第39話 犬鬼達の襲撃
犬鬼と言う魔物は、レベル的には小鬼より手強いが、猪鬼よりは下級とされる魔物なので、五体程度ならさしたる脅威でも無い。
たぶん、マルタとカーヤだけでも撃退するのは難しくない筈だ。
とは言え、装備に問題があるととなれば話が違ってくる。
何しろ、現状では下半身の防御力が皆無と言う状況なのだから。
「逃げるわよ」
マルタは逡巡する事無く決断すると、下着を腰の物入れに押し込み、弓と背嚢を背負うと、そのままの格好で走り出した。
同様な格好のカーヤも後に続く。
装備的に全く問題のない俺が殿を務めるのは当然としても、肉付きの良い桃とやや小ぶりな桃を視野に入れながらの逃走になるわけで、目のやり場には非常に困る逃走となった。
(ローグ!)
俺は飛龍もどきに命じて、犬鬼達を攪乱させると同時に、背嚢から例の両刃な短剣を取り出す為に足を止めようとした。
その途端、マルタが振り返って叱声を飛ばしてきた。
「莫迦、逃げなくちゃ駄目よ。普通の犬鬼じゃない上位種が混じってるわ」
「え?」
その時、攪乱の為に高度を落とした飛龍もどきに向かって、犬鬼の一匹が何かを放った。
「ぴゅいっ」
飛龍もどきは、そのどす黒い何かに絡め取られるや、悲鳴をあげて地面に叩き落とされた。
俺はそれに見覚えがあった。
(影縛り!?)
〈冥闇の勇者〉である郷田も使っていた、闇系統魔法に違い無い。
しかし、犬鬼が闇魔法を使うなんて、指南書に書いて無かったぞ。
「速く逃げて!」
切羽詰まったマルタの声に、俺も慌てて逃走を再開した。
そうしながら、飛龍もどきを還そうとしたが、闇に絡め取られたままで還す事ができない。
特にダメージを受けているわけでは無いようだが、身動きひとつできない状態だと言う事はわかる。
(還せないってことは、つまり、召喚魔法の一部が封じられていると言う事じゃないか)
闇系統は地味ながら厄介だとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
ともあれ、情報収集における要とも言うべき〈使い魔〉が、一時的にせよ失われてしまったわけで、これはかなりの痛手と言えた。
そうした光景まで見たわけでもなかろうが、タイミング良く、前方を走るマルタの食いしばるような声が聞こえてきた。
「まさか、魔導犬鬼までいるなんて」
すかさず、うなじに張り付いているガノンが、情報を伝えてくる。
小鬼や犬鬼のようなレベルの低い魔物は、それだけに多様な上位種が存在する。
そして、今、俺たちを襲っている中に闇系統の魔法を操る上位種もいるようだ。
だとすると、無事に逃げ切れる相手だろうか。
たしか、犬鬼の特徴は、それこそ猟犬並みの足だった筈だ。
そんなことを考えていると、不意に、はるか先頭を走っていたマルタの足が止まった。
「どうしたんだ、マルタ」
「やられたわ。後ろにいる連中は追い子だったのね」
その端正な顔には、歯ぎしりせんばかりの表情が浮かんでいた。
「え?」
俺が状況を飲み込めないでいると、遙か前方の茂みから犬鬼がわらわらと現れるのが見えた。
大きさはアンベルクにおける一般的な大人と変わらない。
ブルドッグのような頭に、ずんぐりむっくりな体型。
どこで手に入れたのか、剣や槍で武装した魔物。
それが、一般的な犬鬼と言う魔物の姿だった。
その中に一体だけ、エジプトのアヌビス神のようなやつが混じっている。
これが上位種たる魔導犬鬼だろう。
愚鈍な上位猪鬼と違って、この上位種は通常の犬鬼を配下として使っているようだった。
後ろを向くと、追いかけてきた五体がスピードを落として近づいてくるのが視認できる。
その中にも、一体の魔導犬鬼が混じっている。
つまり、後ろから追いかけてくる連中から逃げているつもりだった俺たちは、別働隊が網を張って待ち受けている中に巧妙に追い込まれたと言う事だろう。
