表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/259

17


 ――リリア。落ち着いた?


 さくらの声に、リリアは顔を上げた。ここに入ってからどれだけの時間が過ぎただろうか。少なくとも授業はもう始まっているはずだ。本来なら急がなければならないが、リリアは目元に触れてため息をついただけだった。


 ――落ち着いたわ。けれど、授業には出られないわね。

 ――まっかっかだね、はれてるね。王子にあれだけ言っておいてその顔だと情けないね。

 ――うるさいわね、分かってるわよ。


 リリアは立ち上がると、服についた汚れを簡単に払った。扉からそっと顔を出して辺りを窺う。微かに人の話し声が聞こえるが、少なくとも近くには誰もいないようだ。今なら寮の自室に戻るのも容易だろうが、アリサを心配させてしまうだろう。


 ――時間がもったいないし、図書室で勉強でもしない?

 ――そうね……。そうしましょう。


 静かに教室から出ると、リリアは周囲を警戒しながら移動を開始する。誰かに見咎められても連れ戻されるようなことはないが、この泣きはらした顔を見られたくはない。後々誰に何を言われるか分かったものではない。

 ほとんどの生徒が授業を受けているためか、二階にある図書室まで誰にも会わずにたどり着いた。静かに扉を開けて、体を滑り込ませる。すぐに閉じて、ふうと一息ついた。


 この学園の図書室はかなり広い。当然ながら本棚も多く並んでいるため、奥の方にいれば誰かに見られることは少なくなる。特に今のような授業中なら、生徒にはまず見つからないだろう。教師が一人必ずいるはずだが、この時間なら本棚の整理に追われているはずだ。よく使われる本はやはり手前の本棚なので、奥の方は死角になっている。

 リリアは図書室の奥へと入っていく。最奥までたどり着いたところで、一息ついた。周囲の本棚を見てみると、この国の歴史についての本が数多く並んでいた。ここなら、人は来ないだろう。


 ――さて、紙もペンもないけど、勉強だ! 何教えようかなあ。


 さくらがリリアに勉強を教える時、その声はとても活き活きとしている。本当に楽しそうな声で、しかしかなり厳しい。辛いこともあるが、さくらの楽しそうな声を聞いているだけで、もう少しがんばろうという気にもなれる。リリアがさくらの用意した難問に正解した時など、我がことのように喜ぶのでリリアの方が照れてしまうほどだ。

 今回もやはりとても楽しそうに考えていたが、しかしリリアはそれを遮った。


 ――さくら、その前に貴方の意見を聞いておきたいことがあるのだけど。

 ――ん? なにかな?

 ――これから……ティナとどう会えばいいのかしら?


 ああ、とさくらが唸り、静かになる。きっと何かしら考えてくれているのだろう。リリアももう一度考えてみるが、どのような顔をして会えばいいのか分からない。

 王子はティナが好き、だと思う。そしてティナも、王子を嫌ってはいないはずだ。ティナが王子に対して好きだという言葉を言ったことはないが、そう考えても問題はないだろう。でなければ自分の立つ瀬がなくなる、というのもあるが。

 リリアは王子と完全に決別した。リリアから突き放したのだから、和解などまずあり得ないだろう。自分と友人になったティナは、王子とリリアとの間に立ってしまうことになる。それがとても申し訳なく思ってしまう。


 ――ティナが心配なの?


 さくらの問いを、リリアは鼻で笑った。


 ――あの子のことなんて関係ないわね。私に火の粉が飛んでくるのが気にくわないだけよ。

 ――うん。そういうことにしておくね。

 ――どういう意味よ……。

 ――あはは。本題だけど、そんなに気にしなくていいんじゃないかな。多分ティナは、二人が鉢合わせしないように、程度の気は遣うと思うけど、それだけだと思うよ。王子もリリアの話題には触れないようにするだろうし、リリアから振らない限りは気にしなくていいと思う。


 そういうものだろうか。リリアはまだティナの人となりが分からないので判断することができない。


 ――むしろ距離を取ると余計にティナが気を遣うと思うよ。普段通りにすればいいんじゃないかな。

 ――それが難しいのだけど。

 ――うん。がんばれ!

 ――他人事だと思って……。


 苦笑しつつ、しかし反論はしない。リリアが答えを出すことのできないものなのだから。


 ――さて、それじゃあ今度こそ勉強だ!


 さくらが今度こそと叫んだのと、


「あれ……? どなたかいらっしゃいます?」


 その声が聞こえたのは同時だった。


「……っ!」


 息を呑み、ゆっくりと振り返る。そこにいたのは、見覚えのない少年だった。短い銀髪の少年で、学校の制服を着ていることから生徒だと分かる。ただこちらに見覚えはなくとも、彼にはきっとあるだろう。この学園でリリアのことを知らないという者はほとんどいない。

 そう思っていたのだが。


「えっと、先輩、でしょうか。授業はいいんですか?」


 リリアを知らないようだが、これは本当に知らないのか、リリアには判別がつかない。


 ――さくら。この子のことは知ってる?

 ――ごめん、知らない。悪い子ではなさそうだけど……。

 ――そう……。


 ならばもう少し様子見か。リリアがそう決めて、笑顔を貼り付けた。


「私は少し調べ物があってここにいるの。君は?」

 ――すごい猫かぶりだ! 猫リリアだ!

 ――黙りなさい。


 頭の中で叫ぶさくらに苦言を呈し、少年の反応を伺う。少年はすぐに答えてくれた。


「その……。僕はここで勉強しています。クラスに馴染めなくて……。幸い試験の点はそれほど悪くないので、見逃してもらっています」

 ――え、ありなのそれ?

 ――ありなのよ。試験で結果さえ出しておけば、授業に欠席していても許されるわ。でないと私は二週間も休めないわよ。

 ――ああ、なるほど。言われてみれば確かに。


 だが、とリリアは思う。一人で勉強は確かにできるだろうが、効率がいいとは言えないだろう。クラスに馴染めなくても、授業ぐらいは出るべきだと思う。そんなことを言ってみると、少年は曖昧に笑っただけだった。


 ――訳あり、かしらね。

 ――どうするの?

 ――助けを求められたわけでもないし、無視しましょう。


 少年とはここでたまたま会っただけだ。わざわざ助けてやる義理はないし、そもそもリリアにもそんな余裕はない。時間的にも、そしてそれ以上に精神的にも。


「深くは聞かないわ。まあがんばりなさい」


ここからはちょっとのんびりが続いたりするかも、なのです。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