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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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15

「おはよう、ティナ」

「え、あ……。ああ! おはようございます!」


 ティナが勢いよく立ち上がり、頭を下げてくる。リリアは小さくため息をつくと、じろりとティナを睨み付けた。それだけでティナは表情を強張らせる。


「えと、その……。おはよう、リリア」

「よろしい」


 リリアが満足そうに頷くと、ティナは安堵のため息をついた。


「それで、こんなところで何をしているの?」

「うん。リリアを待ってたの」


 嫌な予感が的中してしまった。頬を引きつらせながら、リリアは何とか笑顔を維持する。


「へえ。どうして?」

「少しお話したいなって……。それに、友達になれたのだって夢じゃないかな、って……。ねえ、リリア。本当に友達だよね?」


 上目遣いでそう聞いてくる。リリアは一瞬だけ視線を彷徨わせてしまうが、すぐにティナの瞳へと視線を戻した。正直避けるつもりであるし、王子とのこともある。できるだけ会わないようにしようと言うために口を開いた。


「貴方は何を言っているのですか。リリア様が言葉を違えるはずがないでしょう」


 アリサの言葉に、リリアは凍り付いた。


「そ、そうですよね! アリサさんの言う通りです! 私がどうかしていました!」

「当然です。リリア様ですよ。間違いありません」


 何だこの信頼は。


 ――ぐさりと……ぐさりときたわ……。

 ――あ、あはは……。どんまい、リリア……。


 どうやらリリアにティナを避ける選択肢はないらしい。リリアは重たいため息をつくと、ティナの対面に座った。それに気づいたアリサもその隣に座り、ティナは嬉しそうにカップに紅茶を注いでいく。


「それで? 何の話をするの?」

「え? あ……。考えてない……」


 ティナがそこで黙り込み、リリアとアリサも唖然としてしまう。誘っておいて話題を用意していないとはどういうつもりか。リリアが目を細めていくと、さくらの声が割って入った。


 ――リリア。友達とおしゃべりするのに用意なんてしないよ。

 ――そうなの?

 ――うん。少なくとも私はしなかった。

 ――ああ、だから貴方はそうなのね。

 ――ちょっと待ってどういう意味かな!


 ぎゃあぎゃあ叫ぶさくらを無視してティナを見る。目が合ったティナは、そうだ、と手を叩いた。


「お化粧」

「はい?」

「今日はお化粧、していないんだね。誰か分からなかったよ」


 リリアが動きを止め、アリサが頬を引きつらせ、そしてさくらは楽しそうに笑った。


 ――容赦なく地雷を踏み抜いたね! リリア、ティナは知らないんだから、怒っちゃだめだよ?

 ――安心しなさい。私の怒りは貴方に向いているわ。

 ――安心できる要素がないよ!?


 さくらと短く言葉を交わし、荒れそうになる心を落ち着かせる。はがれそうになる笑顔の仮面をもう一度張り直し、言う。


「似合ってない、と言われてしまったのよ。そのままでいいって。やっぱり変よね?」

「そんなことない! 今の方がずっといいよ。やっぱりリリアって美人さんだったんだなって思える」

「え? それはつまり今まで…… え?」


 リリアが目を見開き、失言だったと気づいたのかティナは勢いよく視線を逸らし、その視線を向けられたアリサは我関せずとばかりに紅茶を飲む。なんだこれ、という声がリリアの頭に響いた。

 リリアはティナの言葉をしっかりと考え、理解し、そして力なく微笑んだ。


 ――さくら。私の美意識はずれているみたいだから、今後ともお願いね。

 ――現実逃避よくないよ? 一緒に勉強しようね。


 さくらの言葉が胸にしみる。さくらがいて良かった、と少しだけ思うのと同時に、こいつが何も言わなければこんな悲しみを味わうこともなかったのでは、と思い直す。ただ長期的に見ればやはり気づけて良かったことなので、何も言わないことにした。


「ティナ。アリサ。時間があれば、私に似合う化粧でも考えてもらえない?」


 リリアがそう言うと、アリサが苦笑、ティナは驚きからか一瞬動きが固まった。そしてすぐに笑顔になり、頷いた。


「うん! 任せて!」



 その後は緊張がほぐれたのか、他愛ない雑談を続けていた。ティナの家族の話は、実家で買っているというペットの話などを主に聞いている。それらの会話の中で、一つの話題だけはあからさまに避けられていた。


「ティナ。こんなところにいたのか」


 その避けていた話題の張本人の声が、リリアの背後からした。リリアが表情を凍り付かせて動きを止め、アリサはその声の主を一瞥してリリアを心配そうに見て、ティナは焦りからか表情をわずかに歪めていた。


「殿下……。今日はお早いのですね」


 ティナが平静を装いながら言う。ただその声は隠しようもなく震えていた。それに気づいていないのか、それともあえて気づかないふりをしているのか、声の主、この国の王子はそのまま話を続ける。


「ああ。リリアーヌが戻ってきたと聞いたんだ。それでティナが心配になって、早めに出てきた。ティナも今日は早いじゃないか。いつもならもう少し遅いだろう」

「ええ。その……。少し、お話をと思いまして……」

「ふむ」


 王子は少し歩き、ティナの隣へと移動する。そしてリリアの顔を見た。さすがに王子から目を逸らすわけにもいかず、リリアも作り笑いで対応する。

 見られた。同じ学校なのだからいつかは会うだろうとは思っていたが、こんなに早く会うことになるとは思わなかった。心が早鐘を打ち、緊張で胸が苦しくなる。

 そして、王子が口を開いた。


「初めて見る顔だな。ティナの新しい友人か?」


 ティナとアリサが息を呑む。この王子の言葉は完全に予想外のものだ。リリアは頭が真っ白になり、表情は抜け落ちていた。


「で、殿下。本当に分からないのですか?」

「ん? 俺も会っているのか? そう言えばどこかで見覚えが……」


ようやく王子様の出番になりました。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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