「闇魔法の隠形で潜んでいたのね。魔導犬鬼が混じっている時点で予想しておくべきだったわ」
そう呟くマルタの口調が苦い。
力で押すだけの猪鬼や、数で圧倒する小鬼と違って、人間並みの狡知さを備えた犬鬼は、最も厄介な魔物の一つでもある。
そんな犬鬼達は、マルタとカーヤに対し、はっきりとわかるほどの欲望の視線を向けていた。
「マルタ、どうする?」
「この布陣じゃ逃げられないわ。小鬼ならともかく、あの数の犬鬼相手じゃ完全に詰みよ」
マルタは吐き捨てるように言うと、背負っていた弓を背嚢ごと降ろし、腰の片手剣も外して放り出した。
そして、身体を覆っている狩猟服――残っている上半分の、あちこちの留め金を外し始めた。
「カーヤ、あんたも脱ぎなさい。どのみち引き剥がされるし、下手をすると皮膚や肉ごと持って行かれるわよ」
それを聞いたカーヤも観念した表情を浮かべ、震える手を狩猟服の留め金に伸ばした。
「お、おい。な、何を……」
「犬鬼は猪鬼と違うの。抵抗しなければ、連中が満足するまで、喰われるのを先延ばしにできるわ」
「え……」
「ま、犯されてる最中でも、手足の二、三本や、腑くらいは覚悟しないといけないかな。でも、早急に息の根を止めるような真似はしないはずよ。うまくいけば、他の冒険者の助けが間に合うかもしれない。ここは仮にもギルドが管理する狩り場なんだから」
「そ、それって……」
「これが猪鬼だったら最後まで戦うしか無いけど、犬鬼なら抵抗の素振りを見せなきゃ生き延びる可能性はある」
青ざめた顔でそう言いながら、さっさと全てを脱ぎ棄て、裸になったマルタは、下ろしていた背嚢から何本かの瓶を取りだした。
一瞬、ポーションかと思ったが、それはブランデーの瓶だった。
「まさか、ギルドが管理する場所で、あんなモノに出くわすとは思わなかったから、ポーションは用意しなかったわ。狩りが終わったら、獲物を肴に一杯やろうと思ってさ」
マルタはそう言いながら、こちらも全て脱ぎ終わったカーヤに、そのうちの一本を手渡した。
「息があっても心が壊れちゃあ、治癒魔法でもどうしようも無いからね。酔ってれば、少しは痛みも紛れるだろうし」
「おい、いい加減にしろ!」
さすがにたまりかねて、俺は叫んだ。
「そんな……諦めちゃ、駄目だ」
「あたしは諦めてない」
マルタはきっぱりと言い切った。
「戦う以外に方法が無ければ、最後まで戦うわ。あたしだって、純潔を魔物に蹂躙されるのは御免被りたいもの。でも、今の状況では、これが生き残るのに最善だからそうするだけ。魔物に汚されようが、生きたまま半分喰われようが、あたしは生き残って見せる。いいこと、コウイチ。冒険者はね、生き残ったら勝ちなの。連中が散々に弄び、嬲りつくしても、息さえあれば高位治癒魔法一発で元通りだわ」
俺は絶句して、マルタを見た。
そう、彼女は最後まで生き残る事を、もしくはその可能性を、何よりも優先したのだ。
その為なら抵抗も装備も、人としての尊厳すらも放棄し、魔物の嬲りものになる事すら平然と受け入れようというのだろう。
犬鬼達が向ける、尋常ではないほどに劣情を滾らせた視線の集中を受けても、その選択には迷いが無いようだった。
(これが……これが、本物の冒険者か)
その、ある意味強靱きわまり無い精神に、俺は戦慄すら覚えた。
だからといって、彼女達が陵辱されるのを黙って見ているわけにはいかない。
他にも手があるはずだ。
それに、俺の〈使い魔〉だっている。
ローグはあっさりと無力化されたが、あいつは高高度からの爆撃を除けばたいした戦力とは言えないやつだ。
「ヴァルガン」
俺は大鬼もどきを召喚し、背嚢から専用の弓矢を取り出す。
ローグは接近しすぎてやられたが、この距離ならヴァルガンの狙撃で突破口が開けるかもしれない。
だが、ヴァルガンが弓に矢をつがえるより早く、魔導犬鬼が再び放った影が、大鬼もどきを拘束した。
「グロム!」
