執着
「わしの弟のキフクはな、―― わしとちがって、心根のやさしい、正直ものでな。こどものころはよそでよく泣かされて帰ってくるんで、わしはよくばかにしておった。それが、あの日だけ、 ―― こしがぬけたわしをかばうほど気丈でな。・・・いや、もとから芯がつよくはあった。わしのような見かけだけではなく。・・・そこを、『みかど』に見抜かれた」
わしは、いちどもかばえなかった、とわらいながら、セイテツをみた。
「 そのころから、『力』のあるものたちは坊主や神官としてはたらいて、天宮のヒョウセツさまにまとめられていた。天宮からもどったわしも、商人ではなく、坊主になった」
「ヒョウセツ?」意外な名前がでてセイテツは驚いたが、スザクが首をかきながら、天宮に大臣としてよばれたのはあいつが初めだろ、という。
うなずいたジュフクが、ヒョウセツさまが、あるときみみうちしてきてな、と自分のおおきな耳をさす。
『 坊主のなかで、だれも くちだし できないほどの頂点にたって、これからさきの坊主をまとめる立場になれば、帝とも、じかに話せるだろうね 』
「それで、いまがあるとはいわぬが、まあ、 ―― ここまで生き残ってるみると、その執着でここにおるともいえるかの」
『執着』という坊主にぞぐわぬ言葉がでて、セイテツはドウアンを盗み見た。渋い顔でもしているかとおもった従妹は、ジュフクの経でもきいているような、静かなかおをしている。




