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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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 アルディスのメイドがレスター伯爵家の屋敷の内部にいるのなら、彼らも目立つことはできないだろう。書類などならともかく、少なくともブロソのような人的被害は出ないはずだ。彼らもまさかアルディス公爵家を敵に回そうとは思わないだろう。

 ティナにはどこまで話そうか、と考えながら自室に入ったところで、リリアは眉をひそめた。

 ティナは大きなぬいぐるみを見つめながら、どこか沈んだような表情をしていた。


「どうしたのよ」


 リリアが声をかけると、そこでようやくリリアが入ってきたことに気づいたのか、少しばかり驚いたような表情を見せた。ティナは眉尻を下げたまま、言う。


「やっぱりキースとは、もう仲直りできないのかな?」


 それを聞いて、リリアはようやく思い出した。ブロソの事情を聞いたのは、そこからキースの貴族嫌いの原因を知るためだ。確かに原因は分かったが、解決策はないままだ。ティナが男爵家ながらも貴族である限り、キースが歩み寄ることはないだろう。


「諦めなさい、とは言わないけど、私は何もできないわよ」

「うん……。分かってる。ごめんね」


 今日はもう戻るね、とティナは肩を落としたまま部屋を出て行った。リリアはそれを、扉が閉まるまで見送った。

 扉が閉まり、リリアはゆっくりと息を吐く。ティナの様子に少しばかり苛立ちを覚えてしまっていた。言いたいことがあるなら言えばいいだろうに。何に気を遣っているのか、理解できない。

 それに、キースもだ。確かにブロソの境遇には同情するものがあるが、本人が恨んでいないと言っているのに何故当事者でないキースが怒り続けているのか。リリアには全く、理解できない。第一、平民ごときが貴族に対して……。


 ――リリア。


 はっとリリアは我に返った。疲れたようにため息をつき、いすに座る。気持ちを落ち着かせるためにゆっくりと深呼吸をして、天を仰いだ。


 ――大丈夫?

 ――ええ。大丈夫よ。


 どうにもキースのことを考えると苛立ちが募ってしまう。その理由がリリアにも分からない。理由の分からない気持ち悪さを覚え、リリアは大きなため息をついた。




 翌日。いつものように勉強のためにリリアの部屋を訪れたティナは、昨日と打って変わって笑顔だった。昨日は就寝前まで思い詰めた顔をしていたので不安だったのだが、少しばかり安心できた。


「リリア。昨日はごめんね。ちょっと悩んじゃって」


 勉強道具を広げながらティナが言う。リリアは首を振って答えた。


「気にしなくていいわよ。すぐに答えが出るものでもないのは分かっているつもりだから。ただ、私にできることがあれば遠慮無く言いなさい」

「うん。ありがとう、リリア」


 ティナが嬉しそうな笑顔を浮かべ、リリアは少しだけ気恥ずかしくなり目を逸らした。




 同じテーブルで勉強を続ける。時折ティナが分からないところを聞いてきて、リリアがそれを教えるというのがいつもの流れだ。リリアも同じ教材を開いているが、実際には見ていない。ほとんどがさくらが話し、リリアはそれを聞いていた。

 だが今日ばかりは、さくらは何も話さなかった。勉強をすると言っても、今日は復習で、の一言しかもらっていない。普段はやかましいほどなのに、急に静かになると気になってしまう。


 ――今さらっと失礼なこと考えなかった?

 ――こういうことには反応するのね。

 ――う……。ごめん……。


 険を含ませた声で言うと、さくらは謝罪してまた黙り込んでしまった。それが気にならないと言えば嘘になるが、さくらにも一人で考え事をしたい時ぐらいはあるだろう。リリアにとって必要なら後で教えてくれるはずだ。そう自分を納得させて、リリアは教材に目を落とした。




 昼前になり、勉強を終えた二人はいつものように着替えて出かける準備をする。着替えだけで準備が終わるリリアは、いつもティナの部屋で人形を眺めながら待っていた。

 今日も同じように人形を眺めながら、そう言えばと口を開いた。


「ティナはレスター伯爵家については知らなかったの?」


 それを聞いたティナは、申し訳なさそうにしつつも苦笑した。


「お父さんなら知ってるとは思うけど、私はあまり……。時折挨拶に行ったりもするんだけど、私の接点ってそれだけだから。フリジアさんには会ったことがなかったし」

「そうなの?」

「うん。学校で見かけたのが初めてだよ」


 え、とリリアが口を開き、その様子にティナが首を傾げた。


「どうしたの?」

「その……。何でも無いわ」

 ――さくら。フリジア・レスターは同じ学園なの?

