 そう聞いてみると、さくらが口ごもった。怪訝そうに首を傾げ、しかしすぐに思い至った。


 ――一生、このままなのね。

 ――うん……。ごめんね。


 さくらの申し訳なさそうな声に、リリアは苦笑して首を振った。別に不利益があることでもない。気にするほどのものではないだろう。

 そこまで思ったところで、さくらがとても言いにくそうにしながら言葉を発した。


 ――あのね、リリア。不利益なら、あるよ。

 ――あら。そうなの?

 ――うん。あのね。魔導師って、なんだっけ?

 ――それは精霊が見えて魔法陣を……。


 そこまで答えたところで、リリアは凍り付いた。ようやく気がついた。

 魔導師は精霊が見える者が、王族に雇われる形になっている。そして、精霊が見えるという才能は稀であり、精霊が見える時点で魔導師となることが確定する。爵位も何も関係なく、全てにおいて優先され、強制だ。そしてリリアが精霊を見ることができるようになったことは、家族だけでなく王や他の貴族も知っている。避ける手段がない。


 ――ああ、それで最終手段だったのね……。魔導師となることが確定してしまうから、将来に選択肢がなくなるから。なるほどね……。


 魔導師は休む暇もなく働いている、というわけではない。むしろかなりの好待遇で雇ってもらえると聞いている。故に本来なら喜びこそすれ避けるようなことではない。だがリリアは、将来の選択肢に当然ながら魔導師など入っていなかった。そして入れるつもりもなかった。


 ――ごめんね。


 さくらの謝罪に、リリアは苦笑して肩をすくめた。これが影響するのはリリアよりもさくらだ。リリアがそれほど気にすることでもないだろう。


 ――さくらはそれでいいの?


 念のために聞いてみると、さくらは苦笑した。


 ――いいも何も、避けられるの?

 ――無理ね。


 例え父が何をしようともこればかりは覆らない。そんなものをリリアが覆すことができるわけもなく。リリアは肩をすくめただけだった。


 ――見えるようになったものは仕方ないわね。とりあえず明日から何をするかを考えましょう。

 ――うん。そっちの方が有意義だね。カレーライスが食べたい。

 ――ふふ。かれーらいすね。分かったわ。


 リリアは微笑みながら頷き、早速とばかりに明日の予定を組み立て始めた。




 翌日。リリアはアリサとシンシアを連れて、馬車に乗って買い物へと繰り出した。兄が同行するとうるさかったが、今日ばかりは断っている。たまには一人でゆっくりとしたい。アリサとシンシアはリリアの意志を汲み取ってくれるので問題ないという判断だ。本当に一人では許可がもらえない、というのもある。

 以前家族と訪れた店に入り、昼前だというのに賑やかな店内を見渡す。一通り見渡して、空いている席に向かおうとして、


 ――リリアさんリリアさん。あれ見てあれ。


 さくらの声に足を止めた。促されるままに視線を店内の隅へと移動させ、丸テーブルの席につく男を見て、リリアは凍り付いた。いつも見ている衣服と違い、薄汚れた平民の服だが、つい最近間近で見た男の顔を見間違えるはずもない。

 リリアはアリサとシンシアに好きな席で食べるように命じると、男の方へと歩いて行く。アリサたちは怪訝そうにしながらも、少し距離を置いてリリアの後に続いた。どうやらつかず離れずの席で食べるつもりらしい。

 男の背後にたどり着き、リリアは言った。


「何をしていらっしゃるのですか、陛下」

「ぶふっ!」


 平民にしか見えない王が、食べていたカレーを噴き出した。対面に座っていた、やはり平民にしか見えない誰かが、うわ、と体を仰け反らせた。周囲にさっと視線を巡らせると、体をわずかに浮かせた者が何人かいたが、リリアを見てすぐに座り直していた。護衛か何かだろう。

 王は頬を引きつらせたまま振り返ると、かなり無理のある笑顔を浮かべた。


「ど、どなたですかな?」

「…………」


 じっと無言で王を見る。王は観念したようにため息をつくと、隣の席のいすを引いた。


「かけなさい。使用人も含め、ここの料金は持とう。だから、と言ってはなんだが、その、だな……」


 歯切れの悪い王に苦笑しつつ、リリアは頷いた。


「心得ております。ここで見聞きしたものは忘れましょう」

「うむ。感謝する」


 王は頷くと、慣れた様子で従業員を呼んだ。すぐに若い女が駆けてきて、リリアへと驚いた視線を向けて一礼する。どうやらリリアのことには気づいたらしい。だが王には気づいていないのか、リリアにだけ必要以上に丁寧な態度だった。

 注文をして、説明を求めるために王へと視線をやる。王はリリアから視線を逸らし、言った。


「私でなければならないものは終えてきた。最近は色々と立て込んでいたからな。息抜きだ」


 それを聞いて、リリアも目を逸らした。立て込んだ原因の一端は自分が関わったものだろう。申し訳ありません、と口にすると、王は苦笑して首を振った。


「お前には何の非もない。気にするな」

「はい……。ありがとうございます」


 王は頷き、それきり黙り込んだ。リリアも、見かけたので声をかけてみたものの、特に話したいことがあったわけでもない。同じように黙っていると、やがて王が口を開いた。


「非公式の場だ。礼儀作法など気にする必要はないぞ」

「はい。お気遣いありがとうございます」


 そう答えた後、思い出したように笑ってしまう。怪訝そうに眉をひそめる王に、リリアは言う。


「いえ。陛下とお話しする時は、いつも非公式の場だけだと思いまして」

「ん? ……そうだな、言われてみればそうだ」


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ではでは。

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