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第5話 勇者の力

 謁見の広間で、俺達は、武装した近衛騎士を始め、貴族や高級官僚と思われる多くの人々の注目を浴びる事となった。


「あれが、こたびに召喚された勇者達か」

「黄の鎧をつけた武者……〈大地の勇者〉か。いや、頼もしそうだ」

「青い鎧の〈氷雪の勇者〉はなかなかに美形だの」

「赤い装備の娘は〈火炎の勇者〉だな。うむ、思わぬ火傷をしそうな……」

「いやいや。〈聖祈の勇者〉に癒やされたいものじゃて」


 何だか、好き勝手な事を言っている様子で、まるで珍獣扱いだ。

 まぁ、ここにいる人々は欧米人種、いわゆるコーカソイドっぽいので、アジア人的な外見の俺達が珍しいのだろう。

 唐突に、ダンと大きな音が響き、人々は静かになった。

 麗香が、手にした杖で、思い切り床を突いたのだ。

 銀縁眼鏡越しに周囲を睥睨する、その迫力は、アンベルクの人々を圧倒したようだ。


「あ、あれは〈光輝の勇者〉か」

「光を操り、万の軍勢を意のままに指揮すると言われておるが……」

「あの娘を見る限り、その伝説は事実に基づいているようだな」


 ひそひそと、そんな会話が聞こえる中、小姓の一人がよく通る声で先触れを告げる。


「アンベルク国王、アトモンド陛下、並びに、王女クララ殿下のお出ましでございます」


 その場に居た人々が、一斉に片膝を突き、面を伏せる。

 近衛騎士団長や銀髪の召喚師に倣って、俺達も片膝をついたが、ただ一人、麗香だけが背筋を伸ばして立ったままだった。

 ルトガーの、慌てたように窘める声が聞こえた。


「こ……〈光輝の勇者〉。王の御前であります」

「生憎ですが、私はこの国の臣民となった覚えがありませんので」


 麗香はきっぱりとそう言った。

 事を荒立てまいと、俺も声をかける。


「麗香、郷に入りては郷に従えと……」

「私達が承知の上で入った郷であれば、その通りでしょう。ですが、そうではないのではありませんか」


 義妹達の長女は、一歩も譲る気配が無い。

 姉に倣うように、次女と三女も身を起こした。


「言われてみりゃあ、確かにその通りだな」


 郷田がそう言いながら立ち上がると、相沢、由美、原田も立ち上がった。

 こうなると、俺だけが臣下の礼を取っているのもバカらしい。

 立ち上がり、顔を上げると、国王らしい壮年の男性が、射貫くような鋭い視線を向けてきたようだった。

 だが、次の瞬間、国王アトモンドは、うなずくように笑みを浮かべた。


「うむ。確かに、そなた達は我が臣民に非ず。いや、こちらが招いた客人でもあるから、礼を取るのは儂の方であろうな」

「へ、陛下」


 国王の傍で片膝をついていた老人が、泡をくったような表情で言う。

 アドモンド国王は、それを見やって、軽く肩をすくめるようにしてこちらに語りかけてきた。


「すまぬが、こちらも臣民の手前と言うものがある。この場で礼を取るのは勘弁願えぬか、勇者殿」


 第一印象で感じた鋭いものは片鱗も無い。威厳とも無縁の、人の良いおじさんである。


「別に、こちらが偉いと言うつもりもありませんので、それは構いません」


 麗香の返答は、あっさりしたものだった。

 アドモンド国王は、軽くうなずいて見せると、傍らの椅子に座った王女を示す。


「これはわが娘だ。そなたが男であれば、是非とも娶らせたいと思うのだがな。まぁ、年も近かろうゆえ、友人となってもらえればありがたい」

「勇者様。クララと申します。よろしくお願い申し上げます」


 俺達と同年代と思われる彼女は、美しい顔に微笑みを浮かべて言った。


「誰かの臣下になるとか、誰かを臣下にするなどはともかく、対等な友人を拒むつもりはありませんよ」


 麗香も微笑んで言った。

 たまに笑うと、日頃のクールビューティーぶりが嘘のように可愛らしくなる。我が義妹ながら、ギャップ萌えの権化と言うべきか。

 そのやりとりを見た国王が、さすがの威厳で、その場に居た人々に告げた。


「聞いたか、皆のもの。彼ら勇者は、我らアンベルクの客人にして、我が娘クララの対等な友人なり。そのつもりで、彼らを遇し、接せよ。これは国王たる余の望みでもある」

「ははーっ」


 その宣言に、居並ぶ人々は一斉に平伏したのだった。



    ◇◆◇



 謁見が終わった後、昼時だった事もあって、国王を始め、宰相だの神官長だのと言った、このアンベルクの重鎮とされるお歴々との顔合わせを兼ねた昼食会となった。

 もっとも、そうした人々との会話については、麗香が主に相手をしていた。

 一応は社長令嬢として、おっさんや年寄り連中との会食は経験豊富だったようだ。

 たまに他の勇者に話が振られる事もあったが、そうした経験に乏しい大半の〈勇者〉達を麗香は巧みにフォローし、その仲立ちをしてみせた。

 ちなみに、員数外である俺には、誰も話題を振る事はなかったが、コミュニケーション能力の乏しい俺としては大助かりである。


 昼食会の後、俺達は王宮の正面にある軍事教練所とも言うべき、だだっ広い場所に移動した。

 国王を始めとするお歴々が、すでに〈勇者〉の力を示した麗香、美穂、郷田の三人を除く、他メンバーの能力を見たいと言い出したのだ。