 ――そうだよ。同じ学園どころか同じクラスです。まあリリアのクラスは良くも悪くも濃い人が多いからね。覚えて無くても仕方ないよ。

 ――どういう意味よ。

 ――あはは。まあ、ともかく、フリジア・レスターは影が薄い人でもあるからね。よく思い出してみて。クリスの周囲の人を。


 つまりはクリスの取り巻きにいるのか。少しだけ意外に思いつつも、学園での記憶を思い出す。幸い、クラス全員の名前は一度は覚えていたので、すぐに思い出すことができた。

 確かにクリスの取り巻きの一人に、フリジア・レスターがいる。ただ、昨日の話とは印象が全く違う。昨日の話では傲慢で我が儘な性格をイメージしていた。


 ――昔のリリアみたいだね。

 ――うるさいわよ。


 学園で見たフリジアは儚げな印象が先に立つ。リリアのクラスの中で間違いなく最も大人しい生徒だ。昨日の話の方を疑ってしまう。


 ――だからこそ、余計にブロソさんの話は信用されないんだろうけどね。

 ――でしょうね。


 リリアですらブロソを疑ってしまう。兄が仲介していなければ、間違いなく信用しなかったことだろう。学園に戻った後はクリスにそれとなく聞いてみてもいいかもしれない。


「リリア。お待たせ」

「ええ……。行きましょうか」


 学園に戻ってからの計画を少しだけ立てながら、準備を終えたティナと共にリリアは南区へと向かった。




 途中で買い食いをしながら、いつものように南区を巡る。ふと振り返ってみれば、今日もやはりブロソは一定の距離を保ったまま着いてきていた。


 ――今日も苺大福が美味しいです。

 ――よく飽きないわね……。

 ――苺大福に飽きるとか、私が私でなくなる時だね。

 ――どれだけ苺大福が重いのよ。


 歩きながら苦笑する。ふと前を見れば、ティナが首を傾げていた。


「リリア。どうかした?」

「何でも無いわよ」


 そう答えると、ティナは不思議そうにしながらも前を向いて、


「あ」

「げ」


 キースと目が合った。


「大きな町なのにどうしてこれだけ会うのよ……。もしかして貴方、ティナのストーカーなの?」

「はあ!? ふざけんな! 誰がこんなやつ!」

「こんなやつなんて……。昔は一緒に遊んだのに」

「だからあれはお前が貴族だと知らなかったからだ!」


 ティナを睨み付けながらキースが叫ぶ。リリアは小さくため息をつくと、二人へと背を向けた。


「ティナ。終わったら呼んでもらえる?」

「あ、うん。ごめんね」

「なんだよ、逃げるのかよ!」


 キースの分かりやすい挑発に、リリアはあからさまにため息をついた。キースを冷たく見据え、言う。


「まず相手にされていないことに気づきなさい」


 やれやれと首を振りながら歩き始める。キースはそれ以上は何も言わず、ティナに対して怒鳴った。


「やっぱり貴族だな! どいつもこいつも、話を聞くことすらできないやつらばかりだ!」

「キースには言われたくないと思うよ?」

「うるせえ! お前だって同じだろうが! お前らの態度を見ていればよく分かるな、どうせ何の苦労もなく生活してるんだろ! だから人の話を聞かないなんてことができるんだ!」