角鮫もどきを召喚し、強力な放水で蹴散らすべく魔力を送り込もうとした時、何かを察知したのか、魔導犬鬼が手をかざすようにした。
そこに火球が現れ、気温の上昇とともに、周囲の空気が見る見る乾燥していく。
これでは水を作り出す事ができない。
装備に潜んでいても、さすがにこの熱と乾燥には角鮫もどきも苦悶しており、俺はグロムを還さざるを得ない。
しかも、火を操るとなれば、雑草もどきのドレイグとの相性も最悪で、毒液の攻撃も不可能だろう。
打つ手を悉く塞がれる俺に対し、マルタは冷静な声で指摘してきた。
「上位の犬鬼――知性ある魔物ってのは、なまじっかな力押しで何とかなるようなものじゃない。もっと厭らしい、搦め手の極みと言うべきものなのよ。今後の為に覚えておきなさい」
その、自分の言い放った言葉の末尾に、はっとなった女冒険者は、悲しそうな眼で俺を見つめた。
「悪かったわ。女のあたし達は、少なくともあいつらに犯されてる間、生き延びることができるけど、男のあんたは……」
そこまで言うと、マルタはそっと俺に抱きついてきた。
「本当にごめんね」
「あたしも、謝らなきゃ。結局、何も返す事ができなかった。ごめんなさい」
そう言いながら、反対側からカーヤも抱きついてきた。
彼女の、これまで意識しないように勤めていた、美穗も顔負けの巨乳の感触が妙に生々しい。
(嘘だ、嘘だろ……)
俺は何も考えられず、彼女達の肌のぬくもりを感じることしかできない状態だった。
状況の変化が大きすぎて、頭が追いついていかない。
なにしろ、ついさっきまで、色々と困惑しながらも、冒険者としてのレッスンを始めたところだったのだ。
そうだ、俺は冒険者として始まったばかりなのに……たかが犬鬼程度の魔物が現れたくらいで、全てが終わるようなものだったのか。
魔物達は、俺が手詰まりとなったと見るや、じりじりと距離を詰めてきた。
一気に襲ってこないのは、慎重なのか、獲物が恐怖におののく様を楽しみたいからなのか。
「カーヤ、連中が襲ってくる前に、飲めるだけ飲んでおいた方がいいわ。コウイチも、少しでも苦しまないように。それとも、また、あたしが飲ませようか」
最後の覚悟を決めたようにそう言いながら、マルタが栓を外したブランデーの瓶を差し出してきた。
その芳香を嗅いだ瞬間、俺は昨夜の出来事を思い出した。
(そうだ、オリヴァーさんと、このマルタに……飲まされたんだ)
ノーカンと言う単語が真っ先に思い浮かんだが、それはとりあえず置いておく。
大事なのは、その後だ。
俺はマルタの持つ瓶をひったくるようにして、一気にラッパ飲みした。
「コウイチ!?」
マルタの、驚きと若干の抗議が入り交じった声には構わず、俺はひらすらブランデーを嚥下する事に集中する。
たちどころに、その酒精が効果を発揮して、俺の視界が歪み、世界が回り始めた。
ブランデーに限った話ではないが、酒は最古から存在する向精神薬の一つである。
そのアルコールが体内でもたらす化学反応は、大脳皮質を麻痺させ、いわゆる「人が変わる」と言う現象までいきつく。
それは、往々にして混乱や無秩序をもたらし、いくつかの宗教で酒を禁じる理由ともなっているが、一方では儀式に用いられたり、神への捧げものであったり、至高の存在との一体感を高めるための飲み物だったりするわけだ。
そして、昨夜の俺は、この酩酊によって、何かと一体化、あるいは交信した筈だ。
「……とは言うものの、これは効くなぁ」
オリヴァーさんが鍛錬不足と言っていた通り、俺は完全に酔っ払っていた。
あ、オリヴァーさんで思い出した。
以前、こんな事を言っていたっけ。
『いざとなったら、魔法陣を内向きにするんだ。たぶん、それがキーだ』
そうそう、内向き、内向き。
てか、前に内向きにした筈なんだけど、何でかな、いつの間にか外向きになってるんだ、こいつは。
そんな事を呂律の回らない口調で呟きながら、俺はポケットから取りだした魔法陣を内向きにして、再びしまいこんだ。
