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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後休暇

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「来たか。待っていたぞ」


 王子が顔を上げ、わずかに笑みを見せる。すぐに側に控えるメイドたちに言った。


「話した通り、これから私はリリアーヌと大切な話をする。お前たちは部屋の外に出ておいてくれ」

「畏まりました。ですが一人だけでも……」

「必要ない。それともお前たちはリリアーヌは信用できないと言うのか?」


 王子の言葉に、メイドたちが言葉に詰まる。まだ何かを言おうとしていたが、王子の目が細められるとすぐに全員が退室していった。


 ――信用できないよね。


 さくらが言って、リリアが内心で首を傾げる。


 ――婚約破棄された人が部屋を訪ねてきて、安心して二人きりにできるわけがないと思うよ。密偵さんたちも上にいるし。


 リリアが天井を見る。リリアには何かがあるように見えないのだが、さくらがそう言うのならそこにいるのだろう。気にすることでもないだろう、と王子へと視線を戻した。


「アリサ。紅茶の用意を。その後は貴方も部屋を出てもらえる?」

「畏まりました」

「それを使うといい」


 王子が部屋の隅を示す。アリサはすぐに頷くと、紅茶の準備を始めた。リリアはそれを満足そうに見た後、王子の元へと向かった。王子に促され、リリアは対面に座る。その後は、しばらく無言の時間が流れた。


「どうぞ」


 アリサが紅茶で満たされたカップを二人の目の前に置く。失礼致します、と退室していった。


「では……。よろしく頼む」

「はい。お任せ下さい、殿下」


 真剣な表情の王子に、リリアも気を引き締めて頷いた。




 王子への勉強の教え方はレイの時と同様のものだ。手が空いている時間はリリアは読書の振りをしてさくらの声に耳を傾ける。しかしすぐに扉がノックされ、中断された。


「殿下。クリステル様がいらっしゃいました」

「クリステルが? そう言えば、共に勉強したいと言っていたような……。一先ず通せ」


 クリスが部屋に入ってくる。リリアを見て、わずかに頬を緩めた。


「殿下。私もクリスからも教えてほしいと頼まれております。クリスが共にいても構いませんね?」

「む……。まあ、いいだろう」


 あまり本意ではないようだが、リリアは気づかないことにした。二人きりの方がリリアにとっては不愉快だ。リリアが教えるのだからこれぐらいは許容してもらおう。

 失礼致します、とクリスが加わったところで、再開された。




 この二人はさすがと言うべきか、とても物覚えがいい。一を説明すれば勝手に十まで理解してしまう。リリアはさくらのやり方を真似ているだけとはいえ、教え甲斐があるというものだ。少しばかり、この能力の高さが羨ましくもある。


 ――天才っているものね。私ももう少しがんばらないと、追い抜かれそうね。

 ――リリアが言うかな……。


 さくらが呆れてため息をつき、リリアは首を傾げた。さくらは、何でも無いよ、と諦めたような声で言った。

 その後もしばらく勉強を続け、窓から夕日が差し始めたところでリリアは教材を閉じた。


「殿下。私はそろそろ……」

「ん? ああ、もうそんな時間か。リリアーヌの教え方は素晴らしい。今まで以上に理解できた」

「本当に。もっと早くお願いするべきでした」


 王子とクリスの賞賛の言葉に、リリアは困ったように笑うことしかできない。これはさくらのやり方なので、どうにも人の手柄を横取りしているような感覚になってしまう。


 ――気にしすぎだと思うけどね。


 さくらは興味がなさそうにそう言うが、これはリリアの気持ちの問題だ。リリアは殿下とクリスへと言った。


「ありがとうございます。ですがこれは、私もこのように教わっただけのことです」

「ほう……。誰からかと聞いても?」

「申し訳ありませんが、それはお答えできません」


 はっきりと、王子の目を見てそう告げる。王子はリリアの表情から何かを読み取ろうとしているかのようにじっと見つめてきたが、やがて肩をすくめてため息をついた。


「私は教わっている立場だからな。聞かないでおこう」

「ありがとうございます。では、お先に失礼致しますね」

「ああ。気をつけて帰るといい」


 王子へと一礼して、クリスへと視線をやる。クリスは緊張のためか、表情が硬くなっていた。


「クリス」


 リリアが呼ぶと、クリスがリリアを見る。こちらを不安げに見つめてくる瞳に頷きを返すと、クリスも未だ緊張したままのようだったが、しっかりと頷きを返してきた。

 この後は、クリスと王子の問題だ。リリアが介入するべきことではない。リリアは王子へともう一度頭を下げると、クリスを残して退室した。


「殿下。とても大事なお話があります」

「ん? 聞こうか」


 そんな会話が微かに聞こえてくる。がんばりなさい、と呟き、リリアはそっと扉を閉じた。




 翌週。前回と同じように王子の部屋を訪れると、すでに王子とクリスは勉強を始めていた。この二人が一緒にいるということは、話はまとまったのだろうか。

 テーブルまで歩くと、王子がゆっくりと顔を上げた。


「リリアーヌ。お前には話しておくが……」


 開口一番の王子の言葉。まずは挨拶ではと思いながらも、リリアは姿勢を正した。王子が続ける。


「クリステルと婚約することが決まった」


 どうやら無事に説得できたらしい。少なくない驚きを覚え、クリスを見る。その視線を受けたクリスは、どこか疲れたような笑顔を見せた。どうやら相当に苦労したらしい。王子へと視線を戻すと、王子は申し訳なさそうに眉尻を下げていた。


「リリアーヌ。この場にいるのは私たちだけだ。いくらでも、詰ってくれて構わない」


 リリアが眉をひそめ、首を傾げる。王子はリリアとは目を合わせようとはせずに、


「お前を見限りティナを選んでおきながら、クリスと婚約することになった。本来ならお前を后に迎えるべきだったのだが……」

 ――やめて気持ち悪い。

 ――おさえて!


 さくらの声でどうにか口に出さずに済んだ。リリアは言葉を喉の奥に呑み込み、笑顔を貼り付けた。


「そうですか。ご婚約おめでとうございます」

「怒らないのか?」

「怒りませんよ。私にとってはどうでもいいことですから」


 王子が頬を引きつらせ、力無く項垂れた。王子としてはリリアに怒ってもらいたかったのかもしれないが、リリアにとっては本当にどうでもいいことになっている。クリスと結婚しようがティナとしようが、友人が不幸にならなければ問題ない。


 ――不幸になったら?

 ――叩き潰すわよ。

 ――相手は王族なんだけどなあ……。


 さくらはそう言って苦笑するが、特に反対はしなかった。気を取り直して、殿下へと気になっていたことを聞いた。


「殿下。ティナのことはどうするのですか?」

「ああ……。友人関係でいてほしい、とは思うが、彼女に聞いてみないことにはな……。こればかりは、私が直接話すとする」


 どうやらしっかりと自分で話をするつもりのようだ。それならリリアから言うことは何もない。ずっと王子の相談を聞いていたクリスなら、王子の手綱も握ることができるだろう。もっとも、一筋縄ではいないだろうが。


「クリス。愚痴ならいつでも聞いてあげるわ」

「はい。是非お願い致します」

「待て、それはどういう意味だ?」


 憤慨する王子を見て、リリアとクリスは顔を見合わせ笑い合った。


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ではでは。

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