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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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「いつから気づいていたの?」

「最初からです。部屋を出て行くのを見かけたので、失礼だとは思いつつも後をつけさせていただきました」

「そう。あの物音は貴方だったのね」


 作業に戻ろうとして、ふとリリアは手を止め、さくらに問うた。


 ――さくら。気づいていたんじゃないの?

 ――さて、何のことかな?


 惚けるような声に、リリアはため息をついた。やはり執事がいることに気づいていたようだ。リリアに言わなかったことには何か理由があるのだろうか。


「そう言えば、止めないの?」


 執事に聞いてみる。執事は笑顔のまま答えた。


「クロス様より、お嬢様が書斎で何をしようとも黙認しろ、と命じられております」

「そう」


 どうやら兄にはある程度の行動を読まれていたらしい。そのことに妙な気恥ずかしさを覚えてしまい、自然と頬が赤くなった。幸い今も淡い光しかないので執事に見られてはいないだろう。


 ――照れなくてもいいのに。

 ――うるさいわよ。

「でもそれなら、隠れてやる必要はなかったわね」

「いえ。この指示を受けたのは私だけですから、昼間に堂々ととなると、止めなければいけませんでした」


 どうせならメイド全員にも伝えておいてほしいものだと思うが、この執事が一番信用できるからと命じていたのかもしれない。いくら考えても、リリアのこれは推測にしかならないのだが。

 気にせず作業を進めていると、横から見ていた執事がなるほど、と頷いた。


「お嬢様。お手伝いさせていただいてもよろしいですか?」

「え? 構わないけど……。分かるの?」

「見て覚えました。お任せください」


 長年アルディス家に仕えているだけあり優秀だ。リリアは感嘆のため息をつきながら、よろしく、と頷いた。


「その前にもう少し明かりが欲しいところですね。失礼します」


 執事は隅の棚から一枚の大きな紙を取り出した。それを床に広げて、何度か叩く、すぐに魔法陣が光り出し、部屋が明るくなった。


「ところでお嬢様。この作業は何のために? お嬢様がなさる必要はないと思うのですが」

「そうね。お兄様の負担が減るでしょう。そうすれば早くここを出ることができるでしょう。ティナを早めにご両親に会わせてあげたいのよ」


 何を考えているのか、執事はしばらく黙り込んだ。しばらくして、そうですかと漏らした声は、どことなく嬉しそうな響きがあった。


「ですがお嬢様。それならティナ様だけ先に帰らせれば良かったのでは?」

「私もそれは考えたけど、断られそうな気がして聞いてないわ」


 推測だが間違ってはいないと思う。


「ふむ……。友人同士でなければ分からないことでしょうか。私も微力ながら協力します」


 微力、とはよく言ったものだ。どう見てもリリアよりも作業が早い。これが経験の差というものだろうか。気にしても仕方がないので、リリアも作業へと戻った。




 窓からの景色が白み始めた頃。ようやく全ての作業を終えた。整理の終えた書類を机に戻すと、紙の山は半分以下の量になっていた。まとめる前の書類は床に山積みにされている。兄が確認するまでは捨てるわけにはいかないだろう。


 ――おつかれ、リリア。

 ――さくらもね。貴方は休んでいても良かったのよ?

 ――私は指示を出すだけで楽だから気にしなくていいよ。


 そんなものか、と思いながら、リリアは執事に顔を向けた。


「ありがとう。助かったわ」


 執事にそう言うと、彼は穏やかな笑みを浮かべ、いえ、と首を振った。


「私としても勉強になりました。あのようなまとめ方は今まで知らなかったものです。お嬢様はどなたから教わったのですか?」


 どう答えたものだろうか。リリアは少し考え、そしてすぐに答えた。


「私の、一番の親友に」

 ――え……。


 さくらから呆けたような声が聞こえてくる。リリアは笑みを堪えながら、


 ――何よ。嫌なの?

 ――嫌じゃないよ! えへへ……。


 嬉しそうなさくらの笑い声。単純だな、と思うが、嘘は言っていない。

 さて、とリリアは立ち上がった。執事の目はあるが、気にせず大きな欠伸をする。堪えられなかっただけでもあるが、今更この執事の前で取り繕っても仕方がないだろう。ぐっと伸びをしてから執事に言った。


「私は部屋に戻って少し休むわ。ティナたちには適当に言っておいてもらえる?」

「畏まりました。まだ体調が優れない、とでも言っておきましょう」

「それは……。また心配させてしまいそうだけど、まあ、いいわ。お願い」


 寝不足のためか少しばかり気分が悪いのも事実だ。リリアは欠伸をしながら書斎を後にした。




 リリアが目を覚まして最初に見たものは、ティナの心配そうな顔だった。目を開けたリリアを見て、ティナが嬉しそうに顔を綻ばせた。


「リリア。具合はどう? 大丈夫?」


 寝起きのために頭が働かず、一瞬何を聞かれているのか分からなかった。すぐに執事が伝えたであろう内容を思い出し、やはり心配させてしまったかと少しばかり後悔した。


「ええ。もう大丈夫よ。ありがとう」


 体を起こし、窓を見る。外はもうすっかりと明るくなっていた。


「ティナはこんなところで何をしていたの?」

「リリアが心配だったから。あ、でも勉強はちゃんとしてるから!」

「そう。ならいいのだけど」


 ちらりとテーブルの方を見てみると、確かに勉強道具らしきものはあった。真面目に取り組んでいたかまでは分からないが、ティナのことだから大丈夫だろう。


「ところでティナ。昼食の時間はもう過ぎているの?」

「うん。少し前に食べたところだよ。あ、メイドさんに何か食べるものをらってくるね」


 そう言うと、ティナは部屋の外へと駆けていった。それを見送ってから欠伸をして、テーブルへと向かう。


 ――もう少し寝ていた方がいいんじゃないの?


 さくらの声に、リリアは首を振った。今から寝るとまた夜に眠れなくなる。そう言うと、それもそうかとさくらも納得したようだった。


 ――でもやっぱり辛いわね……。今日は部屋で大人しく過ごしましょう。

 ――うんうん。子守歌を歌ってあげる!

 ――貴方は私の話を聞いていたのかしら?


 冗談だよ、とさくらが笑うのを聞きながら、リリアもわずかに頬を緩めた。

 その日はそのまま部屋で勉強をして、夕食の後はすぐに就寝した。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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