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
さすがに、マルタが心配そうに話しかけてきた。
ひょっとして、追い詰められておかしくなったと思われたかもしれない。
てか、そもそもが大丈夫どころじゃないこの状況で、俺の心配をしている場合か。
そんな事を考えつつ、俺は更にブランデーの残りを嚥下していった。
ますます酔いがが回り、思考が不明瞭なものになってくる。
そうだ、昨夜もこんな感じだった筈だ。
思い起こせば、あの居酒屋での葡萄酒を巡るやり取りで、ザガードやヴァルガンがアピールしてきた本当の理由。
それは、自分達が飲んで楽しむ為では無く、俺に必要だったからではなかったか。
(ああ、そう言えば……あいつの芸がまだだったな)
昨夜の顛末を思い出し、俺は不意に笑いの発作にとらわれた。
急にゲラゲラと笑い出した俺を、マルタとカーヤが強張った表情で見ている。
まぁ、いよいよおかしくなったと思われても仕方が無いか。
俺は、そんな二人の女冒険者に、笑いながら言った。
「昨夜、披露しそびれた芸を見せるぞ」
「はえ?」
呆気にとられたようなマルタとカーヤに少し下がるように言うと、二人は大人しく指示に従った。
いや、これはどん引きしていると言った方が正しいだろうか。
そして俺は、酔った勢いにまかせ、咆吼するかのごとき声を出した。
「うぉおおおおおっ」
丹田から沸きだした魔力――いや、それがこの世界で言う『魔力』と同じものでは無いことが今ならわかる。
神酒による向精神によって著しく密度を高めた「それ」が、丹田の位置に魔法陣として現れ物質化する。
なおも噴出する「それ」は、魔法陣から左右に伸びて腰の後ろで結合した。
つまり、魔法陣をバックルとした、ベルトを締めたような状態となったのだ。
言うなれば、魔法物質とも言うべきそれの中を、いくつもの波動が循環していくのを感じる。
「出でよ、ザガード!!」
俺の召喚に応じ、その循環で増幅された「それ」が、再び丹田へ、そして尾てい骨へと抜けて、背筋を通り眉間に集中する。
と同時に、俺の意識がまたしても暗転する……。
◇◆◇
二人の女冒険者が、いろいろと台無しになるような驚愕の表情を浮かべていた。
マルタの『眼』は大きく見開かれ、その口が幾度か虚しく開閉し、ようやく「か、か、皇獣?」と言う言葉を吐く。
一方のカーヤは言葉も無い様子だった。
それにしても、揃って腰を抜かし、大股開きな格好になっているのはいかがなものかと思う。
明らかに、見えてはいけないところまでさらけ出している筈だ。
(この形態じゃあ視力が弱いから、ぼやけてよく見えないのはさいわいだったな)
そんなふうに考えている俺は、確かに久門光一には違い無かった。
腰にあるベルトのような魔法物質を確認し、本来有るべきプロセスによって、何とか意識が保たれていることを確認する。
そして、俺以外にもう一つ。
オリヴァーさんが〈装魔の勇者〉と並んで呼称する、『といへる何とか』の自我と呼ぶべきものも確かに存在した。 それは、装備の中に宿っていた何かの意思、もしくは残留思念の類いだったようだが、今はこのベルト状の魔法物質の中に顕在化しているのだ。
そいつの記憶から、いくつかの事もわかったが、とりあえずそれは後回しだ。
何しろ、二つの自我意識を持つ状態は、感覚の共有と比べて精神にかかる負荷が半端じゃない。
いずれは慣れるとしても、ヴァルガン謹製の神酒による向精神効果と、還すのを忘れて出しっ放しにしていた無殻のサポートによって、こうして物質化して外出しにしなければ、今の俺ではまたしても意識を失っていただろう。
そうだ、俺がガノンと名付け、未だにうなじに張り付いているこれはスライムなんかじゃない。
よく考えてみれば、こんなスパコン並みの演算能力を備えたスライムなどいるものか。