 それが聞こえてしまい、リリアの目がわずかに据わる。


 ――リリア。落ち着いて。早くここを離れようよ。

 ――そう……。そうね。そうしましょう。


 さくらの言葉にリリアは頷く。そうして声が聞こえないところまで歩こうとして、


「少しは努力でもしてみろよ、そうすれば俺たちの苦労が針の先ほどには理解できるだろ。まあお前が努力なんてするとは思えないけどな!」


 リリアの頬が引きつった。足が止まり、目だけをキースへと向ける。二人とも、リリアの様子の変化になど気づいていない。

 何故だろうか。リリアは我慢強いというわけではないが、この程度で怒りを露わにするようなことはあり得ない。もっとひどい陰口を聞いたこともある。だが、なぜかキースの言葉には今まで以上に腹が立った。自分のことでないにも関わらず、頭に血が上っていくのを感じる。


 キースが何を知っているというのか。ティナは学園ではずっと努力をしていた。幼い頃から教育を受けている上級貴族たちを抑えて試験で上位を取るなど、並大抵の努力ではないだろう。確かにキースたちとは方向性の違うものだが、ティナが努力を怠っているわけではない。


「あんなわけのわからない貴族の知り合いなんて作りやがって! どうせ貴族連中に媚びへつらっているんだろ! ああ、もしかして成績も貴族の連中から買い取ってるのか? お似合いだな!」


 誰が、誰に媚びを売っているのだろうか。ティナは一度たりとも媚びを売ったことなどない。ティナの学園での環境は決していいものではなかったが、それでも貴族相手に媚びを売ったなど聞いたこともない。


 ――リリア。


 さくらの声が聞こえるが、リリアはそれを聞き流した。頭に血が上っていることを自覚しながらも、それを抑えようとはしない。久しく感じていなかった怒りの衝動に、心地よく身を任せていた。

 そもそもだ。そもそもこいつは、何様のつもりだ。たかが平民の分際で……。


 ――リリア!


 たかが平民の分際で、貴族相手に何を言っているのだろうか。少しは己の立場を弁えるべきだ。それすら理解できず、何を言っているのだろうか。

 気が付けば、リリアはキースの真後ろに立っていた。対面の位置にいたはずなのに、どうやら自分は少しだけ遠回りをしたらしい。まあ、どうでもいいことだ。

 前を見てみれば、ティナが目を見開いてリリアを凝視していた。その顔は、どこか青ざめているようにも見える。それもやはり、どうでもいいことだ。


「だいたいお前はいつも……!」


 さらに何かを言おうとするキースの肩を叩く。うるさい、と手を払われたことにさらに怒りを覚えながら、また叩く。今度こそキースはリリアへと振り返った。


「うるせ、え……?」


 キースの声が尻すぼみに小さくなる。そうしてリリアを見るキースの瞳は、怒りのそれから恐怖へと入れ替わった。


「いい加減、耳障りよ」


 ゆっくりと『笑顔』で言うと、キースが怯えた表情で一歩後じさった。だがすぐに我に返ったのか、リリアを睨み付けてきた。


「何だよ、文句でもあるのか?」

「ええ。あるわね。貴方こそ何も知らないのに、くだらないことをしつこく言わないでほしいわね」

「は? お前こそ何も知らないだろうが!」


 リリアは鼻で笑うと、笑顔を崩さずに続ける。


「それも、どうでもいいわ。耳障り。それだけで十分よ。口を閉じなさい」

「お前に言われる筋合いはねえよ! 何を偉そうに……!」


 リリアの目がわずかに細められる。それだけで、何かを感じ取ったのかキースが息を呑んだ。


 ――リリア。お願いだから落ち着いてよ……。


 さくらの声。それを認識しながらも、リリアは続ける。


「まず、それがいけないわね。貴方は誰に対してそんな口をきいているのかしら?」

「は……? 誰にって、どっかの男爵家の……」

「リリアーヌ・アルディス」

「は?」

「リリアーヌ・アルディス。それが私の名前よ。アルディス公爵の娘と言ったらもっと分かりやすいかしら?」


 キースの目が大きく見開かれた。その様子を面白そうに見つめながら、リリアは言う。


「もう一度、聞くわよ、誰に対して、そんな口をきいているのかしらね?」


 キースは言葉に詰まり、何も言えずにぱくぱくと口を開閉だけさせていた。だがすぐに、彼の目に力が戻った。もう一度リリアを睨み付け、叫んだ。


「うるせえ! 公爵家がなんだ! そんなこと俺には関係ねえよ!」

「へえ……」


 リリアの口角がゆっくりと持ち上がる。それはとても、楽しげな笑顔だった。

 そして、リリアが口を開く。


 ――だめ! リリア、それは言っちゃだめ!