 前述の三名以外の火、水、地、風の属性は、屋内で示すには少し物騒と言う点もあり、屋外に移動したと言うことらしい。


「ええと。ヘソの下辺りを意識して……」


 麗香や、黒髪の宮廷魔道師ドロテアから聞いた手順で、〈火炎の勇者〉である由美が意識を集中する。


「やあ!」


 と言うかけ声と共に、由美が手をさしのべた先に、とてつもなく巨大な火球が現れた。


「ひ、ひえええ」


 パニックに陥った由美が慌てて手を振ると、その巨大な火球は瞬時に消え失せる。


「見たか」

「通常の魔道士が百人かかっても、あれだけの炎は生み出せまい」

「いや、生み出した炎の規模もさりながら、瞬時に消して見せたぞ」

「ああ。火の魔法は暴走しがちだが……何という制御能力だ」


 謁見の広間からついてきた見物人達が、驚愕の表情を浮かべて口々に言う。


「むぅ」


 相沢が念じると、先ほどの火球より大きい水の塊が空中に出現した。

 人々の度肝を抜くにはそれで充分だったようだが、それだけでは終わらなかった。


「まだまだっ」


 さらに、何かに集中するイケメンに応じるかのように、その水の塊は氷結し、次いで細かく分離すると雪のように舞った。

 相沢は、生来の魔法的センスというものについて、最も優れているようでもあった。

 氷の粒が陽光にきらきらと輝く、その幻想的な光景に、見物人達は感嘆の念に堪えない様子である。


「見事なり」

「まさしく。〈氷雪の勇者〉に相応しい水の魔法、その妙技と言うところだな」


 その次には、田原が腹に響くような気合いを発した。

 と同時に、地面が割れ、巨大な岩が次々と現れる。

 だが、地震とも思える大きな揺れに、人々は感嘆するどころでは無いようだ。

 その巨大な岩に向かって、鈴音が鋭い動きで手を振った。

 轟、と言う音と共に、重量がどのくらいあったかも判らぬ巨岩が、凄まじい風によって、遙か遠くへと吹き飛んでいった。

 巻き込まれて吹き飛んだ者が居ないのが奇跡のようである。

 〈大地の勇者〉と〈疾風の勇者〉の能力は災害レベルと言っても良いだろう。


 かくして、勇者達の、その絶大チートとも言える能力のお披露目と言うか、デモンストレーションが一通り終わり、その後始末が片づいた頃に。

 員数外である俺の、召喚師としての能力が計られる事となった。

 伝承などである程度は把握されていた〈勇者〉とは異なり、俺の能力は全くの未知数である。

 立ち会いは最小限度の人員、銀髪の召喚師エレオノーラ、宮廷魔術師長ドロテア、近衛騎士団長ルトガー、そして〈勇者〉の面々である。

 これ以外に、ルトガーの麾下にある近衛騎士達が、遠巻きに見守っている。

 召喚魔法とは、異界のモンスターを召喚するだけでは無く、意のままに操るまで出来なければならない。

 だが、召喚した存在が術者の力量を超えた場合、暴走する可能性がある為、警戒する必要があるとのことだ。

 そんな中で、ドラゴンを召喚したい、などと言った俺に、エレオノーラさんが呆れたような視線を向けた。


「ドラゴン……通常は上位種の龍族を指しますが、彼らは召喚するだけならともかく、制御するとなると不可能に近い存在です」

「はあ」

「龍族を召喚と言う事でしたら、無難なところで、下位種の飛龍ワイバーンあたりが宜しいかと思います。私の得意とする召喚獣でもありますので、まずは、やってみせましょう」


 そう言うと、銀髪の召喚師は、実演して見せてくれた。

 彼女が眼を閉じて集中すると、上空に巨大な光の魔法陣が現れた。

 初級の召喚師は、予め描いた魔法陣を用意する必要があるそうだが、彼女くらいの熟達者になると魔力で魔法陣を描く事ができるので、俺の装備(?)にあったような布は必要無いらしい。

 そして、その光の魔法陣から巨大な何かが姿を現した。

 全長にして三メートルか。その長大な羽翼を含めると、とてつもない大きさに見える。


「こ、これが無難な龍族!?」


 すいません、龍族をナメてました。

 俺もそうだが、他の〈勇者〉の面々も、初めて間近で見るモンスターに若干腰が引けている様子だ。

 何事にも動じる様子のなかった麗香も緊張の面持ちである。

 それも当然だっただろう。

 鰐とも蜥蜴ともつかぬ頭部は、それだけで一抱えもある大きさだ。

 その迫力は、俺達の世界にいた猛獣の比では無い。

 金色の両眼は、異界の術者に捕らえられた状況に憤怒の光を湛え、鋭い牙の並ぶ口からは凄まじい咆吼が放たれている。

 だが、魔法陣から伸びる光の糸に全身を絡め取られ、身動きできないようだ。


「召喚したモンスターを使役する場合は、このように魔力で押さえつけている間に隷属の印を刻むのです」


 エレオノーラさんはそう説明し、何事かを唱えると、空中に何か梵字とも紋章ともつかないものが浮かび上がった。

 それが、召喚された飛龍ワイバーンの額に吸い込まれるようにして消えると、翼ある龍族は大人しくなったようだった。


「いつ見ても見事です」

「うむ」


 魔術師長のドロテアが感心するように言うと、近衛騎士団長のルトガーが大きくうなずいた。


「さ、今度はコウイチ殿、やってみて下さい」


 エレオノーラさんに促され、俺は初めての召喚に挑む事になった。


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