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22 エンドロール

 二人が白馬に乗って森から帰ってくると、庭から屋敷の入口までの道の両側に、衛兵がずらりと整列していました。奥の方にはメイドのサリーや料理長のロイリー、そしてサム爺の姿もありました。

 そしてその一番奥には……すっかり憔悴(しょうすい)しきっている様子の伯爵が、白髭の隊長と門番の青年に両脇を支えられて立っていました。


 王子に抱えられて白馬から降りたペティは、すぐさま駆け出しました。それに気付いた伯爵も、ゆらゆらと頼りない足取りで歩いていきます。

 

「わたしが……愚かだった。何よりも大切なはずのおまえを手放そうとした父を、どうか許してくれ! ……いや、やはり許さなくていい……わたしは決して許されない大罪を犯し――」


 そう伯爵が言い終わる前に、ペティは抱きついていました。少しの間、戸惑いをみせた伯爵ですが、ペティを上から抱きしめます。

 ペティにとって、いったい何年ぶりの抱擁でしょうか。彼女の記憶の中にあるお父様はもっと大きく(たくま)しいはずなのに、今やすっかり痩せ細り、見る影もありません。


「ああ……お父様は苦労なさったのですね。でも私は大丈夫です。たくさんの人たちに支えられて、これまでも十分に幸せだったのです。だから、そんな悲しい顔をしないで……」

「ペティ、おまえという子は……。だが、わたしはたくさんの者たちを裏切ってしまった。取り返しのつかない悪政の限りを尽くしてしまったのだ」

「そうでしたら、今から皆に謝りにいきましょう。きっと皆、お父様を許してくださいますよ」

「……そうだろうか。本当に……皆は……許してくれるだろうか……」

「きっと大丈夫ですよ、お父様」

「……ペティ……おまえ、アンナに似てきたな。いつの間にか若いころのアンナにそっくりに育ったな……」


 ようやく、伯爵の顔に笑みが戻りました。伯爵はそっとペティを引きはがし、王子様のもとへ歩み寄り、地面に膝をついて胸に手を当て、頭を深々と下げて言いました。

 

「王子よ、わたしは娘を裏切り、領民を苦しめるという大罪を犯しました。どうか今すぐその剣でわたしの首をお切りください。その上で……も、もし娘を不憫(ふびん)に思って頂けるのでしたら……娘には何とぞ寛大なご処分をくだされば……ありがたき幸せにございます!」


 伯爵は、ペティが罪人として追われているわけではなかったことをまだ知らされていなかったのです。

 ペティは震える伯爵の背中に、どんな声をかけたら良いのか戸惑いました。すると王子がフッと笑みをこぼして言います。 


「分かった。では、ヴァレン王国の王子の名の下に、ローゼンバッハ伯爵に罰を与えよう!」


 王子様は剣の柄に指をかけ、半身になって一歩踏み出しました。


「ははーっ!」


 伯爵はさらに頭を下げ、目を堅くつぶります。  


「伯爵の爵位(しゃくい)と、貴殿の身はわたしが預るものとする! そして貴殿には領地の再建を命じる! その期限は2年間! もし、改善がみられなければ、爵位と領地は永久に没収するぞ、いいか! さあ、今すぐ必要な人材を呼び戻しなさい。当面必要な資金はわたしが用立てしよう」


「……はっ!? 今、何と……?」


「ああ……王子様! 私もお父様のお手伝いをさせてください! あの……それまで、結婚の約束は待っていてくれませんか?」

「えっ? いや、しかし……きみがそんな苦労をしなくても……」

「いいえ、お父様の罪は身内である私の罪でもあるのです!」


 ペティの決意は固く、王子は少し困った顔をしました。


「わっはっは……、どうやらその頑固さは父親ゆずりのようですな」

 

 白髭の隊長が大きな口を開けて笑いました。



 その後、領地は見違えるように豊かになっていきました。心配された疫病の流行も、すっかり影を潜めています。

 ペティとお父様は、仲良く歩いて農地を回ったり、足しげく町へ通うようになりました。お父様もすっかり領民と仲良しになっていました。

 そして2年後、王子様は約束通りペティを迎えにやってきました。


 国中が二人の結婚を祝福しました。


 それから二人はずっと幸せに暮らしました。





 ――〈あとがき〉――


 じつは結婚披露パレードのとき、ちょっとしたハプニングに見舞われました。民衆のあちらこちらから「ペロ姫さま」という声が聞こえて来たものですから、なんとお茶目なお嬢様は馬車の窓から顔を出し、ペロッと舌を出して笑い返してしまったのです。

 その当時、私はお嬢様のお目付役としての立場でお仕えしていたものですから、その後始末には苦労させられたものです。

 でもそのことが切っ掛けとなって、お嬢様は国民に大変人気者になったのも事実です。ですから、そのことに関してはもう水に流しましょう。

 さて、その後のお嬢様は、近隣諸国から医療分野に優秀な人材を集めて、流行病に効く薬や、怪我の治療法を次々と見つけていきました。そしてその技術を惜しげもなく他国に伝えて回ったのです。

 なにもそこまでしなくても……と思うのですが、お嬢様はどんなにお年を召しても、馬小屋暮らしをしていたあの頃と変わらず、考えるよりも先に動いてしまわれるのです。本当に困ったものです。

 それにしても、あの継母と二人の義姉の正体は何だったのでしょう。未だに謎です。そして、お母様から頂いたという不思議な力の正体も……。

 あ、これも書き記さなければならないことですね。お嬢様のあの不思議な力は、王子様のご病気を治されてからは、すっかりなくなってしまったそうです。本当に不思議です。

 最後に――この物語は、お嬢様に関わった人たちの証言を元に、できるだけ真実をゆがめないように書いたつもりです。でも、どうしても謎が残る部分があり、私の創作話となっているところもありまので、それに関しては本当にごめんなさい。



  この物語をお茶目で高貴な私の友人に贈る――

                    

  ローゼンバッハ領の片隅で。 Sally=Pagliardi


最後までお読みいただきありがとうございます。

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