「たかが平民風情が、公爵家によく言えたものね」


 そう言った瞬間、キースの表情が凍り、ティナが驚愕に目を見開いた。気にせず、リリアは続ける。


「キース。貴方と家族がどういった生活をしているのか、仕事をしているのか、そういったものを調べるのは簡単なのよ。言っている意味は分かるわね?」


 リリアの言葉に、キースは蒼白になりながらも頷いた。


「キース。貴方は自分の言動を少し考えるべきね。でないと……」


 潰すわよ。


 リリアが笑顔でそう言う。キースからは反応がない。ただ目を見開くばかりで、完全に固まってしまっている。冷たい目でキースを睨み付けると、ひっ、と短い悲鳴を漏らし、慌てて逃げていってしまった。

 リリアはつまらなさそうに鼻を鳴らすと、ふとティナを見る。

 ティナは、こちらをどこか泣きそうな顔で見つめていた。


「ねえ、リリア」


 ティナの声。どこか冷たい響きを感じるのは気のせいだろうか。


「今のがリリアの、本音なの?」


 リリアが怪訝そうに眉をひそめる。何を当然のことを聞いているのかと。それだけでティナは察したのだろう、悲しげに目を伏せ、そっか、と呟いた。


「ごめんね、リリア。私は先に戻るね」


 そう言って、リリアを残して戻っていく。何故かティナに距離を感じてしまった。


 ――リリア。

 ――何よ。

 ――それだけは、言って欲しくなかったよ。


 そう言えば、何か叫んでいたような気もする。頭に血が上っていて聞いていなかった。


 ――よく思い出して。自分が何を言ったのか。

 ――よく分からないのだけど。

 ――平民風情が公爵家にって言ったよね。

 ――言ったわね。間違っているかしら?


 そう問うと、さくらは言葉に詰まったのか押し黙ってしまった。つまらなさそうに鼻を鳴らし、リリアも宿へと戻るために歩き始める。


 ――貴族社会だから、間違った考えでは、ないよ。認める。でもね、リリア。


 何を言いたいのか。はっきり言ってほしいものだ。少しだけ苛立ちを覚え、


 ――下級貴族はほとんど平民と変わらないんだよ。それを聞いたティナは、どう思うかな。


 ぴたりと、足を止めた。


 ――え……?

 ――ティナもその考えが間違っていないことは、分かってると思うよ。でも、ティナは今まで、リリアは対等に接してくれていると思っていたと思うよ。最初の頃はともかく、今の様子を見ていたら、ね。


 それはリリアも同じだ。ティナは対等な友人だと思っている。家柄の違いはあれど、それに関係はない。


 ――でも言ったよね。平民風情がって。その身分の考え方なら、男爵家であっても同じことが言えるよね。


 そこまで聞いて、リリアはようやくさくらの言いたいことを理解した。理解してしまった。


 ――ティナは、怒ってるわけじゃないよ。ただ、接し方が分からなくなったとは思う。だって、リリアが本当はずっとそんなことを思っていたらと思うと、同じ付き合い方なんてできないよね。

 ――違う……。私は、そんなつもりじゃ……。

 ――リリアにそんなつもりはなくても、聞いている側はそうとしか捉えられないよ。


 だから止めたのに。


 さくらはそう言って、それきり黙り込んでしまった。リリアは目を見開いたまま、その場に立ち尽くしていた。



壁|w・)さて、本筋に戻ろうか。


気づけばストックいっぱい。パソコンドナドナしたところですし、何かの拍子でデータが消える前にいっそのこと消化しておきます。

まくものはまいたので、めいんへごー。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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