つまり、こいつも『スライムもどき』だったわけだ。
(ガノン、もう少しサポートを頼むぞ)
俺の発した思惟に、ガノンが『肯定』の意思を返してきた。
影に束縛されたままのヴァルガンやローグも、応援するような思惟を放ってくる。
自分自身が見えるはずも無い俺が、皇獣の形態――ザガード・フォームとなった〈装魔の勇者〉が、どんな姿をしているかがわかるのは、そいつらのおかげでもある。
身長三メートルの、美しい白銀のような毛皮で覆われ、ベルトを締めたシャープな体格の獣人とでも言おうか。
剣のような巨大な牙と、金色に輝く瞳を持つ容貌は、もっと神々しい印象があるが、狼に類似していると言えなくもない。
まぁ、犬鬼と言う魔物に対するにはお似合いかもしれない。
その犬鬼達も驚愕しているようだったが、さすがに上位種の一体は反応が早かった。
闇を放とうしたのか、人間には聞こえない領域の声で呪文を唱え始めたのだ。
すかさず俺は咆吼を放ち、その呪文を形作る音を粉砕した。
その咆吼を持続しつつ、音域を上げると共に、マルタやカーヤに危害を及ぼさないように出力を絞った。
「UGaAA」
アヌビス神のような魔物は苦しそうに呻き、そして鼻や口は元より、耳や目元からも血を吹き出して息絶えた。
一種の超音波による共鳴で、その頭蓋は砕けている筈だ。
『貴様らも異界から来た魔物なら、俺がどういう存在か分かるだろう』
怯んだように見える他の犬鬼達に、俺は思念で語りかけた。
挟撃作戦を行うほど知能が高い魔物なら意思疎通が可能ではないかと考えたのだが、様子を見ると通じているようだ。
『上位種に成り上がったと言えども、犬鬼ごときが勝てる相手では無いぞ。今後、二度と人間に手を出さぬと誓い、大人しく引くなら、他のやつらは見逃してやる』
攻撃してくれば容赦はしないと言う姿勢を見せながら、そうした降伏勧告をしたのは、多少は『ベルト』の影響を受けつつも、久門光一としての俺が、魔物と言えども血肉を備えた人型の生き物を殺す事に抵抗を感じたせいだ。
異類のものの誓約は、隷属の印と同様、魔道的な意味を持つから、これが破られる事は無い筈だ。
『ぐ……』
残った上位種の一体が、俺に思念を返してきた。
『笑止な。あの御方との盟約をもって上位たる身を得た我らが、そのような戯言を肯うものか』
おや? その上位種の一体をあっさりとやられた割には、意外に強気なリアクションだ。
『闇色の眼に金色の瞳。伝説にある皇獣か。まさか、そんなものが顕現していたとは思わなんだが、遙かなオムーより我らに語りかけてきた、あの御方に比べれば何ほどの事は無い。貴様こそ、あの御方に忠誠を誓うと言うなら、我らが取り次いでやってもよいぞ』
オムーと言う地名が示すもの、それは一つしか無い。
やはり、頻発する上位種の出現には〈禍神の使徒〉が関わっていたようだ。
おれと同様に思念で語りかけてきて、盟約を交わした個体が成り上がると言う事か。
いまひとつ仕組みやら個体の選択基準が分からないが、とてつもない遠距離から思念を飛ばしてくると言う一点だけでも、そのパワーのほどは理解できる。
さすがは、神の一部と言われるだけの事はある。
『いかな皇獣であろうとも、たかが一匹では、神の力を持つ〈使徒〉に刃向かえるものではないぞ』
アヌビスのような魔導犬鬼が、逆にこちらを威嚇するような構えをみせた。
『それが証拠に、〈禍神の使徒〉に与えられし力がどれほどのものか、今、見せてやろう』
そう言い放つと、その個体は、あの禍々しい魔法陣に包まれた。
そして、それと同調するように、他の犬鬼達も、一斉に同様の魔法陣に包まれたのだった。
やはり、変身とくれば、ベルトがつきものでわ。
関係ないですけど、アマゾンズは良いですね(個人的意見)
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