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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年後学期

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「間違っていないわよ。私は、以前はとても嫌な人間だったもの」

「何度か聞いたけど、未だに信じられないよ」


 疑わしげなレイの眼差しを、リリアは少しだけ新鮮に感じた。変わろうとしている時にこの視線は向けられていたが、その逆はほとんどない。


「正直気分のいい話ではないけれど、いずれ話してあげるわ」


 リリアがそう言うと、気が向いたらでいいよ、とレイは気遣わしげな目で言った。


「さて、もういいでしょう。勉強するわよ」

「リリアはこんな時でもいつも通りだね。うん、お願いします」


 リリアが半眼で睨むと、レイは慌てて教材を取り出した。




 夕食後。予想通りと言うべきか、ティナが部屋を訪ねてきた。快く迎え入れ、アリサが用意した紅茶を二人で飲む。いつも通りの光景だ。


「ねえ、リリア。あの噂は本当なの?」


 前置き無く問いかけてきたティナへ、リリアは薄く微笑んで言う。


「ティナはどう思うの?」


 問い返されるとは思わなかったのか、ティナは何度か目を瞬かせ、考えるように少しの間目を閉じた。


「最近のリリアなら、行っていても不思議じゃないかな、とは思うけど」

「そう?」

「うん。あとは、私がそうだったらいいなって思うだけ。本当なら、リリアと一緒にお出かけもできるかなって」


 そう言って照れくさそうにティナが笑う。リリアはどう答えていいか分からなくなり、そっと視線を逸らした。


 ――なにこのかわいい生き物二人。でもティナ、リリアは私のものだ!

 ――誰が貴方のものよ。寝言は寝てから言いなさい。

 ――ひどい。


 リリアがティナへと視線を戻し、頷いて言った。


「噂の話だけど、本当のことよ。ティナからもらった菓子が美味しかったから、時折自分で買いに行っているわ」

「あ、そうなんだ。もしかしなくても私のせいかな?」

「気にしなくていいわよ。私が行きたいから行っているだけだから」


 何となくだが、ティナからもらった菓子というきっかけがなくても、いずれは行っていたような気がする。この悪霊もどきにそそのかされて。


 ――ひどい。でも否定しない。


 やっぱりか、とリリアは内心でため息をつく。もっとも、悪い気はしていないが。


「今度、一緒にお買い物に行けるかな?」


 ティナが何かを期待するかのように上目遣いに聞いてくる。それに苦笑しつつ、そうね、と間を置いてから答えた。


「今は素性が知られてしまったところだから落ち着くまでは行けないけれど、落ち着いた後ならいいわよ。ティナのおすすめの店も知りたいしね」

「良かった。楽しみに……。待って、おすすめ?」

「ええ、そうよ。期待しているから」


 満面の笑顔で言うと、ティナは絶句して固まってしまった。口を何度か動かしていたが、言葉になっていない。その様子が面白くて眺めていると、やがてティナが引きつった笑みを浮かべた。


「ま、まかせて……!」

「ええ。期待、しているわ」


 はっきりと、期待を強調して言っておく。ティナは無言で何度も頷いた。


 ――ハードル上げすぎでしょ。ティナは自爆して自分で上げてるし。

 ――はーどる?

 ――あー……。今度説明します。


 久しぶりに聞いた意味の分からない単語に首を傾げながらも、リリアは内心で頷いた。


「そうだ!」


 ティナが手を叩く。首を傾げるリリアへと、ティナはいたずらっぽく笑いながら言った。


「アイラとケイティンのおすすめも聞いておくから! あと、リリアも教えてね!」

 ――この子平然と友達を巻き込んだよ。さりげなく黒い。クロティナだ。

 ――本当に嫌がることなら言わないでしょう。少し意外ではあるけれど。


 それだけ心を許してくれているのだと思いたい。リリアは微笑して言う。


「分かったわ。私もおすすめを考えておくわね」

「う、うん……」


 ティナは目を逸らし、がんばらないと、と呟く。リリアはそれを聞かなかったことにして、内心でさくらと共に笑いながら紅茶に口をつけた。




 一週間。その間は噂などなかったかのように、いつも通りの日常だった。そして休日が明けた日の朝、扉が勢いよく叩かれた。


「あら。殿下」


 アリサが開けた扉から入ってきたのは王子だった。どこか緊張した面持ちでリリアを見てくる。リリアが首を傾げると、王子は硬い声で言った。


「もうすぐ、王城から遣いが来る」


 リリアが目を瞠り、視界の隅ではアリサが息を呑んだ。


 ――いきなりだね。てっきり前もって連絡があると思ったんだけど。

 ――普通はあるはずなのだけど。


 少しばかり疑問に思いながら王子へと目線だけで先を促すと、王子が続けた。


「父上の話では、不安になる必要はない、ということだ。リリアを罰するための呼び出しではない。ただ、本人に説明させろと言う者がいるらしくてな」

「ずいぶんと急ですね」

「私もそう思う。可能性の話だが、この機会にアルディス公爵家の力を削ごうとしている者がいるのかもしれない」


 王子はそこまで言うと、小さくため息をついた。その顔は何かを憂慮するものだ。王子は重たいため息をついて、言った。


「アルディス公爵本人が黙っていないだろうに、どういうつもりなんだ。わざわざ虎の、いや龍を叩き起こさなくてもいいだろう……」


 どうやら王子はリリアの心配ではなく、リリアの父を、アルディス公爵を怒らせてしまわないか不安に思っているようだ。リリアは少しだけだが居たたまれなくなり、そっと頭を下げた。


「心中お察し致します」

「察したなら口添えしてくれ。アルディス公爵に、静観していろと」

「あら。お父様に会う時間を頂けるのですか?」

「ない、だろうな……」


 王子は何度目かになるか分からないため息をついた。さすがに少しだけ同情してしまう。父に会えるならリリアとしても協力してもいいとは思うが、会えないなら無理だ。

 扉がノックされ、王子がはっと我に返った。アリサが緊張の面持ちで扉へと向かう。短い会話をした後、リリアへと振り返った。


「リリア様。王城の方です。制服でも構わないそうなので、共に来て欲しい、と」


 リリアと王子が眉をひそめた。正式な呼び出しだと思っていたのだが、どうやらそうでもないらしい。本来なら制服で構わないなどあり得ないはずだ。


「アリサ。通しなさい」


 アリサが頷き、扉を開ける。女が数人入り、王子の姿を見て息を呑んだ。慌てて片膝をつき頭を下げる女たちに、王子は苦笑しつつ首を振った。


「私のことよりも自分の職務を果たすといい。ただし、私も同行するぞ」


 予定通りなのかは分からないが、女たちは特に驚くこともなく、畏まりましたと応えた。


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ではでは。

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