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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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96


 二日ほどしてから、兄も別邸へとやってきた。リリアの部屋で勉強をしている時だった。


「お嬢様。クロス様がお着きになりました」


 執事の報告に、リリアは、そう、とだけ答えた。迎えに行かないのか、と問うてくるティナに、リリアは首を振った。


「行っても、お兄様は喜ばないわよ。テオならともかく」

「そうでもないと思うけどなあ……」


 そう呟いたのはレイだ。リリアは肩をすくめるに留めておいた。

 そしてさらにしばらくして、そろそろ昼食の時間という頃合いになって、クロスが部屋へと入ってきた。


「リリア。いるか?」


 ノックもなしに開けるな、と言いたくなるのを堪え、兄へと笑顔を向ける。


「はい。お早いお着きですね、お兄様」

「これはなんだ?」


 兄が紙を一枚見せてくる。見なくても分かる。リリアがまとめた書類だ。聞きに来るだろうとは思っていたが、これほど早く来るとは思っていなかった。


「書斎に届けられていた書類はとても見にくいと思いましたので。まとめさせていただきました」

「勝手なことをするな」


 兄の言葉に、リリアは大人しく頭を下げた。こればかりは兄が正しいだろう。家族とはいえ、リリアが勝手にしていいことではないのだから。


「申し訳ありません。しかしお兄様。私は早くティナの実家に行きたいのです」

「理由を聞こうか」

「ご家族に早く会わせてあげたいだけですよ」


 ティナが大きく目を見開き、リリアを見つめてくる。それに気づかない振りをしつつ、兄へと続ける。


「お兄様も私に会えなくて寂しかったでしょう?」


 いたずらっぽく笑いながらそう聞いてみる。嫌そうな顔を予想していたのだが、しかし兄は納得の表情で何度か頷いた。


「そうか。よく分かった。なら俺も手早く済ませてしまうとしよう。そうだな、二日で終わらせる」


 そう言って兄が退室していく。その予想外の反応に、リリアは間抜けな顔で固まっていた。ティナが笑いを堪えながら、


「ほらね?」


 リリアはばつが悪そうに渋い表情をして、誤魔化すように勉強を再開した。


 ――お兄さんはリリアと同じタイプだね。

 ――どういう意味よ。


 リリアが不機嫌を隠さずに言うと、ひゃっと楽しげな悲鳴を上げてさくらは黙ってしまった。


「でもリリアがそんなことしてくれていたなんて、気づかなかった。ありがとう、リリア」


 ティナが嬉しそうにリリアの手を取ってそんなことを言ってくる。


「別に貴方のためじゃないわよ。私がやりたいからやっただけ」

 ――うん。やっぱりお兄さんとリリアは同じだ。

 ――怒るわよ。


 ティナの手から逃れ、水を飲んでくると言い残して逃げるように部屋を後にした。




 兄は宣言通りに二日で別邸での仕事を終えてしまった。あまり使用人たちと打ち解けることができなかったリリアとしては、嬉しくない誤算だ。


 ――まだ機会はあるよ。焦っちゃだめだよ。

 ――ええ……。そうね。


 さくらの言葉に無理矢理納得して、リリアは荷物を運んでいく。途中でそれに気づいたメイドが慌てて荷物を受け取りに来た。


「あら。悪いわね」


 荷物を受け取ったメイドが驚きに目を丸くし、いえ、とぎこちなく首を振ると玄関へと駆けていく。人数が少ないためか、朝から少し慌ただしい。出発は今朝に急に決まったので、当然とも言えるが。

 ここからティナの実家がある町までは村すらもない。準備は念入りでなければならないのだが、兄が今すぐにでも出ると譲らず、使用人たちは準備に奔走することになってしまった。


 ――お兄様も計画性がないわね。

 ――あはは。きっとリリアが手伝ったから今まで以上にやる気を出したんだよ。

 ――どうだか。


 庭に出ると、馬車は二台用意されていた。兄が乗ってきたものだというのは分かるのだが、何故か二台とも準備をしている。どういうことかと準備をしている護衛二人に聞くと、一台は街に戻るための馬車らしい。


「あら。このまま一緒に来ると思っていたのだけど」

「ええ。そう思っていたのですけどね。レイが帰らないといけないらしいのですよ」


 少しばかり驚きながらレイの姿を探すと、兄と一緒に何かを話していた。リリアがそちらの方へと歩くと、すぐに気が付いてレイは力無く笑った。


「レイはここで帰るのね」

「うん。えっと……」


 レイが周囲を確認して、そっとリリアの耳へと口を寄せる。


「僕の家族が来ているらしくて。さすがに放っておくわけにはいかないから戻るよ」

「そう。気をつけて帰りなさい。護衛もいるしレイも戦えるみたいだから大丈夫だとは思うけど」

「うん。心配してくれてありがとう」


 どうやら準備ができたらしく、護衛二人の大声がレイを呼ぶ。レイは小さくため息をつくと、それじゃあ、と馬車へと走っていった。


 ――家族って、クラビレスの王族よね。何をしにきたのかしら。

 ――うん。それほど大した用事じゃなかったはずだよ。来ているのが第一王子とちょっと大物だけど。

 ――詳しいわね。

 ――まあ、これはね……。


 さくらが歯切れ悪く答える。どうやら言えないことか、言いにくいことのようだ。詮索しても答えないことは分かるので、素直に諦めることにした。



今日の夜にもう1話だけ投稿します。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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